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第3話 僕の日記は徒然なるままに語る

2019/5/21 編集&追記


その異形は顔も形も分からない。

しかしなぜか僕を見てニヤリと笑っているのがわかる。


しかも明確な殺意を持って僕らを追いかけてくる。


「くっそ…!!こんなの逃げ切れるわけがない!」


もし僕が物語の主人公ならばきっと特殊能力とか魔法とかでこんな異形は蹴散らしてしまうのであろう。


しかし僕はただの凡人。日記を書くことしか能がない人間にこんな状況をどうやって乗り切れというのか。


走って逃げながら僕は自然と状況整理をしていた。こんな時になにをやってるんだろうかと自分でも呆れる。



始業式の日、なんの前触れもなく生徒会長佐々木が全校生徒殺害予告をほのめかしてから起こったこの惨劇。


球体の爆発後、火の海となった街と地面にはたくさんの人。

地面から伸び、地面へ引きずり込もうとする無数の手。

決め手には僕らを襲う異形。


何が何だかさっぱりわからない。何がどうしてこうなったのか?

この思考が幸運をもたらしたのかこの答えを知っている人間が突如目の前に現れる。


しかも地面から「それ」は湧いて出てきたのだ。


「佐々木さん!?」

「生徒会長…?」


僕と榊原はお互いその突然の登場に驚かざるを得ない。

佐々木はただの人間なはずだ。いくら生徒会長でも地面から湧いて出てこれるはずがない。

ここで僕らは佐々木が普通の人間でないことはいやでもわかった。


「あら、あなた達…。運がないわね…あのまま死んでしまえば楽だったものを」


「生徒会長…!何が何だかさっぱりわからないんだ。今僕達は恐ろしい怪物に襲われているんだ。あんたも逃げないと殺されるぞ…!」


「あらあらあら。優しいのね。でもその優しさはあなたの寿命を縮めるだけよ。さっさと『彼ら』に食われてあの世でおやすみなさい」


「おぼんくん、佐々木さんの様子が何かおかしい。私たちを本気で殺すつもりよ」


「どういうことだ…?どうして僕らが殺されなくちゃいけないんだ」


「おぼんくん、言いたいことはわかるけどね、そろそろ現実見ないとまずいことになるよ。

ほら、言わんこっちゃない…前後を囲まれちゃったよ…」


「前後囲まれたってどういう…?何が何だかわかんないんだよおおおおおおお!!!」


僕はありったけ叫ぶ。この不条理な世界に対して叫ぶしか僕にはできなかった。


榊原が何かを悟ったようにいつの間にか戦闘態勢に入っている。

榊原はどうして戦おうとしているんだ?こんなの絶対に勝てるはずがないじゃないか。


「ふふふ、ここまで生き残っていたことは賞賛に値するわ。でもね、私としてはちょっと都合が悪いの。だって人類を、いやこの世界を滅亡させるために私はここにいるのだから。私のためにここで消えなさい。今のうちに消えたほうがあなたたちのためでもあるの」


佐々木は薄気味悪い笑いを浮かべて僕らを睨みつける。

こんな風に殺意を向けられたのは初めてだ。


いまだに佐々木が僕らを殺そうとしている事実が信じられない。


後ろを振り向くといつの間にか異形は僕らに追いついていて、いつ僕らを殺そうか待ちわびているかのように笑っている。


多少なりとも知性があるのだろうか?佐々木と話している間は何もしてこない。


「ポセイドン、そこの2人を殺りなさい」


否、知性なんてなかった。ポセイドンと呼ばれた異形は生徒会長佐々木に統治されていたのだった。純分に訓練された猛獣のようだ。まだ猛獣のほうがマシだったかもしれない。


ポセイドンと呼ばれる異形が僕らに襲い掛かる。


「おぼんくん、ここは私に任せて先に逃げて!」


「榊原!?何言ってるんだ、君に任せたところでこの場は突破できないだろ?!どうするつもりなんだ」


「ごめんね、おぼんくん。もう時間がないの。だから手短に言うね。あなたは持ってる日記を武器にしてここから逃げて。もしかしたらおぼんくんだけでも助かるかもしれないから。少しだけ大事なことを思い出してきたの。」



次の瞬間、僕の目の前には榊原はいない。


いたのは恐ろしい異形だった。榊原も異形になってしまった。僕は驚きと恐怖のあまり逃げ出せないでいた。


「あははははは!あなたももう「そっち側」だったのね、笑わせないでくれないかしら。いまだに多少の理性を残していることは称賛に値するわ。どんな訓練を受けてきたのでしょうね、ふふふ。でもそんなものも無意味よ。さっさと死になさい」


そう言い終わるか終わらないうちに佐々木の姿がみるみるうちに異形へと形を変える。

う、嘘だろ?佐々木も榊原も異形になってしまった。人間なのは僕だけだ。こんなの生きて逃げられるはずがない。


もしかしたら僕ももうすでにヒトではないのかもしれない。



ポセイドンと呼ばれた異形が恐ろしい鎌をぶん回しながら榊原に襲いかかっていた。

僕の目の前で異形同士の殺し合いが始まった。


「くっ…アアアアア!」


榊原の形をした異形は叫ぶ。


「榊原ァァァァ!!」


榊原は死ぬ。これはどう考えても勝てない。武器さえ持ってないのにどうして勝てるのか。




(キーン…!)



