98話 無力な傍観者
お久しぶりです。
ようやく時間がとれるようになったので、また続きを書かせていただこうと思います。
待っていてくださった皆様、大変長らくお待たせいたしました。
皆さんからの感想や評価、とても励みになりました。
感謝の気持ちでいっぱいです。
不定期になるかもしれませんが、なるべく以前と同じペースで投稿したいと思いますので、今後もよろしくお願いします。
アレキサンダー視点
「ッく……」
純粋な力と力のぶつかり合い。
あまりの衝撃に空気が揺れ、風圧とぶつかり四散した魔力の余波がこちらにまで届いてくる。
二人の英雄の戦闘は文字通り次元が違った。
こちら側が干渉できる要素などどこにもない。
ゴギンッ
鈍い音とともに『黄金の英雄』の右拳がディアボロの頬を完ぺきに捉える。
しかし、あいつは怯むことなく腕を振り抜き無防備な状態の相手の頬に拳を打ち込む。
が、『黄金の英雄』もよろめかない。
「平伏させろ!【雷神の鉄槌】!!」
『黄金の英雄』の両手の籠手が青白い火花を散らしながら黄金のガントレットに変化する。
「打ち抜け【ケルベロスフィスト】」
それに対してディアボロも漆黒の鎧を身に纏い、その鎧を地獄の番犬の顔が刻印された篭手に変形させた。
互いの拳が正面からぶつかり合うが、恐らく威力は互角。
二人とも若干仰け反るもすぐに肉弾戦が再開する。
一撃一撃が俺たちからすれば必殺の一撃だ。
それでも二人の英雄はお互い一切引く様子がない。
「あいつら、バケモンかよ……」
先ほどから互いにほとんど防御姿勢をとっていない。
それはつまり、あれだけの威力を持った攻撃をもろに受け続けているということになる。
二人とも夥しい量の魔力が籠った鎧を身に纏っているが、規格外の六英雄同士の戦いだ。
完全にダメージが打ち消せているはずがない。
実際『黄金の英雄』はディアボロからの一撃を貰うたびにその端正な表情を歪めている。
あいつが『黄金の英雄』からの誘いを蹴った時とはまた違う、純粋な痛みからくるものだろう。
その身に纏った黄金の鎧も所々に罅が入っている。
破損するたびに魔力を込め修復しているようだが、ディアボロの猛攻に追いつけていないのだろう。
対してディアボロの表情に見た限り変化はない。
あいつが纏う鎧は口元も覆っているため、その表情全てが見えるわけではないが『黄金の英雄』のように苦悶の表情を浮かべている様子はない。
しかし、ダメージを受けていない、というわけではないのだろう。
あいつの鎧も『黄金の英雄』のものと同様に所々罅が入っている。
ただこちらは『黄金の英雄』とは違い魔力による修復が行われている様子はない。
防御力は『黄金の英雄』の物より優れているのか、罅の大きさや箇所は比較的軽微だが少し気になる。
互いに少なくないダメージを受けている。
一撃毎に血飛沫が舞い、鎧が砕ける。
なのになぜ二人とも怯まない?退かない?
「なんで二人とも止まらねぇんだよ…」
「……恐らく、その一瞬の隙が命取りになるからでしょう」
俺の疑問にロボが答える。
「互いの実力が拮抗しているのならば、ほんの僅かでも隙を見せれば一気に押し切られる。それを理解しているからこそ互いに攻撃の手を緩めない。いや、緩められない」
再び『黄金の英雄』の拳がディアボロの顔面を捉えた。
しかしあいつは決して『黄金の英雄』から視線を逸らさない。
僅かに仰け反った身体に反動を加えて『黄金の英雄』の露出した腹部に拳を叩き込む。
「カハッ……!!」
『黄金の英雄』の身体が僅かに宙に浮く。
しかし続いて顔面を狙った蹴りは両手で弾かれた。
「GURURUAAAAA!!!!!」
「ッグ……、このっ!!」
ディアボロの咆哮が響き渡る。
恐らくスキルか何かなのだろう。
こちらに向けられたものではないと分かっていても恐怖や威圧感に飲まれそうになる。
だがそれを正面で受けた『黄金の英雄』は止まらない。
またノーガードの殴り合いに身を投じる。
「……お前は助けに行かなくて良いのかよ」
俺はもう既に体力も魔力もすっからかんだが、ロボは違う。
あの二人の実力が真に互角だと言うなら、ロボが参戦すれば戦況はこちら側に傾くのではないか?
「こんな時に馬鹿なことを言わないでください」
しかしロボはその案を否定する。
「あなただって分かるでしょう。今の私にできることは、あの戦いの余波からあなたやあの子たちを守ることくらいです」
「悪かったよ」
ロボは口調こそ普段通り冷静だが、内心怒り狂っていることだろう。
普段の物静かで控えめな立ち振る舞いから勘違いされやすいが、ロボは非常にプライドが高い女だ。
しかし俺はその高いプライドに見合う程の修練を彼女が今まで積み重ねてきたことを知っている。
だからこそ彼女のことを傲慢だとは思わない。
「冒険者の頂点が只の傍観者にしかなれないとは、私は今、恥ずかしくて仕方ないっ……!!何が第七冒険者だ!何が『孤狼王』だ!彼の足枷にしかなれないくせに!何が……」
「お前……」
ロボの噛み締めた下唇から血の雫が地面に垂れた。
頬は興奮の怒りのあまり紅潮し、握りしめた拳は軋みながら震えている。
その姿は、自分が知るかつての彼女とはあまりにかけ離れていた。
その怒りは、魔王様から与えられた任務を十全に果たせていない不甲斐なさから来るものなのか?
それとも俺たち魔族の不倶戴天の敵である人族の英雄に対する憎しみから来るものなのか?
それとも……
「ですが、こんな役立たずの私ですが」
あいつの
「いざという時には肉壁くらいにはなりましょう」
『黒曜の英雄』を助けられない自分の無力さへの怒りなのか?




