白黒絶望
僕の見る世界は白黒で、僕の進む道はいつだって希望なんかない。
あの時から、僕の全ては絶望で満ち溢れていた。
「――――…ああ、ありがとう。
じゃあ、次はそっちの棚を頼むよ」
「はい」
老紳士の営む古書店。
見付けたのは偶然だった。
大学からの帰り道、鬱陶しく僕に着いて来るあの同期生を撒くために入った裏通りのこの店で店主と出会い、アルバイトに誘われた。
丁度バイト先を探していた僕が他より少し高い給料に惹かれて即決したのも、間違いではなかったようだ。
「ヒムロ君疲れたろう。
休憩にしよう」
ヒムロ、とは店主が僕の事を呼ぶ時に使う渾名だ。
勿論僕はヒムロという名前ではない。
店主の知人に僕に似た人がいるらしい。
その知人の名を借りて、僕はバイトの間だけヒムロとなった。
「はい」
この古書店は裏通りにあるため、客として来るのは常連たちばかり。
来店日や時間は大体どの人も決まっているため、数ヶ月働けばある程度は分かってくる。
今日この時間は暫く客はやって来ない。
休憩を取るには丁度良い時間帯だろう。
「ヒムロ君どら焼きはどうだい。
常連のヤスさんに貰ってね」
「…頂きます」
アルバイトを始めて何か変わるかと思ったが、相変わらず僕の心は空虚で。
このお茶もどら焼きも味を感じないし、本を読んでも心は動かない。
僕の心は、とっくの昔に閉じられた。
「そう言えば孫が何か悩んでいるようでね。
最近の若い子が何に悩んでいるかなんて老いた私には分からないから、助言の1つもしてやれないんだ。
ヒムロ君何か良いアイデアはないものかね」
「…さあ。
僕は一般的な大学生とは違うようなので」
「ヒムロ君は落ち着いているからね」
落ち着いているんじゃない。
何事にも興味がないだけだ。
店主が微笑んで、僕は湯呑みに口付けた。
「――――お疲れ様ヒムロ君。
今日もありがとう」
店主はバイトが終わると必ずそう言って僕を店の入り口まで見送りに出る。
「お疲れ様でした」と僕も返して帰路に着いた。
僕の住むアパートと古書店の間には、ぽつんと小さな公園がある。
21時を回れば人通りも少なく、遊具だけの静かな公園だ。
今日は珍しく、2つある内の片方のブランコに座る人間がいた。
真っ白なワンピースに上からカーディガンを羽織り、腰程まである明るい茶髪を風に揺らしている女性。
彼女は僕の視線に気付いたのか、ハッと顔を上げ、僕と目を合わせた。
関わり合いになりたくなくて僕はすぐに目を逸らす道を急ぐ。
明日も朝早くから大学だ。




