ほんの少しの変化
彼女との友人、と言って良いのか分からない不思議な関係は、週に3日程のペースで続けられた。
古書店のバイトが終われば、そのままいつもの公園へ。
ベンチには大抵彼女が先に腰掛けていて、彼女は僕に気付くと毎回笑って「やあ」と挨拶する。
僕はそれに無言で返しながらも、彼女の隣に少し間を空けて座り、待ってましたとばかりに彼女が話し出す。
友人でも他人でもない、不思議なこの関係をどう表せば良いのだろうか。
「お?
君君、その手の袋の中身は何かな?」
今日は僕が座る前に話し始めた。
「バイト先の人のお孫さんの作ったお菓子だよ。
差し入れで貰ったんだ。
僕は甘いものとかあまり好きじゃないから、良かったら君食べなよ」
「君甘いもの苦手なの?
あー、でもそれっぽいかも」
ガサガサと袋を漁る彼女。
そう言えばいつの間にか「貴方」から「君」に呼び方が変わっているけど、いつからだっただろう。
「おー、美味しそうなクッキーだ。
…やっぱり気が変わった。
君も一緒に食べよう」
「は?
いや、僕は良いよ」
「店主のお孫さんからの御厚意を無駄にするもんじゃないよ。
その人は君に食べてほしいとこれを作ったのかもしれないし」
「君、最近キャラ変わったよね」
「誤魔化そうとしても駄目でーす」
今日はいつも以上に強引だな。
別に苦手なだけで食べられないとかじゃないから良いけど。
彼女の言葉に仕方なく綺麗な花の形の1枚を摘まんだ。
市販のものには劣るけど、家庭で作ったにしては美味しいと思う。
「どう?」
「…嫌いじゃないよ」
「好き」と言った訳でも、「美味しい」と言った訳でもないのに、彼女はまるで自分の事のように嬉しそうに「良かった!」と笑った。
「じゃあ私も頂きます」
「君、幽霊じゃなかったの」
「意外と設定守ってるね!?
良いの!私は何でもありの幽霊だからね!」
1つ1つ美味しそうに頬張る彼女と、それを眺めながら少しずつ摘まむ僕。
気付けば、袋の中のクッキーは空になっていた。
「ごちそうさま!
美味しかったー!」
「良く食べるね…。
半分以上食べたんじゃない?」
「そう言う君もだからね!?
甘いもの好きじゃないって言ってたのに!」
「そうだっけ。
…じゃあ、今日は帰るよ。
明日早いんだ」
「ん!
またね友達!」
「またね知人さん」
「そろそろランクアップしたい…!!」
悔しそうに顔を顰めた。
翌日、1限目の授業の講義室に向かう僕の肩に腕が回され、例の彼が
「おはよう!」
へらりと笑う。
いつもなら腕を払うんだけど、最近の彼女との会話で僕はおかしくなっていた。
「…おはよう」
「おう!
しっかし毎回1限は辛いよなあ。
今日なんか俺寝過ごすかと……、って、え!?」
やっぱり固まった。
それもそうか。
2年間で初めて挨拶を返したんだから。
目を見開いたまま、ぴくりとも動かない彼をそのままに、僕は講義室へ入った。
「えええええええ!?」
彼のうるさい声を聞きながら、少し後悔する。
また面倒な事になりそうだ。




