103.邪神会議③
暗黒神殿の会議室。
そこにいつもの顔ぶれが集結していた。
邪神である俺。
お目付け役の爺やことエウリアス。
そして15人の軍団長である。
「では今月の標語は『ガンガンいこうぜ』になります」
爺やが議事進行をしている。
「何をガンガンいくのかは知らんがな」
俺がポツリとつぶやく。
「そろそろ外での活動を増やそうと思いまして。もっと外に出たいと言う者もおりますし」
ガレスが代表して答えた。
今までは外で活動する者の数には制限があった。
全員が好き勝手に外を出歩けたわけではない。
さすがにそんなことをすると目立ってしまう。
人間と邪神族とじゃ考え方とか強さが違うので、問題起こす奴も出てくるだろう。
それはちょっとどうかと考えていたのだ。
まあ蓋を開けてみれば、色々動いて目立った上に騒動を起こしたのが私です。
わたしです。
なのでもういいかなと。
標語を決める際に、その話をしたらこいつらがすごく食いついてきた。
意外と不満が高まっていたのかもしれないな。
「次の議題なのですが、先日謎の消失事件が起きたハミルトン要塞についてです」
「謎だなー。なんでいきなり消滅したんだろうなー」
俺が軽いノリで言って、ツッコミを待つ。
しかし誰もつっこんでくれなかった。
全員顔をそらした。
「おい、ノリが悪くね?」
「我々でもあの魔法をくらうと命が危ないので……」
第八軍団長モルゴンが恐る恐る述べる。
軽くつっこめるようなネタではなかったらしい。
いや、つっこみ返しでカタストロフィーを使ったりなんかしないんだが。
「それでですね。次の魔王が発生した際ハミルトン要塞がないのは、ちょっとよろしくないかと思われます」
爺やが本題に話を戻す。
「確かに。次の魔王は魔災になる可能性が高いからな」
俺が頷く。
「なぜわかるのです?」
ジェコが首をかしげる。
「次の魔王の強さというのは、前回の魔王の倒され方で変わる」
アドリゴリが説明する。
「ほう」
「魔王が発生してから倒される期間が短いと、次の魔王が強くなる傾向にある」
「弱い魔王の次は強い魔王が出やすいということか」
「そういうことだな。あくまで傾向。魔王の強さはランダム要素が強いから、弱いのが出てくる可能性も少なくはないんだが」
「だったら弱い魔王が出たらしばらく放置しておけばよかろう」
ジェコがもっともな事を言った。
アドリゴリも同じ考えには至っているだろうが、首を左右に振る。
「人間はこの魔王の仕組みを知らんからな。長年観察している我らだから気付けたのだ」
「正確に言えばアシュタール様が気付きました」
爺やが一言付け加えた。
「さすがですな」
ジェコが賞賛の声をあげる。
「趣味が観察だからな。1000年も閉じ込められているとそういうことを無駄に考えてしまう」
そんなにマメにではないが、日記をつけている。
読み返しているうちに気付いてしまったのだ。
「それを人間に教えてしまうおつもりで?」
ジェコに問われて俺はふと考える。
これを人間に教えれば、人間はどう行動するだろうか。
魔王を倒すのをできるだけ遅らせるであろう。
魔王は突然、予兆なしに現れる。
魔王は部下と同時に発生する。
部下を倒し、魔王城に追い詰めたあとしばらく放置すると、魔族は徐々に数を回復することがわかっている。
繁殖している様子は無いようなので、ゲームのように突然POPするようだ。
そのため、わざと魔王を延命させても人間の犠牲者が増えるだけ。
ずっと大軍で魔王城を包囲する負担も大きい。
今まで人間はそう考えてさっさと魔王を討ち取っていた。
しかしこの情報が加われば事情が変わるであろう。
強い魔王を避けるために、ある程度時間を置いてから倒すようになる。
「所詮は推測にすぎん。教えるにしても、あくまでそういう説があるという論文発表形式かな」
「それならちょうどいい教授がおります」
爺やが言う教授とは誰のことか。
俺は考えることを放棄した。
「誰かは知らんが、その教授によろしく伝えてくれ」
爺やは「かしこまりました」と一礼する。
「俺の知ってる限り、前回の魔王討伐は最速だな。まあ最弱でもあった」
弱い魔王ならあっさり倒せる。
魔王討伐は最高の栄誉。
弱いとわかったら我先にと魔王討伐競争をすることもある。
その争いに勝ったのがユーフィリアたちであった。
「そういうわけで、ハミルトン要塞を何とかしようと思います」
「何とかといわれてもスコットヤードが建て直すだけじゃないのか」
「それだと強い魔王には対抗できません。スコットヤードも巨額の資金を投じて作った要塞が、クレーターになって途方にくれてるようです」
ハミルトン要塞消滅からまだ日も浅い。
すぐに再建する気にはならないのだろうか。
「それで?」
「我々であそこに要塞を作ろうと思います。人間には作れないレベルの技術を用いて」
「なるほど。魔災時に我々は人間に手を貸しているが、次回は新生ハミルトン要塞がその役割を担うのか」
「御意」
爺やは短く返答した。
「誰が作るのかは……聞くまでもないかな」
ジェコは第十一軍団長イスティムを見る。
「なかなか面白そうな企画ですな。最高の要塞を作って見せますぞ!」
イスティムはノリノリである。
「最高の要塞を作ってしまっていいのかな」
俺は首をかしげる。
やりすぎるとオーバースペックになってしまうからな。
「その辺はまあ工期を見ながらということで」
「それもガンガンいくのだな」
アドリゴリが標語の確認のような意見を述べた。
「外側をすべてオリハルコンにしてしまえば、魔族にはそうそう壊せなくなるだろう」
ジェコが気軽に言うが、それはガンガンいきすぎじゃないですかね。
「無茶言うな。そんな大量のオリハルコンを加工するだけでもすごい大変だぞ」
イスティムがジェコに苦言を呈した。
「では新生ハミルトン要塞建造計画は承認ということで」
爺やの言葉に皆が頷く。
満場一致で承認されたのであった。