負け犬が精一杯に絞り出した恨み言は何よりもウメェ酒のアテだぜぇ〜!
「さぁさ、それでは皆さんグラスをご用意下さい」
俺は酒の入ったグラスを掲げて朗々と乾杯の音頭を取った。
「さて宜しいでしょうか? ……おい、立てよ姉上。誰かが音頭を取ったらすっと立て。おっさんと宰相を見習えよ。ご起立くださいって言わなくても立つのが宴会の席の礼儀だぜ? ほれほれさっさと立つ!」
「もう……また変に調子に乗ってる……」
「まだるっこしいな……」
姉上らはぶつくさと文句を垂れながらも椅子を引いて立った。見様見真似でグラスを掲げる。
勇者は社交会なんぞに出席することはない。なんたって救世主様だからな。俗な印象を持たれないために下々の連中とは極力接触を断っていたのだ。それ故にぎこちなさが残るが……まあいいだろう。許容範囲だ。
「よし。それでは、改めまして皆々さま……」
全員が席を立ったのを確認した俺は周囲をゆっくりと見回した。
場所は城内の大食堂。部屋にいるのはたった五人。
国王のおっさんは装飾華美ないつものマントを羽織り、宰相は気品を感じさせる仕立ての服。俺と姉上らはボロボロになった衣服を脱ぎ、カジノに着ていった豪奢な衣装を纏っている。
めでたい日にゃ何をするか。んなもん昔っから変わらねぇ。飲むんだよ!
「それでは只今よりぃ〜! 勇者が自由になって宰相の心がぽっきり折れちゃった! 激動の時代が来るだろうけど受け入れて頑張っていこう激励会を開催しまぁ〜す!! 乾杯ッ!!」
そういうことである。
「うむ、乾杯!」
国王のおっさんは清々しい笑みを浮かべて杯を掲げた。
「えと、乾杯……?」
「よく分からんが、かんぱい!」
姉上らは慣れぬ手付きでたどたどしく杯を持ち上げた。
まーこういうのは雰囲気と流れよ。飲んで食って酔っ払っちまえば細かいことはどうでも良くなる。
酒の力は偉大なり。細かいことは水に流そうなんて言葉があるが、ありゃ差し替えたほうがいいぜ。酒で流すほうがよほどその後のためになると思うね。なんせ水じゃ酔うこともできねぇ。
俺はぐっとグラスを傾けた。ゴッと喉を鳴らして飲み下す。
「くふぃぃ〜〜!! んメェなァ〜〜!! お高い酒を、それもタダで飲めちまうんだぜ! 最高だッ!!」
用意した酒は城に貯蓄してあった上物だ。キリッとした辛さで、しかし喉越しは絹のような柔らかさ。程よい酒精が鼻を抜けていく感覚は雑味の強い安酒では得られないものだ。
これが国王権限でロハときた。ここまで膳立てされて飲まなきゃいっそ罰当たりってもんよ。
「では我も頂こう」
「おっ、いい飲みっぷりだねぇ〜おっさん! ……あ? 何してんだ姉上らよ、酒は見て楽しむもんじゃねぇぞ?」
二人はグラスに入った酒を見つめてしげしげと観察している。鼻を近づけスンとひと嗅ぎしたシンクレアが顔を顰めた。
「うっ……お酒臭い」
「酒なんだから当たり前だるぉ?」
「ガル、ちょっと羽目を外しすぎ」
「あぁ? 固ぇことは言いっこなしの無礼講だっつってんだろ! いいから飲め。馬鹿騒ぎしろ! 祝祭に必要なのはそれだけだ!」
緩く握った手首を内側へクイッと曲げる。それを見た姉上らはやれやれと肩を竦め、二人で視線を交わし合い、そして観念したように酒を口に含んだ。
反応はまるで正反対だった。
「……あ、意外といけるかも」
「まずい……というより苦いッ! なんだこれは!? ガル、こんな苦水じゃなくて果実水を寄越せっ!」
俺は塩気十分なジャーキーを咥えながら言った。
「よぉーし飲め姉上よ。しかしレイチェル……お前はガキ舌だなぁ。果実水なんてのは母親の乳から離れたばっかのお子ちゃまの飲みもんだぜ」
「うるさい! さっきみたいにレイ姉と呼べ!」
ちっ。ジャーキーを咥えながらなので掠れた舌打ちになる。
こいつめ……ちょっと気を許したらつけ上がりおってからに。
