こんにちわ、幽霊です
「おーっす。
さっきの講義のここが分からねぇんだけど教えてくんね?
あ、序でにどっかで昼飯でも済ますか」
また絡まれた。
席から立ち上がり、出口へ。
今日の分の講義も終わり、バイトも休みだ。
家でのんびりしよう。
この前買った本を読むのも良いかもしれない。
「おい、行こうぜ。
そんな奴構うなって」
「1人でいるのが好きなんだろ。
放っとけよ」
「アイツも物好きだよなあ。
毎回断られてんのにもう2年目だろ」
「俺絶対無理」
彼の友人たちの言う通りだ。
僕に構わなければ良いのにと、何度思った事か。
「え、でもコイツ良い奴だぜ?」
きょとんとした顔で言う彼。
僕のどこをどう見てそんな事が言えるんだろう。
彼の友人がその言葉に呆れている内に、僕はその場から離れた。
「――――…………」
鞄を置いてベッドに横たわる。
疲れて本を読む気にもなれない。
何故彼はああまで僕に付きまとうのだろう。
僕に一度でも話しかけてきた人間は、その一度だけで僕との会話を諦めてきた。
だけど、彼だけは、
「何なんだ本当…」
全く訳が分からない。
僕はため息をついて、そっと目を閉じた。
いつの間にか、眠ってしまったらしい。
僕は、夢を見ていた。
あの忌々しい、悪夢だ。
「好きよ、大好きよ、愛しているわ」
鼻につく香水の臭い。
押し倒される身体に跨る若い女。
やがてそれは壮年の男へと変わり、
「お前なんかッ!!
生まれて来なければッ!!」
その手には、鈍く光る、
「ッ!?」
そこで目を覚ました。
大きく息をして、前髪をくしゃりとかき混ぜる。
いつまで僕を苦しめれば気が済む。
あれからもう4年もたったのに。
「もう夜…」
サイドテーブルの上の時計は20時を示していた。
切ない音をたてる腹に、食料を与えるべく冷蔵庫を開けると、そこにあったのは飲み物だけ。
ため息をついて、近くのコンビニへ向かった。
「――――ありがとうございましたー」
間延びしたコンビニバイトの声を背中で受け、月明かりの下歩く。
公園を通り抜けようとした時、きーっと小さくブランコの金属音が響いた。
「…あ、」
そこには、昨日もいた白ワンピースの女。
僕を見て、驚いたようにブランコから立ち上がった。
「あ、あの!」
明らかに、僕に話しかけている。
面倒だな。
聞こえなかったふりをするか。
「私、幽霊なんです!」
…は?