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夕焼けに滲む
夕暮れの縁側。
弥命は一人煙草を吸っていたが、夕焼けに染まる空に何か見つける。
「お?」
赤い鯉のぼりが一匹、ゆらゆらとまるで泳ぐように昇っていた。
「風流じゃん」
弥命は左耳の朱い大きな金魚を揺らしながら、笑う。
やがてその鯉のぼりは、燃えるような赤色の龍になった。弥命は、僅か目を見張る。
赤い龍は楽しげに空を行くと、夕焼けに滲むように消えた。
しばらく空を見ていた弥命の元へ、旭がやって来る。
「どうしたんですか?」
弥命は、今見ていたものを説明した。聞いた旭も、空を見上げる。
「そんなに綺麗な龍なら、見たかったです」
弥命は、純粋な眼差しで龍を探す旭を見、小さく笑った。若干の寂寥が混じった目で、呟く。
「旭って俺の話、信じるのな」
旭は弥命を見て、目を丸くする。
「嘘なんですか?叔父さんって、そういう嘘ついたことないのに」
その言葉で、今度は弥命が目を丸くする。
だが直ぐに、笑い出した。
「そーね。んな嘘ついても仕方ねぇし」
「……弥命叔父さんの言うことは、信じてますよ」
「なに急に」
怪訝な顔になる弥命を、旭は優しい目で見る。
「さっきの弥命叔父さん、何となく寂しそうな目をしてたので」
一瞬の沈黙の後、弥命はいつもの調子で笑った。
「夕方だからじゃねぇの。……さんきゅ」
弥命は立ち上がり、旭の頭を雑に撫でると、仕事に向かった。