だがしかし。俺はジャーキーを咥えたままニッと笑った。
ならば存分に姉らしいところを見せてもらおう。俺は二杯目の酒を飲み干してから言った。
「姉上よ。お前は知らないだろうがな……涼しい顔して酒をクッと飲み干せる女はカッコいいぞぉ?」
カッコいい。その言葉を聞いたレイチェルがむっと唇を曲げた。そしておずおずと口を開く。
「そう、なのか?」
「おうよ。雰囲気のある酒場なんかでよ、お前みたいな見てくれだけは整ってるやつが酒を嗜んでたらカッコいいぞ〜」
「そ、そうか……。ふん……これくらい飲めるさ。私は姉だからな」
俺に負けたことを根に持ってるのか、二人はますますいっそう俺に対して姉アピールをしてくる。ならば利用させてもらうぞ。カッコいい姿を見せてくれよお姉ちゃん。
「んぐっ…………ぷはぁ……! どうだ、ガル……! 飲みきったぞ!」
「おう。じゃあ次はコッチの酒な」
「!?」
俺はスッと次のグラスを滑らせた。フルーティーな味わいで飲みやすいが、らしくないほどに高い酒精を誇る魔性の女みたいなワインだ。手っ取り早く酔わせるならコレと言われる酒である。
「…………」
「ほれ飲め飲め。まだお代わりもあるからな」
「レイ、どうしたの? もういらないの? ぇへへ……なら私が貰おうかな〜」
「こらこら人の酒に手を出すんじゃない。注いでやるからこっちを飲め」
「んー、ありがとぉ〜」
グラスを子どものように両手で受け取ったシンクレアがコクコクとワインを飲み干す。いいね。いいペースだ。このままいけば一時間もせずにぶっ倒れるだろう。
姉の姿に男気を見たのか、レイチェルもガッとワインを飲み干した。その調子で酒に飲まれる怖さを知っておくといいさ。くくく……。俺は姉上を気遣う弟の鑑のような笑みを浮かべた。
「勇者ガルドよ、よいのか? なかなかに……勇者的な飲みっぷりをさせておるが……」
「あ? 気にすんなって。限界を学ぶにゃどれくらいでぶっ倒れるか試すのが一番いいんだ。酒に飲まれても勇者なら首を斬れば解決なんだぜ? 躊躇う理由がねぇよ」
「そこは解毒魔法でよいのではないか?」
「言ったろおっさん? 細かいことはいいっこなしだ。ほら食え、これが庶民のツマミだぞ」
「んむ、頂こう」
景気よくジャーキーを齧るおっさんの背をバンバンと叩く。いいね。やっぱりおっさんはいい。こういう時に空気を読めるのが王の器だぜ。
それに比べて……。俺は席を移動した。辛気臭い顔で黙りこくっている男の横顔にぬっと顔を寄せる。
「どうしたのかなぁ宰相殿ぉ? 酒が減ってねぇぞ? んん〜〜?」
すっと顔をそらされたので反対側に回り込む。ぬっと顔を寄せ、爽やかな笑顔を浮かべて言う。
「めでたい日にそんなシケた面してたら幸運の女神に逃げられちまうぜぇ〜? ああっ、悪ぃっ! 今日がその日だったわ! なっはっは!!」
俺は宰相の肩に手を置いた。すかさずぺちりと払われる。
「好き放題煽りおって……。この状況で、国政を担う私が飲めるはずないだろう」
眉間をぐっと抑えた宰相がぽつぽつと言葉を漏らす。
「……王国史における未曾有の危機だ。どう舵を切るのが正解なのか、とんと読めぬ。お主らの暴れ回った姿は『光天幕』越しでも観測されていたのだぞ。騒動を収める方便を練らなければならぬのに、酒精で頭を鈍らせるなど愚の骨頂だ」
はぁ。俺はため息を吐いた。国政、国政、国政。こいつの頭ン中はそればっかりだ。
ぐっと酒を飲み、宰相の横面にぷはぁと吐き掛ける。
「飲みの席で仕事の話はやめろよなァ〜! グイッといって全部酒に流すのが大人の器量ってもんだぜぇ? それによぉ、その心配していらっしゃる騒ぎを収めるために今まで堕落の限りを尽くしてきた馬鹿貴族連中を向かわせたんじゃねぇか! 俺と姉上がちょいと小芝居挟んで脅して、な」
勇者は国の奴隷状態から解放された。あんまり舐めた態度取り続けてると復讐しちゃうぞ!
