秘密の友達
「私、幽霊なんです!」
そう、彼女は言った。
つまり、彼女は…
「初めてですよ私に気付いてくれた人!」
いや、でも足はある…
「やだなあ。
今時のは足があってもおかしくないですよ」
何だ今時のって。
「良ければこっちで少しお話しませんか?」
めんどくさい。
幽霊とか絶対嘘に決まってるし。
が、下手に断ってストーカーみたいに着いて来られても困る。
少しだけ、と決めて公園のベンチに腰を下ろした。
「…君は、」
「あ、幽霊です」
あっさりしすぎだろ。
「…幽霊って、」
その言葉は、僕の口からあっさりと出て来た。
一番驚いたのは勿論僕自身だ。
「…冗談だろ?」
「こんな事冗談で言えないよー。
君が幽霊と信じてくれるなら、私は幽霊だよ」
何だそれ。
いまいち的を得ない事を言って、彼女はふふっと笑った。
「でも貴方面白いね。
普通初対面の人に「私は幽霊だ」なんて言われたら、相手にしないか不審者だーって警察に連絡でもするよ?」
「してほしいならするけど」
「冗談!冗談です!」
「…別に全部信じてる訳じゃないよ。
ただの暇潰しさ」
「それで良いよ。
人と知り合うのに凝った理由なんかいらないもん」
人嫌いの僕が、ここまで他人との会話を続けるなんていつぶりだろうか。
「君、名前はあるの」
自分から名前を聞くくらいには僕は相当おかしくなっているらしい。
「聞いちゃう?それ聞いちゃう?
んー、教えても良いんだけどねぇ」
言いつつ、彼女は視線を僕から逸らした。
「やっぱり止めた。
名前は内緒。
だから君も私に教えなくて良いよ」
「どういう事?」
「いつか見た映画に、名前も顔も知らない2人が出会って友達になっていく話があってね。
私たちはもう顔を知っちゃってるから、せめて名前だけでも知らない方が秘密の友達みたいでしょ?」
「…、僕と君友達だったんだ」
「そこから!?」
不覚にも、言葉が出なかった。
自分の事を幽霊だと言ったり、いつ見たのかも分からないような映画の真似をしたり、ついさっき会ったばかりの僕を友達だと言ったり。
本当に変な子だな。
「貴方の暇な時で良いから、たまにここに来て私とおしゃべりしてよ。
夜なら多分いると思うから。
あ、でも勉強とか忙しい?」
「別に。
バイトの後なら今日と同じ時間にここを通るけど」
「じゃあ決まり!
よろしくね友達!」
太陽みたいに笑って手を差し出す彼女。
もう設定忘れてるし。
「君、幽霊でしょ。
触れないんじゃない」
「あっ、そうだった!」
今のなし!!と慌てる彼女は、うるさいけれど嫌いじゃなかった。