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出会い

 僕は見たんだ。

 今まで、絵本だけでしか見たことのなかった、

 『空を飛ぶ人』を────。


 *


 この前から冬になった。冬なんて大嫌いだ。この季節になると、絶対にママは毛糸の帽子をかぶれって言ってくる。あれ、チクチクしててイヤなんだ。

 それに、なんていったって寒いもん。

「ルーク」

 ママがさっきから僕の名前を呼んでる。

「ルーク そろそろ起きなさい」

 ベットの温もりが心地いい。僕は大好きなシロクマのぬいぐるみを抱きしめる。まだ寝てたい。それにしてもおかしい。ママは今までこんなにしつこく起こしてくることはなかったのに。小学校だってまだ始まってないし、なんでこんなに早く起こされなきゃいけないんだろう。

「外を見てごらんなさい」

 僕は目を硬く閉じる。ママは一体なにを考えているんだ、窓の近くは一番寒いんだぞ。

 けど、次のママの言葉で、僕の眠気は一瞬で吹っ飛んだ。

「外一面真っ白よ」

 目をパチッと見開いた。

「ゆき!」

 ガバッとベットから飛び降りる。もちろん、シロクマの人形もいっしょだ。僕の気持ちは高鳴っていた。とてとてと歩いて窓に近づいた。

「ゆき ゆき! まっしろのつめたいの!」

 わくわくしながらカーテンの裾を握る。ゆきなんて見るのは生まれて初めてなんだ。

「ゆき!」

 力強くカーテンを開けた。

 次の瞬間、満面笑みを浮かべていた僕は、驚いて目を見開いた。


 窓の外に、ひとがいたんだ。


 そのひとはママより金色のかみの毛で、パパより深い緑の目をしていた。

 なによりおかしいのは、その金色のかみの毛の上には、もっともっと金色の透き通ったドーナツが浮いていて、その人が着ていたちょっと長めの白いローブの後ろには、ちっちゃな真っ白い羽がついていたことだった。

 僕はそのひとから目を離さなかった。

 そのひと、恥ずかしくなっちゃったのかな。顔を少し青くして、笑っていた口元がピクピクしていた。

 手すりに置いた僕の手に、雪が一粒舞落ちる。

 ─────それは、五年ぶりの大雪の朝だった。


 *


シェ()リアー」

 僕は玄関から彼女の名前を呼んだ。うれしいな。もうチクチクの帽子をかぶらなくていい季節なんだ。

シェ()リアー」

 もう一度名前を呼んだ。けど、彼女は来てくれない。おかしいな、と思って僕は思いっきり息を吸いこんだ。

シェ()リィアァー」

 おっきな声で名前を呼んだら、後ろから口を抑えられた。

「シーッ 声が大きい!」

 その柔らかな白い手と、まるで歌声のようにきれいな声は、間違いなくセリアだった。

「おそかったね シェ()リア」

 セリアに抱えられた僕は笑いながらそういうと、セリアは冷や汗を流しながらも微笑んでくれた。


「空を飛ぶ人って、ムキムキの男の人だけだと思ってた」

 セリアと手をつなぎながら、僕は思ってたことを言ってみた。

「ぼくが読んでたえほんにでてたひとってね、変身するとまっかなマントとあおいスーツで胸にSってかいてあったり、真っ黒のマスクでコウモリみたいなマントをつけてたりしてるんだよ」

 僕はセリアを見上げた。

「……シェ()リアはそういうひとに変身できるの?」

「いや……ごめんね、それは無理……」

 セリアはショックを受けたみたい。力なさげに笑う顔が少しかわいそうに見えた。

「けどね、私みたいなひとを「天使」って呼ぶんだけど、中にはそんな強くてムキムキの人もいるのよ」

 セリアが微笑みながら話してくれた。

「でも、私のような女の天使もいるし、ルークみたいにちいさいのもいるの。みんな空を飛べるのよ」

「それはシェ()リアのおともだち?」

 僕はセリアに聞いた。

シェ()リアはぼくのともだちだから、シェ()リアのともだちならぼくもともだちになれるかなぁ?」

 天使ならぼくだって知ってる。セリアが天使で、僕は嬉しくなった。

「えほんにあった! 「てんし」に会えるとしあわせになれるって、だから会えるならいっぱいがいいな」

 僕は笑っていた。そんな僕のことをセリアはずっとマジマジと見つめていた。

 やがて、セリアは口を開いた。

「そうね」

 そういって笑っていたけれど、なんか変だった。

 笑っているのに、悲しそうな顔をしていたから……。

 僕の視線に気づいたのか、セリアは急に話題を変えた。

「ルークはスーパーマンが好きなのね」

 もちろん!っという意味で僕は大きく頷いた。

「ボクはスーパーマンみたいな、強くてかっこいいヒーローになるんだ!」

 片手を空に突き上げて、僕は空を飛ぶ真似をする。 それにセリアはわらったけど、すぐに顔を変えた。

「どんなヒーローになりたいの?」

「それは、強くて悪い奴を倒してみんなを守ったり……」

 質問の意味は分かるのにいざとなったら何て言っていいか分からなかった。

 うーんと唸りながら考えていたら、頭に温かい物がのっかった。セリアの手だった。

「私はね、ヒーローって強いだけじゃないと思うのよ」

 セリアの言った意味がさっぱりだった。だってスーパーマンはみんなを助けて正義の味方になったじゃないか。

「じゃあなんなのさ」僕は聞いた。

「……みんなを笑顔にできる人、かな」

 今度はなるほど、っという意味で頷いた。 自然と笑顔がほころんだ。

「セリアってヒーローだったんだ!」

 僕の言葉にセリアは驚いたみたい。キョトンとした目をしている。

「だって、僕はずっと笑顔だもん。 セリアの周りの友達はみんな笑顔のはずさ!」

 ……おかしいな? セリアの目はまだ変なままだ。

 やっと顔が変わったと思ったら繰り返し、また変な笑い方をしてた。


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