三人でそう脅したところ効果は覿面。彼ら彼女らは今まで宰相が担っていた国事を喜んで引き受けてくれたよ。これぞ皆が問題を背負う理想の国家ってね。
こういう時に機転が回るプレシアも同伴しているし大丈夫だろう。面倒事は下へぶん投げた。そういうわけで俺らは重大会議をすると偽ってお疲れ会を開いているというわけだ。職権濫用ってやつね。
「コレだけ言っても飲まねぇのか? 損な性格してるぜ。柔軟性がないから俺にしてやられるんだぜ?」
「……黙れ」
「ンン〜! 負け犬が精一杯に絞り出した恨み言は何よりもウメェ酒のアテだぜぇ〜!」
俺はポンポンと宰相の頭を叩いた。そしてずらりと並んだ酒の中から飲んだことのない物を選びクッと飲み干す。
ん〜、個人的にハズレかな。と、そこでちょうどシンクレアが空のグラスを突き出してきた。
「ガル〜。次はぁ、もっとカラッとしたやつ。カラッとしたのちょうだい!」
「あんだよカラッとって」
「喉がかぁ〜ってするやつ!」
「酒精がきついやつね。くくっ……ならいいのがあるぜ」
俺は懐から屠龍酒を取り出した。宴会用に自腹を切って調達したイロモノの酒である。これをおっさんに飲ませてみたかったんだよなぁ〜。
「よーし待ってろ。いま注いでやるからなぁ。……あっ!」
俺が空のグラスに酒を注ぎ終えた瞬間、隣から伸びてきた手がグラスを掠め取った。
竜すら殺すと云われる異常な酒精の濃さを誇る酒。それを宰相は一息に飲み干した。テーブルにダンとグラスの底を叩きつける。
「ッ……かぁッ……! 美味いッ!!」
「おお……っ! おいおい、おいおいオイッ! なんだよイけんねぇパトリックくぅん!」
「はぁぁー……飲まねば、やってられぬ……。今日という日は、その酒くらいキツくないと酔うに酔えんわ……!」
へっへっ……こいつはとんだウワバミだ。俺が初めて屠龍酒を飲んだ時は無様に目を回したってのに……袖で口元を拭った宰相は鋭い目を爛々と輝かせていた。酒豪だぜこいつ。
「あーッ! 私の! 私のおさけッ!」
「でけぇ声出すな。待てって! すぐに注いでやるから」
「随分な名酒と見受けたぞ。勇者ガルドよ、我にも一杯頼む」
「おう! おい、なに目をそらしてんだよお姉ちゃぁん? オメェも飲むんだよオラっ!」
「いや、でもこれ、匂いが……うっ……ええい、ままよ!」
三人は屠龍酒の入ったグラスを傾けた。
国王は優雅な所作で。シンクレアは水を飲むようにコクコクと。レイチェルはきつく目を瞑り勢いよく。
「ン゛ン゛ン゜ッ゜ッ゜!!?」
そして揃って形容しがたい声を上げて突っ伏した。面白いくらい目を回している。くくっ、傑作だ!
