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行け、怒りにかられて

 週末のお昼過ぎ。昼食を適当に済ませたクランドは、ユウリの通う大学へと向かっていた。

 ユウリは約束通りに宮藤セイジとの面会を取り付け、本人も驚いた様子で面会時間を知らせてきた。


 宮藤セイジという人間が半ば伝説というのは本当で、演奏会やら講演会、後進の育成に忙しく、休日の真っ昼間に時間がとれるなど滅多に無いそうだ。

 にも拘らずアポイントメントを取れたのは、偶然というのもあるが、ユウリが「面白い子が居る」と伝えたためだとか。


 クランドの予想通り、ユウリもまた大学では優秀らしく、宮藤セイジその人からの評価も高いらしい。

 そんなユウリが見出だした人物に、宮藤セイジが興味を持ち、時間をわざわざ作ってくれたというのだ。

 クランドとしてはありがたいやら申し訳ないやら複雑だが、特に気負いはしていない。

 宮藤セイジ本人と会うのに、クランドの音楽レベルははっきり言って関係ない。

 ユウリには悪いが、クランドが宮藤セイジとの面会を希望したのは、個人的な理由なのだから。


「ああ! 来た……て、待って! 待ちなさい!」


最寄りの駅で電車を降り、さっさと改札口を出て歩き始めると、慌てたような女性の声に呼び止められる。


「……深山先生」

「あら、何だか新鮮。先生って呼ばれると、しっかりしなきゃいけない気分になるわ」


 振り向いた先に居たのはユウリ。意外というのか、ジーンズにシャツというラフな出で立ちだ。


「案内するって言ったじゃない。どうしてさっさと行っちゃうの?」

「……大学までは自力で行くって言いましたよね?」

「了承はしてないわ。さあこっちよ」


 答えは聞いてないとばかりに、腕を組むようにしてクランドを引っ張るユウリ。

 クランドはされるがままになりながらも、やはりこの人は苦手だと再認識していた。



 ユウリに案内されてやってきた大学は、古い洋風の建物が印象的な、歴史を感じさせる趣だった。

 伝統やら何やらを重んじる故に、この大学も古いのだろうと勝手に納得する。


「建物自体は明治時代に建てられたそうよ。近代化に躍起になって、西洋の文化をがむしゃらに入れてた時期ね」

「耐震性とか大丈夫ですか?」

「さあ? 古いのは外見だけだから、大丈夫じゃないかしら。例えば……」


 学者の入口に立つなり、ジーンズのポケットから学生証を取り出すユウリ。

 やけに綺麗なドアにそれをかざすと、ピッと建物に不似合いな電子音が鳴り、がチャリと金属のぶつかる音がする。


「夜間と休日には鍵がかかるようになってて、ICチップの入ってる身分証が無いと入れないの」

「……ハイテクですね」


 あまりに外観と不釣り合いなシステムに、クランドは何故か残念になった。

 警備の問題上仕方ないのだろうが、どうにもその扉は建物に不似合いに見える。


「先生は二階に居るから、付いてき……あら?」


 学舎に入るなり立ち止まるユウリ。クランドが彼女の視線を追えば、そこには艶やかな黒髪の女性がいた。

 どうやら知り合いらしく、片手を上げながらユウリたちの方へとやってくる。


「どうしたのユーリ? 貴女、今は教育実習中じゃなかった?」

「その教育実習で面白い子を見つけたから連れてきたのよ。深海くんていって……」

「深海クランド!?」


 ユウリの話を遮って、女性がクランドの名を叫びながら指す。


「え……知り合い?」

「しらいでか! コンクールで何度か見かけたし、大学部門に出ても優勝できるとか言われて、私の立場無くなりまくりだっての!?」


 ユウリが驚いた様子でクランドへとふりむく。しかしクランドはクランドで、見た目大和撫子な女性の残念な言動に驚いていた。


「……神前ユイさん。この間のコンクール、優勝おめでとうございます」

「嫌みか!? アンタと曲被ったせいで、比較されまくったっての!?」


 一応社交辞令を示したが、相手の敵意を煽る事に成功してしまい、クランドは内心で頭を抱えた。

 こうなったらクランドの賛辞など、意地でも受け入れまい。音楽を志す人間には変人が多いと言われるが、この残念美人はまあまだマシな方だろう。


「何? まさか宮藤先生に合わせるの? 鬼に斬馬刀与えるつもりか!?」

「……斬馬刀って何?」

「ロマン!」

「……何かごめんなさいね深海くん」


 謝ってくるユウリに、何も言えないクランドだった。

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