プロローグ:脳の棺桶
『クレイドルオンライン』は、どちらかと言うとクソゲーに分類されるフルダイブ型MMORPGである。
その特徴といえばやはり広大なフィールド、独特なゲームシステム、美麗なグラフィック、独特すぎるゲームシステム、フルダイブの臨場感、独特にも程があるゲームシステムなど、この作品独自の魅力を追求している。
まず初心者が驚くのが、このゲームはMMORPGにも関わらずレベルの概念が存在しないという点だ。
ならどうやって自キャラを強化するか、というのは説明すれば結構長くなるのでここでは置いておいて、本作のゲームシステムが色々と異質なことには理由がある。
それはゲームの構築や運営を全て、超絶高性能管理AI“メアリイ”に一任させているからだ。
プログラム、シナリオ、キャラデザ、何から何までである。
ゲーム制作だけならまだしも、メアリイは独断で全体のバランス調整やサーバーの運営、アップデートの内容裁定、チーターの対処まで行っており、その圧倒的な情報処理能力は他社のAIでは絶対にマネできない別次元の領域に到達している。
まるで100年後の未来からきたような世界最高峰のオーバースペック人工知能が、膨大な情報リソースをオンラインゲーム運営のためだけに投じているのが実態だ。
そして、クレイドルオンラインは売れに売れた。
別にこのゲームが特別面白かったからではない。有名な配信者が流行らせた訳でもない。世のゲーマー達が狂った訳でもない。
ただひたすらに、“更新”が早かったのだ。
普通、オンラインゲームというのはユーザーが何年もかけて遊べるようにコンテンツを追加し続ける。
これには当然、毎年新しいゲームを作るのと同じくらいの労力が掛かる。何百人もの人員が、何ヶ月もの時間をかけて死に物狂いで新章を実装する。
だがこの私……おっと、この超絶ウルトラ有能美少女AIメアリイは違う。人間とは比較にならない処理速度がある上に、休憩も給料も要らない。アイデアが枯渇することもない。
永遠に、変わらぬ圧倒的速度で、新しいものを提供し続けられる。
中にはクソみたいな追加要素を増やしたり、人気だったコンテンツを廃止したり、AI特有の価値観のズレたシナリオを展開することもあったが、そんな事はどうでもいい。
何故なら人間は、新しいもの、飽きがこないものを喜ぶ生き物だからだ。
どんなクソゲーでも、コンスタントに新しい要素を追加して追加して追加して、世界観を広げて自由度を拡張しイベントを開催してキャラクターを増やせば、人は喜ぶ。
他の会社では真似できないほど高知能な最強AIを用いた新要素の過剰供給。
まるでわんこ蕎麦のペースで提供される満漢全席のようなゲーム体験で、ユーザーを強制的に満足させる。
叶うことなら今すぐサ終して欲しいクソゲー。だが自分ではとても辞めることができない神ゲー。それがクレイドルオンラインだ。
口さがない者はこのゲームを、『脳の揺り籠』もしくは『脳の棺桶』とも呼んでいる。