「ぶわっはっはっは! 見ろよ宰相! これが国王と、国を守護する勇者の姿だぜ! ひーっ! 教皇に見せてやったら泡吹くぜ、おい!」
「笑えん。欠片も笑えんぞ。勇者ガルド……こんな座興を催して、お主は一体何がしたいのだ」
宰相が怪訝そうな顔を向けて問う。
何がしたいって? そんなのただ一つよ。
「何もかも忘れて馬鹿騒ぎすんのは面白えだろ? 俺も三年ほど前に知ったばっかだがな。アホな姉上らも、不自由してた国王のおっさんもそれを知らねぇ。だからこうして場を用意したってわけ! それだけだ!」
「…………本当に、恐ろしい変わりようだな」
「背負ってたモンをぶん投げたら身軽になったんでね。働き詰めだった反動ってやつよ。お前もそのうちこうなるかもしんねぇぞ?」
「なるか。馬鹿もの」
宰相が無言でグラスを突き付けてきた。俺は屠龍酒をなみなみと注いだ。
酒を一息で半分ほど腹に収めた宰相が言う。
「……人には、縋るものが要るのだ。同時に……内憂の芽を生まないための外患が。勇者と魔物、そして女神と魔王。それらは……国の平定に欠かせないものだったのだ。私は、その持論を枉げるつもりはない」
「そうかい」
「だが……それもいずれ消えるのだろう?」
「五年から十年後あたりかねぇ。進捗によっちゃもっと早くそうなるかもな」
「そうか」
酒を飲み干した宰相が呟く。
「女神、魔法、魔物、魔石、魔王の消失……。一つでも頭痛の種だというのに。全く。生きた心地がせんぞ」
「じゃあ何もかも捨てて逃げ出すか?」
「戯れるなたわけめ。この身は足の先から髪の毛一本に至るまで国に捧げておる」
「頼もしいねぇ。ま、宜しく頼むわ。せいぜい居心地のいい国を作ってくれや」
「どの口が」
酒は百薬の長だ。溜め込んだ澱を吐き出すための処方箋にだってなってくれる。
普段では考えられないほど口汚い言葉を使う宰相が、ふと声の調子を落とした。
「……神の加護は消える。だが、勇者は……諸君らは消えるわけではないのだろう?」
俺たちは遥か昔の連中が生み出した呪装だ。魔力が消えれば露のように消えるだろう。
だがそんなのは認めない。クローン――肉の器という策は既に手中にある。消えることはない。
「おう。クソほど働かされた分、余生はたっぷりと謳歌させてもらうつもりだぜ」
「……乱世には救いが要る。縋るものなくして人は生きられぬのだ。……勇者よ。過日の英雄として……国に仕え続けるつもりはないか?」
「却下」
「戦闘を強いることはない。身柄を縛ることもせぬ。ただ象徴として在ってくれるだけでよい」
「却下だっつの! 未練がましいぜ。勇者なんぞに踊らされるまやかしの時代は終わりなんだよ! こっから先は人が、人同士がどうにかしていけばいい! 俺らの快適余生を奪うんじゃねぇー!」
「……そうか。そう、だな」
宰相が空になったグラスを五指で摘んでふるふると揺らす。俺は酒を注いだ。同時、宰相が注いだ酒を俺も飲む。
「勇者。本当に優秀で……この上ない政策だったよ。諸君らがいなければ……この地は既に魔物のみが跋扈する地獄と化していただろう」
「……さぁ、どうだろうな。案外人が団結して未来を切り開いてたかもしれねぇぞ」
「いずれにせよ、たらればの話だ。……快適余生を奪うな、か」
ぐっと酒を飲み干した宰相が赤みを帯びた頬を緩ませた。くつくつと喉を震わせ、なにやら愉快そうに言う。
「ならば、勝手に利用させてもらうさ」
俺は酒を飲む手を止めた。その言葉に不吉なものを感じたのだ。
……こいつ、まだ何か企んでやがるのか? 俺は言った。