大きな金属音が鳴り響く。なんと榊原は日本刀のようなもので相手の鎌を受け止めていた。

その日本刀は鎌に負けじと劣らず凄まじい殺気を放っていた。


榊原は異形になったからか見た目以上に戦闘力が上がったみたいだ。あんな大きな日本刀なようなものを扱って鎌を受け止めるなんて普段の榊原からは考えられない。


「アアアアアアッッッ!!!」


榊原は叫びながら反撃を繰り出す。


「普通の人間であるはずのあなたがどうしてポセイドンと戦闘力で渡り合えるの…?榊原さんあなた、もしやプロテクターの残党なの…?ふん、まあいいわ。ここで殺してあげるから」


そして佐々木は僕を見た。


見るな見るな見るな見るな見るな死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ


「榊原さんはどうやらあなたを守っているようだけどあなたは邪魔なの。とっても邪魔。だってあなたよく見たらただの人間じゃなくてダイアリーじゃない。そんなの計算外よ…どうしてこんなタイミングで出てくるのかしら…ああ、もう運がいいのか悪いのかわからないわ…ああ、だからあなたはその日記を使わずにここにおいてさっさと消えてちょうだい」


佐々木が意味の分からないことを僕に告げる。


「あら、何もわからないって顔ね。それなら都合がいいわ。あなたが持っている日記を今すぐ私に渡しなさい。そうすれば命だけは今は見逃してあげるから」


「何をわけのわからないことを言ってるんだ!?この日記がどうした。これは僕の大切な日記だ。僕の全てが記してあるんだ。これが無くなるくらいならお前の望み通りいっしょに死んでやるさ…」


「ふん、分からず屋ね。あーあ残念惜しいことをしたわ。さよなら、ダイアリーの使い手さん」


そう告げて佐々木はポセイドンと同じような鎌を僕に向けて投げる。


「ウうううあああああああ…!!!!」


榊原だった異形がこの様子を見て僕を助けようとする。

しかしいくら異形の榊原でも間に合わない。


あーこれ、僕は死ぬんだな。


佐々木は無力で何もわからない僕を排除しようとしてきた。これはもう何が起こっても僕は死ぬだろう。


鎌が僕の目の前まで迫る。



(ごめんね、おぼんくん。私からいえるのはあなたが持ってる日記を武器にしてここから逃げて、ということだけ。)

(あなたは邪魔なの。だからその日記をここにおいて消えてちょうだい。)



何故か榊原が異形になる前に放った最後の言葉と佐々木の言葉がよみがえる。


いや、なんで日記なんだ…?僕の日記がどうかしたのか?佐々木も変なこと言ってたしこの日記がそんなに必要なのか?

そもそも日記を武器にってどういうことだよ。僕にはわかることが少なすぎる。



「もっとわかることが多ければいいのに。」



僕の心からの願いが口から零れた。決して叶わぬ願いだろうけど。


この願いが神に届いたのだろうか。


刹那、目の前が真っ白な光におおわれた。

爆発に巻き込まれた時と同じように僕の手足、僕の存在自体が揺らぐ感覚に陥る。



突然僕の脳内に声が響く。


「お前はどうする?残された道はこの中のどれかだ」



そんな声が聞こえた。何者だ?少なくとも僕を殺す異形ではないことは確かなようだ。


「さあ、選べ

1. 時間を止める

2. 鎌を避ける

3. 死ぬ


謎の声が僕にまた告げる。いやいや、この選択肢はなんだ?この声はなんだ?

また僕の知らない分からないことが起こった。

ほんとに辞めてほしい。


あーあ、もう覚悟を決めるしかないのかな。


僕にとって理不尽なことしか起こらないこの世界よ。僕は選んでやる。もうここまで分からないことだらけなら分からないままでいい。このふざけた選択肢が僕の進む道を示してくれるならばこのまま死ぬよりはマシだ。


そして僕は「時間を止める」を選んだ。


瞬間、白い光から解き放たれる。



目を開けるとそこは時間が止まった世界だった。

「うわああああ…!」


目の前に殺意の篭もった鎌が宙に浮いていることに驚いてしまった。


ほんとに時間が止まっているらしい。こんなことあり得るのか?でも実際に起こってしまったことは受け入れるしかない。

「た、助かったのか…?あれ?これは…」


気がつくと僕は右手にいつもの日記を持っていた。いつの間にか開かれた日記にはさっきの声が言っていた選択肢が記述されていた。


「なんなんだこれ…」


この日記は僕の行く道を示してくれる、とでも言うのか?

それとも悪魔のささやきなのか?


そう僕はこの日記に徒然なるままに語った。

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