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ルフの物語  作者: 水栽培
22/25

22 戦争準備

 旧タルフ、現ドリアナ領である大陸……名称は定まっていないらしいが、仮にタルフ大陸と呼ぶ。

 タルフ大陸は大陸と呼ぶには少々小さく、オーストラリアの三分の一程の大きさの島だ。形状もオーストラリアに少し似ている。海岸線の総延長は一万五千キロ程。

 そんな小さな島であるから、こちらの総兵力約二十万……第一種複製体の総数をもってすれば各地の海岸線からの包囲攻撃が可能であったりする。二十万の兵で外周一万五千キロの島を囲んで包囲完了などというのは馬鹿げた話に聞こえるかもしれないが、当然七十五メートルずつ等間隔に兵隊を並べたりするわけではないから充分現実的な話だ。包囲といっても地形の関係もあって全ての海岸をカバーせねばならないわけではない。主要な港や拠点を制圧するだけの兵数があればそれでいい。一度制圧して武器や魔法具を回収してしまえば、あとは戦力に数えられていない第二種複製体でも治安維持が可能だ。森本が小世界管理で得たノウハウを生かして森本支配下の虫や植物による監視も行われる事であるし、まあ前世の警察程の装備で充分だろう。

 二十万という数は長い戦で疲弊したドリアナにはやや過剰なくらいだ。大陸中から兵をかき集めてもドリアナの兵力は六十万が限度。まともに動かせる兵力は当然それを大きく下回る。戦地によっては敵は兵数でさえこちらに劣る。そのうえ強化された複製体は誇張無しの一騎当千だ。まともに戦えばまず負ける要素が無い。


 そもそも、まともな戦をする必要が無い程戦力がかけ離れている。ライスフィールドには航空兵力がある。ドリアナには無い。ライスフィールドには強力な軍艦がある。ドリアナには木造艦しか無い。ライスフィールドには大陸間弾道ミサイルがある。ドリアナには無い。

 敵の射程外から一方的に攻撃して、終わり。パーシム防衛戦と変わらない。


 しかし、それが出来ない理由があった。ドリアナ滅亡後の統治に関する問題である。


「包囲戦か。各地の海岸から上陸、拠点を落としながら内陸部に向かって進撃、包囲の輪を狭めていく、ね。鳥人や龍人を使って拠点を直接落とせるだろう。戦いを長引かせる意味は」

「支配者交代の実感を持たせる為です。明治維新も最後には流血を欲した。彼らが我々の統治を受け入れるには自分たちは負けたのだという確かな実感が必要だ」

「あまりに短期に決してしまうとそれが無い、と」

「はい」

「で、戦車すら使わず生身での戦いをする、と」

「ええ。強力な兵器に負けた、では、道具さえあれば勝てると錯覚する。相手の土俵で完膚なきまでに打倒して初めて反乱の芽が絶てる」

「向こうにもプライドがある。逃げ道を全て潰してはかえって遺恨をのこすのでは」

「どのような倒され方をしても国が滅ぼされれば遺恨は残ります。それを最小化する為です。歴史書の記述で相手に見せ場を作る事で許して貰いましょう。少なくとも、長距離砲撃で消し飛ばされましたよりはましなはずです」

「違いない」


 どのような倒され方をしても、か。まあそうだな、国が滅ぼされたという一点だけで人を憎むには十分な理由だ。たとえ自分や親しい人が実害を受けていなかったとしても、たとえ自分の国に非があったとしても。


「戦闘による死者は」

「生存者からの求めがあれば一部の極悪人を除いて戦後に蘇生します」

「全員では無いんだな」

「ええ。ロクデナシの犯罪者もおりますから」

「身寄りが無いだけの善人はどうする」

「ライスフィールド本国で蘇生し、面倒を見ます」

「選別方法は」

「我々の主観です」

「……なるほど」


 絶対の公平などというものは無い。拠り所は我々の価値観だ。今後は我々が法となる。何を罪とするかは我らが決める。……酷い話だ。そして、それを主導しているのは俺だ。


「陛下、戦場で死んだ兵は通常生き返りません」

「わかっている」


 蘇生を行うだけでも充分に良心的だろう。しかし選別を行う事には拒否感を覚える。この世界の兵達の蛮行を知らないわけでも無いというのに。

 人格や経歴を無視して誰彼構わず蘇生すれば善良な一般人が被害を蒙る。佐々木達の言う事はおそらく正しい。


「……悪人でも、森本の予測で問題無しと判定された者は蘇生しましょう。森本による常時監視という条件付きで」

「わかった。それで充分だ。面倒な事を言ってすまない」


 以前の防衛戦とはまた違う。以前は殺さねば殺されていた。今回は、相手は俺たちを認識していない。こちらから、戦が終わったばかりの大陸に侵攻をかけるのだ。こちらから乗り込んで、殺す。やはり色々と思う所がある。だからこそ、敵の被害を極小化する上空からの拠点急襲を推していた。敵の拠点は上空からの侵入を考慮していない。急所に直接一撃を加えればそれで終わる。

 しかし、半端な情けはかえって傷を拡げる。正面から叩き潰して心を折る。それが最良なのだろう。


「侵攻開始はおよそ一月後を予定しています。しばらくは陛下にお越しいただく必要もありません。良い報告をお待ちください」

「わかった。よろしく頼む」


 覚悟が足りないのだろうな。俺はやはり根っからの一般人だ。王の器では無い。仇討ちを終えれば王の座を退く。それはなるべく早い方が良いだろう。ドリアナが滅んだらすぐに退いてしまおう。戦後処理は強化された俺の複製の方が上手くやれるだろう。

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