「……おい。あらかじめ釘は刺しておくぞ? 確かに魔力なんつーものが消えた世界じゃ俺らは人並み程度の力しか振るえなくなるだろうがな……それでもふざけた真似をしたら」
「まあ聞き給え。くっくっ……いや、誤解させたかな? くくっ……違うさ、そうではない。脅すつもりなど微塵もないさ。むしろ誉れ高いことだと思うよ、これは」
「……何を言ってやがる。分かるように説明しろや」
極めて上機嫌そうに唇を舐めた宰相が、こらえきれぬと言わんばかりに口の端を吊り上げた。
「勇者という国策は……そうそう手放せんよ。柱は要るのだ。ゆえ、君らとは違う勇者に力添えをして頂くとするよ」
「違う、勇者……? てめぇ、まさかクロードを……」
「クロード? あぁ……違うさ。あれは君の弟なのだろう? どういう存在なのかは未だに把握しておらぬが……違うと断言しておくよ」
「なら誰だよ」
「君もよく知る人物さ」
「勿体ぶってねぇではよ言えや!」
「君ら以外の勇者と言えば、該当するのは一人しかいないだろう? 性悪で姑息、魔法の腕は一流なのにヘマばかりして、最終的には正義によって裁かれる。なぁ、君のよく知る人物じゃないか。『勇者ゴールド』は」
勇者ゴールド。勇者ゴールド?
………………。………………! ……………………!?
「お……お前かぁぁぁァァッッ!! あのクソ漫画に! 国の承認を与えたのはぁぁァァッッ!!」
俺は叫んだ。宰相はただ喉を鳴らして笑っている。
「くっくっ……くっくっく……今さら気付いたのか……」
「いつからだ? いつからここまで予測してやがった!? おかしいと思ったんだぜ俺は!! 国があんなっ、国辱の見本市みてぇなふざけた本に許可証を与えるなんてッッ!! ありゃてめぇの仕業だったのかぁ!?」
「いつから予測していたかだと? 初めからさ。当たり前だろう? 政策が絶対不変のものだと信じ込むなど愚劣の極み。百の未来を予測して、千の択を拵えるようでないと国事は務まらんさ」
こ……この野郎……! ふざけやがって……! 知ってやがるな、あのクソのような本に描かれた勇者の元が俺であることに……!
「おいコラてめぇパトリック! 今すぐあのふざけた本を取り締まれッ! あんなモンを世に解き放とうとするんじゃねェ!!」
「たとえ勇者であろうとも、悪事を働けば容赦なく首を落とされる。くくっ……乱れた世には、何よりも効く勧善懲悪の物語じゃあないか。子への教育、市井に対する訓戒、狼藉者への牽制……全てを高い水準で達成できる。次代の国策にちょうどいいとは思わんかね?」
あれを国策に据える? あのふざけた本を広めようというのか? 正気じゃねぇ……認められねぇぞ、そんなふざけた未来はッ!!
「ふざっ……てめぇはァ! 人の心ってもんがねぇのか!? オイッ!! 今すぐアレを禁書指定にして焚書しろッ!!」
「酒の席で物騒な話はやめ給えよ。さ、気を取り直して飲み給え」
にやにやと。今まで見たことない程に締まらない顔をした宰相が屠龍酒を注いで俺の前へと滑らせた。
「グイッといって全部酒に流す。それが大人の器量なのだろう? お手本を見せてもらえるかな。勇者ゴー……あいや、勇者ガルド殿よ」
握った拳の震えが止まらない。食いしばった歯がガチガチと音を鳴らす。喉から潰れた声が漏れ出る。
身体の奥から湧き上がる爆発的な感情を――抑え込み、俺はグラスを取った。手の震えがグラスに伝わり酒が跳ねる。水面に映った俺の顔は――波紋のせいか、酷く歪んだ顔をしていた。
俺は一息に酒を飲み干した。テーブルにグラスを叩きつけて叫ぶ。
「クソがああああぁぁァァッ!! ああああああああああああああぁぁぁッッ!! クソがあああああああああああぁぁぁッッ!!!」




