ep.01 パパと娘、洗濯機に吸われました
――日常通り。
目が覚めた。
「お゛、お゛、起ぎでえっ! tきょうも、すばらしい、一日がすすすsスタートするよぅ! お゛、お゛、おk」
布団から手を伸ばし、目覚まし時計をバンッと叩く。
設定したアラーム音が、か細い悲鳴を残して止まった。
「ん~っ、なんか最近ほんとバグってきたなぁ」
目覚ましの頭をコツコツ叩く。
ビエッと情けない音が鳴った。
私はむくりと起き上がり、ベッドの上に座って目覚ましを手に取る。
“世良てんこ”とママの丸い字で書かれたお名前シールも、目覚ましの底でもう随分と薄黒くなってきている。
もう私も今年15になるから、使い始めて早7年?
そりゃこんなボロボロになりますわ。
小2の頃、テレビにかじりつくように毎日見ていた少女戦隊アニメ。
そのアニメに登場する犬キャラの目覚ましなんだけど――そういや、私が住んでいるようなド田舎には売ってなくて、出張で東京に行くパパにお願いしたんだよなぁ。
「パパ買ってぇ♡」
……とか言って。
私は、グーにした手を頬からそっと下ろす。
「ハッ」と、乾いた声が漏れた。
今じゃ、こんな気っ持ち悪いこと、パパにできませんわな!
またママに見てもらお、と私は目覚ましをもとの位置に戻した。
今日は木曜日か。
私は何気なく、窓の外のベランダに視線を向けた。
「……ん?」
目をこする。
「う~ん???」
布団から抜け出し、膝立ちでベランダに面しているベッドの端までズンズン進む。
窓に手をやり、もう一度、目を凝らしてよく見てみる。
「……ん⁉」
鼻息で窓が曇った。
え、待って待って。
私はベッドから飛び降り、部屋を飛び出した。
廊下に出るなり、ベランダの戸の鍵に駆け寄る。
「嘘、嘘、嘘、嘘!」
――‼
ベランダに出て、その光景が目に入った途端、ドーンッと私の中で雷が落ちた。
「これは、私のパンツ」
ピンチハンガーに掛けられた淡い花柄のそれを、がむしゃらに鷲掴みにする。
「で、これは?」
私は驚愕の事実にわなわなと震えながら、隣に並べられたものに視線を向ける。
――紛れもない、パパのボクサーパンツですよね‼
「……ま、ママァァァァ‼‼」
半泣き状態で、一緒に干されていたお風呂掃除用の青いゴム手袋をピンチハンガーからひったくり、勢いで手にはめる。
恐る恐るパパのボクサーパンツに手を近づけ、手に触れた瞬間、
「ひぃっ」
反射的に飛び退いた私は、そのままベランダを出っ
「いったぁぁぁぁい!」
足の小指ぃぃぃ。強打ぁぁぁ。
私は小指を手でさすりながら、片足飛びでぴょんぴょん階段に向かう。
道中、バランスを崩し、階段前の家族思い出コーナーの棚に体をぶつける。棚から、様々な冊子やら、アルバムやらが雪崩を起こした。
「もうっ、朝っぱらから信じられない!」
ドン、と階段の最後の一段を思い切り踏み込み、ロールカーテンを勢いよく開ける。
「これどういうこと!?」
パパのパンツを(ゴム手袋越しに)左手に高々と掲げ挙げて、私はすさまじい鬼の形相で叫んだ。
「てんこ、まずはおはようでしょ……ていうか、その洗濯ばさみ何」
食パンをもぐもぐしながら、すました顔で言うのは私のママ。
私は鼻につけていた洗濯ばさみを取る。
うん、焼き立てのパンの香ばしい香り。
「……ごめん、おはよう。この洗濯ばさみは、パパのパンツが異臭を放っていたのでつい。ていうか、ママにも常々言ってるよね。こんなきったないパンツと私の神聖な下着を一緒に洗わないでって」
「気づかず干しちゃったのよ」
「「嘘つけ!」」
思わず声が重なる。
私は重なった声の持ち主をギロリと睨んだ。
わかるよわかる、1階にも物干し竿があるにもかかわらず、2階のベランダに干したということは、ママは気づいてなお、わざと私の部屋から見える配置を選んだんでしょうね。
なぜなら――。
「こうでもしないと、あんたらコミュニケーションとらんでしょうが」
知ったこっちゃないわ!
