蛇口男
俺がこの刑務所に来たのは今から一週間前のこと…
いつも通り高校のいつメンと心スポ巡りをしていた。
あの日の俺らはまさかこんな悲劇が起ころうなんてことは考えもしなかった
Uターンしていればよかったのだ。そうすれば誰も死なずにこの街を離れることができた。
「ここか…呪われた廃刑務所っていうのは」
そう高畑が地図を見ながら呟いた。
「にしても、俺らの住んでる街にこんなのがあったなんてなぁ?目の前にしても実感が沸かねぇ」
毒吐きの河合の口はいつも尖がってる。今も誰かの悪口を言いたそうなお誂え向きだ。
「噂だと幽霊が出るととか出ないとか…」
丸メガネの永田は背中を丸めて陰湿な態度で口角を上げて呟いた
「馬鹿馬鹿しい…お化けなどいるわけがないでしょう。科学的に考えて…」
俺は常套句を吐き捨てて前を歩く三人の後を右足を引きずりながら陰鬱に歩いて行った。
ーーー三十分後ーーー
俺はこの廃刑務所に来たことを後悔させられることとなった
「逃げろ!!!お前だけでも…???だけでも逃げr…」
「高畑!!!何が…何があるんだ…!!!その扉の向こうには何があるんだよ!!!」
俺は高畑の右手を掴んだ 何かが高畑の足を掴んで引きずり込もうとしている
「分かんねぇ…けど、ダメだったんだ…俺らがこの地に足を踏み込むのは禁忌だったんだ…」
高畑の眉目秀麗な顔立ちが ほんの一瞬で青く瘦せこけるのが容易に見て取れた
「何を訳の分かんねぇことを言ってんだ…!!お前のことは絶対離さねぇから…!!」
俺は力の上手く入らない右足が 力なくズルズルと扉の方へ動いてるのを見ていた
そんな情けない右足の隣には頭だけになった河合の唇と永田の唇とが接吻を交していた。
「お前だけでも連れて帰るんだよ!!まだ言ったことのない場所や 見たい気色があるだろ…?」
俺の右足は依然として引きずられていた。高畑の首は信号機の様に九十度に折れて下を向いていた
「もう無理だ…最後にお願いを聞いてくれないか…?」
高畑の声はもう掠れて上手く聞こえなかった
「え…?最後なんて言うなよ…!!足が無くたって俺が負ぶってやるから!!」
俺は最後の力を振り絞って高畑の白く綺麗な右手を思い切り引き抜こうとした
依然として下を向いている。まるで最悪な事態が起きてしまっているかのように。
「お前と一緒に死ねれば…俺は…この人生に悔いは無い…」
「…!!!?本当なのか…?」
高畑の下半身はもう扉の向こうの深淵へと消えていた。
「あぁ…だから、俺と一緒にこっちに来るんだ…」
高畑の美しい姿に俺は気づいたら力を緩めていた。
「高畑が言うなら…俺もそっちへ行くよ…」
しかし、その時、高畑を引っ張る力が急激に弱くなった。そのまま俺は後ろへと大きく倒れた。
少しの間意識が朦朧としていたが、両腕には 高畑の上半身が残されていた。
「高畑…?」
俺は高畑の顔は見なかった ただ抱きしめた 温もりも味もしない。




