104.学園祭準備
宗教紛争が終わり、俺はいつものようにカンタブリッジ学園へと向う。
学園の雰囲気はいつもと違っていた。
なにやら浮ついているといっていいだろう。
教室もやはり騒がしい。
「おはよう」
俺に気付いたユーフィリアが軽く手を振る。
「おはよう。何かあったのか?」
俺は自分の席に座る。
数人でグループを作って、あーでもないこーでもないと話し合っているようだ。
俺が学園に通うようになってから、何かと騒動に巻き込まれている。
またそういったものかと思ったのだ。
「違いますよ。これはいわゆるアレです。学園祭シーズンと言う奴です」
ティライザが机に頬杖をついていた。
痛々しい包帯はまだ取れないようだ。
「一般の学園とは少し趣が違うイベントもあるそうです」
同様に包帯が巻かれているアイリスが答える。
「もちろん喫茶店みたいのとか、屋台は出るらしい」
ジェミーは楽しそうにしていた。
お祭り好きという奴なのだろう。
「学園祭か……」
俺は遠い目をする。
1000年以上も前の話だが、前世でも当然学園祭はあった。
俺はそのときの楽しい思い出を思い出そうとし――。
なかった。
そんな思い出はなかった。
「ちょっと、いきなりどうしたの」
ユーフィリアが慌てる。
「いきなり泣き出すとか。学園祭で嫌な思い出でもあるんですかね」
ティライザが呆れている。
「やかましいわ」
「図星でしたか」
「嫌な思い出などない。ただし、いい思いでもない」
「よしよし」
アイリスが俺のところまで来て、頭をなでる。
あやしているつもりであろうか。
「アシュタールって東方の田舎出身って言ってたよね」
ユーフィリアが首をかしげた。
「そんなところに学園はないですね」
ティライザが頷く。
「でもアシュタール自身は羽振りがいいから、一応地元の名士って奴かな」
「はい。だから息子をどこか遠方の学園に入れようとしたのでしょう。ちょうど見学に行ったのが学園祭だったのかもしれません」
「そしてひどい目にあったのね……」
「いや、だからそんな目にはあってないって……」
俺が小声で否定するが、彼女らは聞いていない。
「よしよし」
アイリスが再度俺の頭をなでる。
「そして女性恐怖症になって言葉がおかしくなったのね」
ユーフィリアが結論付ける。
「なるほど。謎が解けました」
ティライザが顎に手をあてて頷く。
いや、色々間違ってるけどな。
「大体学園祭でトラウマになるってなんだよ。普通ありえないだろ」
ジェミーの一言が俺の心をえぐる。
ひどい目にあうことはなかなかないが、ぼっちでさびしく過ごすことはよくあるんだよ。
「で、学園祭で何をするんだ」
俺は話を変える。
カンタブリッジは普通の学園ではない。
特に冒険者コースなんて普通の学校とはぜんぜん違うものだ。
クラスの催し物も冒険者らしいものになるのだろうか。
「それをみんなでワイワイ話し合ってるのよ。何を催すか」
「無難なのはお店を出すことですね。飲食系で」
ユーフィリアの説明にティライザが付け加えた。
「あとはお化け屋敷とかでしょうか」
アイリスがお化け屋敷なんていってていいのだろうか。
司祭なんだが。
「普通だな。冒険者コースらしいのはないのか」
俺が問うと、ユーフィリアが腰に手をあてる。
「冒険者としての見世物は各種クラブ活動の担当ね」
剣術クラブはその剣技を披露するし、魔術クラブは魔法を実演してみせるらしい。
「ダンジョン攻略部は?」
「ダンジョン部よ……」
ユーフィリアが苦笑いした。
最近活動していないせいで部活の正式名称も忘れていた。
「ダンジョン攻略の実演はできないから、資料をまとめておいておくだけかな」
「最近はダンジョン攻略が流行っているそうですから。それなりに人が来るかもしれませんね」
妖精さんのがんばりによって人はダンジョンに興味を持ち始めた。
しかし賢者であるティライザは不思議に思っているようだ。
「まあ何が起きてるのかよくわかりませんけどね。とりあえず宝があるならそれでいいって人がほとんどですが」
その他には運営が主催する武術大会もある。豪華商品が出るそうだ。
あとはミスコンも開かれる。もっとも、その話になると4人は苦々しげな表情になった。
「そんな見世物はお断りね。一応私はお姫様だし」
「今更可憐な姫様ぶっても無駄ですよ。普段の活動を国民も知ってますし」
「あら。じゃあ代わりにティルに任せるわ」
「無駄に露出度が高い衣装が求められるんでしょう。そんなのお断りですね」
「女性を容姿だけで判断するなど女神も望んではおられません」
「大女がそんなものにでてもなあ……」
何か触れてはいけないことに触れてしまったのだろうか。
いや、俺が話題にしたわけじゃないんだが。
「とにかく、アシュタールの修行にふさわしい日ということね」
ふさわしい日なのかどうかはわからないが、ふさわしくない日なんてあるわけない。
修行をすることに問題はないだろう。
「じゃあその日は私と――」
何かを言いかけたユーフィリアの肩をティライザが掴む。
「ユフィは当日忙しいんじゃないですかね。部長ですし」
「あなただってクラブ一つ持ってるじゃない」
「半分休眠してるようなクラブですので。最近は何も活動してませんし」
「ぐぬぬぬぬ……」
「ふふふ……。一人だけ抜け駆けなんてさせませんよ」
よくわからないが、ユーフィリアとティライザが怪しい表情で言い争いをしている。
「私もブリジット教団のイベントはありますが、それ以外はあいてますよ」
アイリスが控えめに告げる。
「あ、あたしはいつでもオッケーだ」
ジェミーが上ずった声になった。
4人はしばし火花を散らしあった。
俺がよくわからずキョロキョロと見ているさまを見て、皆ため息をつく。
「順番を決めましょうか」
4人は頷きあう。
こうして俺の学園祭のスケジュールは埋まったのであった。