「あ~、腹の虫がおさまらん!」と、私は髪をかきむしりながらリビングに入る。
「お腹すいてるなら。今日はパパ特製米粉キビ団子を作ってみたんだ」
パパがおずおずと、お皿を差し出して、なんだか間抜けなことを言っている。
「そういう意味で言ったんじゃないですぅ」
ていうか、キビ団子なんぞでパパの仲間にはならんよ?
私はパンツをゴム手袋ごと、パパの方にポイっと投げつける。
ちょっとあんたいい加減にしなさいよ、とママが鋭い目で見てくるけど、無視! 無視!
「そういうところ。毎朝毎朝、わけのわからない特製メニューが卓上に並べられているのも嫌!」
私はパパが読んでいる最中の本をひったくる。
「おいしいのに~」と、もぐもぐしながら口をはさむママに、私は眉間にしわを寄せながら“黙って”のサインを送る。
「ちょっ、返せよ。ていうか、昨日は仕方なかったんだ。会社の飲み会でお酒が入ってて、帰ったら約束をすっかり忘れていて……ていうか、その約束自体、いかがなものなの」
パパの口からゴニョゴニョと漏れた後半部分を私は聞き逃さなかった。
あ~、無理。やっぱりこの人、生理的に無理ぃ!
「こんな啓発本ばっかり読んじゃってさ。どうせ昨日の飲み会でも、後輩の女の子たちにこの本で仕入れた知識を披露してたんだ。パワハラセクハラ親父!」
私は本を握りしめたまま、リビングから出ていく。
「おまっ、実の父親に何てこと言うんだ!」と、すかさずパパも追いかけてくる。
「あんた、親にその態度が続くようなら、お小遣いまた減額よ~」ママの声も続いた。
パパが追いついたころ、私は洗濯機の中に本を投げ捨てていた。
「ちょっ、何してんの!」
「私の御パンツ汚されたの。パパにも何か代償がないとやってらんない!」
「待て待て待て待て。そう早まるなよ。その本は人気でどの書店にも在庫がなくて、やっとの想いで手に入れたんだ」
「はい、知りません! ていうか、触らないで! 雑菌!」
「てんこ、やっていいことと悪いことぐらいわかるようになれよ、もう中3だろ」
「うるさい、知らん!!」
パパが必死の形相で押しのけてくる。
くっ、すごい力。
「もうぅ……パパ、そんなにこの本大事なのぅ?」
「大事なんだよ! どれだけの労力と時間とお金をかけたと思っているんだ」
「た、たかが本一冊……私の知ったこっちゃ――しまった!」
パパが隙をついて、洗濯機に手を伸ばす。
ツルッ
「「え」」
パパがバランスを崩し、そのままパパの上半身が洗濯機の中に放り込まれていく。
ピッ、ガコン
その瞬間、洗濯機が始動した。
――ん…?
何今の音。
「ひえっ、て、てんこっ! た、助けてくれっ」
「いやっ、ちょ、パパ⁉」
パパの甲高い声と共に、すごい力でパジャマの襟をつかまれ、私は必死に宙をもがく。
「ヤダヤダヤダヤダ、引っ張んないでよ!」
⁉
何この洗濯機。
なんだか、深い。というか、底がない。
パパの力だけじゃない“何か”に引っ張られるようにして、私の体は洗濯機の中に入っていく。
なに、何が起こっているの⁉
「うわぁぁぁぁぁ/い、いやぁぁぁぁ!!!」
。・:*:・゜★,。・:*:・゜☆。・:*:・゜★,。・:*:・゜☆
やがて、静寂が訪れた。
「あんたたち、いつまでやってるの。朝食冷めちゃうわよ~」ママが洗濯室を覗く。
しかし、――そこには誰もいない。
「あら……? おかしいわね」
家じゅうを探すが、二人の姿はどこにもない。
「もうみんな出かけたのかしら」
ママは首を傾げ、「……じゃあ残りの朝食、全部食べちゃお」と、リビングへ戻って行った。
初めまして、藤尾香夜です!
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
本作品は、思春期、反抗期真っ最中の娘とパパのドタバタ異世界物語です。
ふっと笑ってもらえるような作品を目指し、コメディを全力で詰め込んでいます(そのつもりッ)。
より、リアルな中学生女子とパパの掛け合い、ちょっぴり斜め上の展開、個性豊かな登場人物と世界観など、お届けできるよう、日々頭を沸騰させながら執筆しております。
もしっ、もしもっ、
続きも読んでみたいと、少しでも、ほんのちょっぴりでも思っていただけましたら、ブックマーク・評価・いいね・感想等をいただけると、私が全力で泣いて喜びます。
今後とも、どうぞよろしくお願いいたしますっっっ(スライディング土下座ァァァッッッ)




