ああ、私はそれを知っていた
クランドの言葉を聞いても、ショウキは平然と微笑んでいた。
だからだろうか。そばにいたユウリもユイも、ショウキを疑わずただ不思議そうに視線を前後させている。
そんな中で関屋教授だけが、静かにショウキを見据えていた。
「……酷いなあクランドくん。その言い方だと、僕が楽譜を盗んだみたいじゃないか」
「そうですね。宮藤先生を殺したのは別人かもしれませんし、楽譜を盗んだのもあなたではないのかもしれない」
「……はい?」
先程の思わせ振りな話は何だったのかと拍子抜けになるくらい、クランドはあっさりと言った。
「……えーと、深海くん。そこは証拠を並べ立てて犯人を追い詰める所じゃないかしら?」
呆気にとられているショウキに代わり、比較的クランドに慣れているユウリが問いかける。
しかしクランドはそれすらも、いつもの澄まし顔でさらりと否定する。
「そんなあっさり犯人追い詰めるほど証拠が出てきたら警察いりません」
「うわー、良い性格してんわ深海。ちょっと好きになった」
「ありがとうございます」
冗談めかして言うユイに、ペコリと頭を下げるクランド。そしてピクリと頬を動かすユウリ。
「しかし宮藤さんが盗作をしたのは間違いありません」
「おーいクランドくーん。僕は父さんが死んでから新作は発表してないよー?」
「知ってます。あなたが盗作をやらかしたのは、宮藤先生が死ぬ前です。『神無月の嵐』……あれはあなたが作曲したものではありません」
「え……?」
クランドが断言すると、ユウリたちは一斉にショウキを見やる。
しかしショウキは、心外だとばかりに首をふる。
「また酷い言いがかりだ。何を根拠に……」
「俺が『神無月の嵐』そっくりそのままな楽譜を以前から持っているからです」
そう言ってクランドが取り出したのは、数枚の手書きの楽譜。
それを見て、ショウキの笑顔の仮面が僅かに揺らいだ。
「……いや、まいったね。確かに父さんに助言はもらったよ。だけど骨子は僕の……」
「それはいつの話ですか?」
言葉を遮られ、ショウキは笑顔を消し苛立たしげにクランドを見る。
しかし動じず、無貌であるかのように感情を見せないクランドの視線に、ショウキはたじろぎ言葉を濁した。
「いや……ここ数ヶ月の……」
「ちなみに、いいわけは無駄です。この楽譜は二年以上前に書かれ、ずっと俺が保管していたものですから」
「何だって!?」
クランドの言葉に、ショウキは今度こそ仮面を完全に外して動揺した。
「ありえない! 君が父さんと会ったのは、ほんの一週間前だ。二年以上前に、父さんの作品を受け取っているわけがない!」
「あら? 宮藤先生と深海くんは、私が紹介する前から知り合いだったらしいわよ」
「……何だって?」
ユウリに言われて、ショウキは唖然とする。
そんなショウキを尻目に、クランドは静かに吐息を漏らした。
「特殊な事情があり、宮藤先生も気軽に俺の事は話せなかったんでしょう。もっとも、まだこの作品について皆さん誤解してますが」
「誤解?」
「はい。そもそもこの作品は、宮藤さんの作品でも、宮藤先生の作品でもありません」
「なっ!?」
もはや驚愕が言葉にすらならず、ショウキは魚のように口を開閉する。
そんなクランドに冷えた視線を向けながら、クランドは楽譜を掲げて言った。
「この作品の本当の名前はピアノソナタ『パンドラ』第二楽章。そして作曲者は――」
そこまで言うと、クランドの表情が微かに歪む。
悲しそうに、悔しそうに、彼は告げた。
「――月影シオン。かつて宮藤セイジと並び称された、伝説的ピアニストです」




