秋の遠征⑦
翌日――
起床して朝食を摂り、道着に着替えて防具をつけると、ワタシたちは体育館に集合する。
長野県の遠征合宿も、この午前中の稽古で終了。
だからワタシは、思い残すコトのないように全力で立ち向かうんだ。
昨日と同じように、最初は基礎練習をみっちりとこなして、その後小休憩を挟んでから、また試合稽古がはじまる。
今日もワタシは諏訪女の上泉さんの姿を見つけると、見失わないようにしっかりと狙いを定める。
「それでは、これより試合稽古をはじめる!」
そして、緒方先生が昨日と同じように説明をはじめた。
「各自対戦相手を見つけ次第、4分をひとつのピリオドとして行うのは昨日と同じだが、今日はそれぞれの帰宅時間を考慮して、全部で8回行って終了とする」
――8回までか……
まあ、最初に上泉さんとやればイイし、8回あればチャンスは充分なハズだ。
「それでは相手を見つけてくれ」
先生がそう告げると同時に、ワタシはダッとかけ出した。
ダダダダダダダダダダダッ‼︎
だけど、上泉さんを目指してかけ出したのはワタシだけじゃなかった。
ヒメカミさん、菊池、瀧川の四中トリオ――
タッつん、カッシーの三中コンビ――
そして、二中からシーコとツム――
「「「よろしくお願いします‼︎」」」
上泉さんの前に殺到したワタシたち8人は、一斉に頭を下げる。
「っていうか、タッつんとカッシー、なんで急にやる気出してんの?」
ワタシが問うと、
「いやぁ、なんか記念になるかなって思ってよぉ。高校チャンプとサシで勝負できるチャンスなんて、そうそうめったにあるもんじゃねぇからな」
「アタシもまあ、同じようなものだ。強い者を相手にどれだけ戦えるか、力量を量るいい機会だからな」
それぞれ答える。
でも、この2人がこんなやる気を表に出すのは意外だったなぁ。
「あら、わたくしは当然勝つつもりで挑みますわよ。高校に上がればおのずと全国の舞台で対戦することになる相手ですもの」
ヒメカミさんが高々に宣言すると、
「いいぞ、お嬢!」
「私はただ、お嬢さまのお供を努めるのみです」
瀧川と菊池がそれに続く。
このヒトたちはまあ、いつもどおりかな?
「で、ツムまで一体どういう風の吹き回し?」
「昨日のミカ姐見てたらさ、なんだか私も挑戦してみたくなっちゃったんだ」
ツムはそういう理由らしい。でも、昨日のワタシは、ただ打ち込まれてただけだったんだけどね。
で、最後にシーコなんだけど。
「シーコもめずらしいよね。自分から積極的に動くなんて」
「上泉さんとは、いずれまた全国で対戦するつもりでいた。しかし、中学と高校という隔たりから再戦には長い時を待たなければならない。それなら、対戦できるうちにしておいた方がいいと思ったんだ」
実にシーコらしい、クールな理由だ。
たしかに、今中学2年のワタシたちが公式の試合で上泉さんと戦おうとするなら、最低でも後2年経って高校生にならなければその権利すらない。それに、相手はその時にはもう3年生になってしまうから、対戦できる可能性のある期間は極めて短かかった。
「え〜、どうしよう。お姉さん、モテモテで困っちゃうな〜ぁ」
まるでサイン攻めを受けているアイドルを演じているかのような上泉さんは、
「ちょうど8人いるみたいだからさ、ジャンケンして順番を決めようよ」
そう提案する。
まさか、上泉さん目当てにこんなに殺到するとは思わなかったけど、とりあえず対戦できないということにはならないから、まあ、いいか。
そしてワタシたちはジャンケンをしたのだけど――
「うわぁ〜、ワタシ、最後じゃん!」
真っ先に負けてしまったワタシは、はやる気持ちを抑えて、順番が回るまでの間、他の選手と竹刀を交えた。それは、昨日身をもって学んだコトを試すイイ機会でもあった。
ワタシは主に高校生を相手に対戦を申しこんだ。
ワタシの小手打ちと胴打ちは、うまく決まるコトもあれば、あと少し届かないコトもあり、その都度調整して少しずつ精度を上げていくコトに努めた。




