106.これもデート?
ジェミーとのお出かけの日。
他が学園祭の準備で忙しいので、手が空いてしまったという理由によるものだ。
さらにいうと、ジェミーがそんな長々と時間は取らせないというので、じゃあやるかとなった。
待ち合わせ場所はブリトン王国王城ウォーリック。
なんでそんなところで待ち合わせるのかわからないが、俺は城に向かう。
城の中に転移するのは可能といえば可能。
だがそれは失礼なことであるので自重する。
そもそもいきなり国王など国の重要人物がいるところに転移ができるようでは、警護のしようがない。
だから、建物に転移術を防ぐ付与魔法をかけて封じるのが一般的である。
もちろんそんな付与術は簡単なものではなく、城全体にかけるのは大金がかかる。
なので一部にだけかけているというケースも珍しくはない。
ウォーリック城も全体にはかけておらず、内部への転移が可能な場所はある。
まあそもそも、その転移封じは邪神族の上位転移術は封じれてないので、俺はどこにでも転移できるんだけどな。
俺は城の前に転移して城門へと歩いていく。
門番は要件を告げるとすんなり通してくれた。
待ち合わせ場所にいくと、知らない兵士が待っていて案内される。
案内された場所は兵士の訓練場であった。
その中央でジェミーはマントで体を覆い隠して立っていた。
他に誰もおらず、貸し切り状態である。
「なあ。俺たち何をするんだったっけ?」
開口一番俺は尋ねる。
「それはデー……じゃなくて特訓だろ」
ジェミーが答えた。
「今まではどこかの町に二人で出かけてたんだけど?」
そもそもは俺の修行のためである。
いつもとは違うシチュエーションで二人で過ごす。
その中にちょっと過激な演出があったりなかったり。
「うん。アタシはそういうの似合わないかなって思ってさ。だから、やっぱこれっしょ」
ジェミーは斧を構えた。ラグナロクである。
「そういえば結構前に1度戦ったきりだったな」
「女と戦おうとすると体がすくんで動けなくなるんだろ?」
「それは昔の話だ。今はもう平気」
「そうらしいな。だがこれはどうかな!」
ジェミーはそうは言うが、動こうとはしない。
俺は首をかしげた。
「いやでもこれはいくらなんでも……」
ジェミーが小声でつぶやいている。
「ええい! やっちゃるでえ」
しばらく逡巡していたが、覚悟を決めてジェミーはマントをバサッと放り投げた。
当然ながら、その下には防具を着込んでいた。
「mnくぁそrrえあ(訳:なんだそれは)」
俺は完全に精神をかき乱された。
「すきありいいぃ!」
ジェミーが俺に突撃してきて、ラグナロクを振るった。
「ぐわあああああぁ」
俺の体は切り裂かれ、鮮血が舞った。
「あちゃああああ。やりすぎたかな。すごい頑丈だから大丈夫って聞いてたけど」
いや、問題なく平気なんですけどね。
問題は違うところにあった。
「なmぁdろそのヴぉーzわy!(訳:なんなんだよその防具はよ!)」
俺は起き上がって問う。
ジェミーは普段とは比較にならないほど露出度の高い鎧を着ていた。
というかもうビキニタイプの水着と同じ部分しか守っていない。
「何言ってるかわからないが、聞きたいのはこの鎧のことだろ」
俺はジェミーに頷く。
「特注の防具、ビキニアーマーさ」
ジェミーは自慢げなのか、恥ずかしげなのかよくわからない態度であった。
――ビキニアーマー。
やたらと露出度が高い鎧。
でも鎧としての機能はほぼない。
ほとんど守っていない。
ゲームであれば、『ビキニアーマー:防御力60』とでも表記されるであろう。
その場合この表記を特に気にする必要もない。
しかし現実は違う。
そもそも守っていない部分に当たっては防御力とかないわけで。
一方、完全に全身を覆う鎧は、それはそれで重い。
なのでどこまで体を覆うかは人それぞれである。
しかしまあここまで露出させるアホはいない。
ゆえに一般的に売っているはずもなく、特注しなければ手に入らないであろう。
「最高に動きやすいな。これはこれで悪くないぞ」
ジェミーは一人頷いているが、ならもう金属の鎧をやめて普通の服を着てればいいんじゃないかな。
この世界は各自が持つ気と言うものによって守られている。
人気、魔気、邪気といったものだ。
それが防御力に多大な影響を与えている。
それにスキル、結界、魔法や特殊アイテムなどの効果でさらに補強される。
なので、物理的な硬さを持つ防具の重要性はそれほど高くはない。
もちろんあったほうがいいのは間違いないが。
敵の攻撃を受けやすい盾職であれば金属鎧が無難ではある。
「もう1発いくぞ!」
「ぎえええあああぁっ」
俺は心が乱れ、結界が発動しない。
邪気も出していない。
ゆえにラグナロクで切りつけられればそれなりのダメージをうける。
生命力が桁違いなので死ぬことはないし、即座に再生していきますけどね。
「せいっ」
ジェミーの追撃を俺はかわす。
「おろっ?」
ジェミーが素っ頓狂な声を上げた。
かわされるとは思っていなかったのであろう。
「ふう」
落ち着け。水着なんて見たことがあるだろ。
この程度で動揺する必要はない。
「この姿にもう慣れただって……?」
「ああ」
「やっぱりアタシなんかがこんな格好したって効果が薄いってことだよな」
なんかいきなり落ち込みだしたぞ。
「いや、最初は効果があったぞ」
「でもすぐ立ち直ったし」
「それは俺の成長をほめるべきだな」
「いやでもさあ……」
なんかウジウジし始めた。
しょうがないなあ。
「ジェミーはすばらしい体つきをしてるだろ」
「ほぇ!?」
ほめられることに慣れていないのか、ジェミーの顔が真っ赤に染まる。
大柄で筋肉質ではあるが、女性としての丸みはきちんとある。
胸もお尻も大きめであるし、顔も非常に整っている。
「ジェミーは十分魅力的だと思うよ」
俺の言葉に口をパクパクさせて言葉が出ないジェミー。
「すきありぃ!」
俺はジェミーを掴んで投げ飛ばした。
ついでに武器を奪う。
この武器がなければ俺が負けることはありえない。
「いてててて」
「やられっぱなしと言うわけにはいかないんでな」
「こ、こんな手に引っかかるなんて。あたしとしたことが」
「いや、言ったことに嘘はないぞ」
「にあああああ」
ジェミーが再度顔を真っ赤にして慌てる。
これはこれで楽しいな。
「何やってんのよ……」
遠くからこっそりこちらを窺っている女性がつぶやいた。
人ならば聞き取れるわけがないであろうが、俺の邪耳はそれを逃さない。
勇者フィオナ・スペンサーであった。
この行動はフィオナの入れ知恵ということなのだろう。
まあ学園の先輩であり、ジェミーも尊敬しているようだった。
相談相手にフィオナを選んだのはジェミーとしては当然だったのかもしれない。
しかしあの人は恋愛経験豊富というわけでもないし、頭おかしいし。
明らかに相談相手間違ったな。
俺はしばらくジェミーをからかうのであった。
修行になったのかはよくわからない。
ただ楽しめたのは間違いなかった。