セリア
*
友達なんていなかった。
「上」ではみんなが私の事を嫌って……
なぜだろう。生まれた時からずっと、居場所なんてなかった。
『神様にお仕えする身で』
『才能もない出来損ないのくせに』
『光るのはその黄金色の髪ばかり』
『天使なのに』
『なんて下品な』
みんなから嫌われた。
『いやしい心』
『きれいな魂なんて運べるわけがない』
『天使の誇りに反する』
『お前なんか』
─────不幸にしかできない
*
「シェリア?」
「あ……」
ハッと我に返った。ルークが心配そうに私を見つめていた。
「ごめんね……」
私はルークの頭を撫でた。ルークは嬉しそうに碧色の目を細めた。
「あー……で? 今日はどこに行くの?」
「あのねー 今日は川むこうのお花をつみにいくんだよ」
「あら、初めての場所ね」
ルークは得意げにちいさくうなずく。
「あったかくなってきたからはるのお花が咲いたんだって はるのお花いっぱいつむんだぞ!」
そういうと、ルークは目を光らせて駆け出した。 咄嗟に嫌な予感がして、私は慌てて呼びかける。
「待って、そんなに急ぐと危な……」
予感的中。案の定、ルークは小石につまずいたのかビタンッと音をたてて豪快に転んだ。
「しょうがないわね……」
びええええ、と泣き止まないルークを抱きかかえた。まるで自分が子守りの人のようだと私は思う。
「あっ、こら」
ルークが羽で涙を拭いだしたのでやめさせようとしていた、その時だった。
「まぁ セリア」
ふいに、肩の辺りで声がした。声のほうに顔を向けると、三人の妖精が飛んでいた。
「また降りて来ているの?」
そういったのはストレートの長い黒髪を下ろしているリリィだった。
「最近ずっとこっちにいるのね」
「アルフレッドはどうしたの?」リリィを遮ってルークの周りを飛んでいるのは短い茶色の髪のローザ。
「泣いてるの 何か悲しいことがあったの?」と心配そうにルークの顔を覗き込むのは金色の髪をポニーテールに結っているフロリンダ。
彼女達は私に付いている妖精だった。三人ともルークを心配そうに見つめている。
「さっき、つまずいて転んじゃったのよ」私はルークをあやしながら答えた。
「まあ大変!」妖精たちはルークの顔の近くに集まる。
「大丈夫? ルーク」とリリィ。
「痛かったでしょう ちゃんと起き上がってえらいわね」ルークの肩に座るローゼ。
「けど、セリアがいればもう大丈夫ね」頭の上を飛び回るフロリンダ。
彼女達の言葉に、ルークはぐすぐすと嗚咽しながらうんうんとうなずいていた。
リリィが明るい声を出す。
「川向うのお花畑に行くのね 今はとってもきれいよ」
「ほんと!」
ルークがぴょこっと顔を上げた。
「春の精が来てお花達を芽吹かせていったのよ」
「ピンクと黄色のお花がたくさん」
「四葉のクローバーがあるわ」
三人が口々にそういうと、
「わぁ すごい!」
涙はどこにいったのか、ルークはいつの間に泣き止んで目を輝かせていた。
「たのしみだなぁ はやく見たいなぁ」
無邪気な笑顔を見せるルーク。
妖精とのやり取りを見ていて、私はただただ驚いていた。
私が見える。
妖精も、精霊も、
空気、星、風、波
生きとし
生けるものすべて
「あなた、本当は天使なんじゃない?」
ルークを見つめながら言ったこの言葉に、幼い少年は首を傾げた。
─────すべての世界が見えた
すべてと話ができた
「シェリア!」
視界に入ってきた光景にルークは目を輝かせていた。
「あそこだ!」
そういうと、ルークは飛び降りた。
川向うでは青空と花畑が、青とピンクと黄色と緑の色彩の風景が、どこまでもどこまでも続いていた。
そこで顔いっぱいに笑顔を浮かべながら花をつむ少年は、ただただ愛おしくて。
「はい」
ルークが私に鮮やかな黄色のたんぽぽを手渡す。
私も笑顔で、つんだピンクの可憐な花を頭に飾ってあげた。
私はただただ、幸せを感じていた。
─────むかし
天使だった頃に