21 戦の気配
「小世界についての報告が」
「どうなった」
前回の報告から数時間経って佐々木から報告があった。俺が創造神気取りで小世界なんて作ってしまったせいでえらい事になったと思うと眠れたものではなかった。小世界創造そのものは良い。いずれは手を付ける必要のある分野だ。しかし魔法視認能力持ちを放り込んだのがまずかった。離反のおそれの無い人間に委ねるべきだった。うまくまとまってくれると良いが。
「志田様がネットのフィルタ解除と貿易を望んでおられます。また、どうやら志田様は今回のサニー様の行動を把握しておられないようで」
「把握していない……志田君の意思では無いと」
「ええ」
なら、関係修復の目はあるか?主人思いの部下による暴走……いや、サニーさんの志田氏への反乱?なんにせよ、志田氏もサニーさんに安全装置かなにか、強制的に従わせる仕組みぐらい組み込んでいるだろう。志田氏との関係を修復しサニーさんをコントロールできるようになればどうにか……少なくとも無改造の志田氏の方が与し易い相手なのは確かだ。前世の自分であるから価値観や思考パターンもそう極端に離れてはいないし、志田氏に関してはこちらにデータもある。
「フィルタ解除は通信内容の監視を条件に段階的に行うという形で了承しました。貿易に関しては通貨の電子マネーへの統一を行い金銭品物ともに現物ではなくデータの交換で行うという形で進めようと思います。禁輸品などのこまかな取り決めについては各部署から意見を集めている段階です。このまま進めて問題はありませんか」
「ああ、問題ないと思う」
「また、サニー様が謝罪を申し入れてきました」
「謝罪?」
「無礼を詫びたい、と」
「乗っ取りの件か」
「ええ。あの乗っ取りはそもそも敵対行為ではなく、行方が分からなくなった志田様を捜索しようと森本影響下の動植物をハッキングしたのが始まりだそうで」
「ははあ」
「ハッキング可能である事を知られたからには今後危険視されるのは確実。退けなくなったのでそのまま小世界全体を乗っ取り、交渉によって安全を保障させようとした、という訳だそうで」
「あー……確かに危険視はしたね」
「はい」
「続けて」
「交流によって信頼関係を築くには少々時間がかかりますので、とりあえずは利害関係を結びませんかと提案しました。軽度の相互依存の関係にあればそれが相互の安全に繋がります」
「うん。具体的には」
「向こうからは人工知性体技術の段階的開示、小世界の管理権限の返上。こちらからは人工知性体の受け入れが提供できる利益となります」
「受け入れ?」
「社会制度に組み込みます。第二種複製体やその子孫、及び大陸の住人とその子孫の教育係として」
「教育係、とは」
「道徳教育です。便利道具を出してくれるロボット的なポジションで」
「ああ、なるほど」
ついでに魔法具依存も進行させる気か。子供の世話役をしてくれて話し相手になってくれて便利道具を出してくれる。最初は反発があるだろうがすぐに普及するだろう。大多数の人間は便利さには抗えない。
「教育係に回して危険は無いか」
「こちらの世界に来た人工知性体の全行動全思考をモニタリングする権限を預けられています。緊急停止の権限も」
「なら大丈夫か。向こうが受けるメリットは」
「教育係として生まれた時から傍にいるパートナー。その故郷が酷い扱いを受けているとなればどう思いますか」
「なるほど。向こうにとって安全と権利の保障になるのか」
「ええ。この形で進めても宜しいですか」
「俺は問題無いと思うよ」
「わかりました。遠からず志田様と交渉する予定です」
「ん、わかった」
一時はどうなるかと思ったが、どうにかこっちは納まりそうか。魔法視認能力持ちの恐ろしさを思い知った。この短期間で一部とはいえ森本を超えるようなものを作ってくるとは。これは早くドリアナを潰してしまわないとまずいかもしれない。向こうに魔法視認能力持ちが現れたらと思うと恐ろしい。
しかし侵攻の名目や打倒後の統治の問題もあるらしくなかなかGOサインが出ない。焦燥感が募る。
「最初からこういう関係を作っておくべきだったな。充分な信頼関係と互恵関係が結べていればこんな騒動は無かったかもしれない」
「そうですね。結果的には良い方向に転がりましたが」
「うん。ちょっと前世の俺を侮り過ぎた。完全にコントロール出来る気でいた」
「ええ。驕りがありました」
調子に乗っては駄目だな。魔法があるから、森本が居るから、何が起きてもどうとでもなると気が緩みきっていた。蘇生複製何でもござれのこの世界においてさえ、取り返しのつかないミスというものはあるのだ。ちょっとした行き違いで自分の前世と殺しあわねばならなくなるところだった。緊張感を持たねば。
「ところで、大陸の情勢は」
「大陸ですか。ペカネが滅んだというのは先日お話しましたね」
「ああ。皇帝弑逆でミリカを見限りドリアナに着いたものの、ドリアナとの共同作戦でミリカからの反撃にあって領土の大半を喪失。ドリアナに保護を求めて自治権を失った、だったな」
「ええ。ドリアナに嵌められました」
「ドリアナとミリカの一対一の情勢になって、確か国土面積では3対1でドリアナが勝ってるんだったか」
「9対1になりました」
「え」
「寝返りが多発しました。王都攻略戦も近日中に決します」
「……いよいよか」
「はい。ミリカが滅べば、我々も大陸に侵攻します」
決戦か……村が滅んでから六年数ヶ月、長かったような短かったような。なんにせよ、これで一つの区切りがつく。両親の、兄の、村の皆の仇を討つ。ドリアナは俺が滅ぼす。




