97話 その言葉の重み
ロボ視点
「なんで……?」
『黄金の英雄』の口から零れた言葉は、私たちが思ったことと同じだった。
「なんでまだ戦おうとするんだよ!?もしかして俺ちゃんのことが信用できないのか?俺ちゃんよりもそこにいる虫けら共のことを信じるのかよ!?」
『黄金の英雄』は血を吐くように叫ぶ。
だが、再び拳を握ったディアボロの表情は変わらない。
「やっぱり洗脳されてるんじゃねぇか!!待ってろ今すぐに助けてやるからな!!!」
『黄金の英雄』は凄まじい形相でこちらを睨みつけてくる。
彼女がその気になれば、私たちはろくに抵抗もできず、一瞬で物言わぬ死体に成り果てるだろう。
にもかかわらず彼女が動けないのはディアボロを警戒しているからだ。
そんな彼女を見て彼は呟く。
「感謝はしてる」
「何を……」
「お前が俺を救おうとしてくれたことには感謝してる。俺には相手の心を読むことなんてできないからさっきの言葉が本心からの物なのかは判断できないが、もし本心から言ってくれたのなら俺は心からお前に感謝する。ありがとう」
「ならなんで俺ちゃんの手を取らない!!」
『黄金の英雄』の疑問はもっともだ。
彼の立場であれば多少の怪しさはあれど、誰だって彼女の手を取るだろう。
彼とてあちらが提示した提案にはかなりの魅力を感じていたはずだ。
そして少なくとも私から見て、彼女からは噓を吐いている気配はない。
ファンタズムに行けば彼は比喩ではなく、文字通り望むもの全てを手にすることができる。
逆に私たちは彼をヘルヘヴンに引き留めるすべを何一つ持っていない。
今彼が『黄金の英雄』の手を取れば、間違いなくヘルヘヴンは滅ぶ。
だが
間違いなく彼は今よりも幸せになれる。
なのになぜ。
「『契約』だ」
そんな私たちの疑問に、彼は呟くように答えた。
「契、約……?」
「そうだ」
「っあぁそうか!魔法か何かで縛られてるんだな?安心しろ。俺ちゃんはそういうのは得意じゃないが、ファンタズムには腕のいい呪術師や魔法使いが何人もいる。だから」
「違う」
捲し立てる『黄金の英雄』を遮り、ディアボロははっきりと否定する。
「少なくとも俺はそんなものを使われた覚えはない。今俺が話しているのは単純に魔王と結んだ『俺の働きに応じて魔王レイラ・ヘルヘヴンが報酬を支払う』という『契約』の話だ」
「だったらそんなもの捨てて俺ちゃんの手を取れよ!さっきも言ってたじゃねぇか!『随分な扱いを受けてる』って!!ディアボロちゃんが今の扱いに納得しているならまだしも、そうじゃないんだろ?」
「お前の言うとおりだ。俺は今の扱いに満足しているわけじゃない。不満も多くある」
「だったら」
「だがそれでもその『契約』を結んだのは他でもない俺自身だ」
「……」
「『まずは先立つものが必要だった』『まさかここまで蔑ろにされるとは思わなかった』『右も左も分からない世界に飛ばされて情報を得る手段がなかった』『俺を召喚するために犠牲になった者への義理立て』。様々な理由から他に選択肢がなかったことは事実だし、それに流されて判断を誤った可能性については否定しない。だが最終的には俺が決めたことだ。ならその責任は果たさなければならない。そもそも」
魔法か何かで縛られなくとも契約は果たすものだろう
彼のその言葉に、『黄金の英雄』は返答に窮していた。
それは恐らく彼の言葉が正しいと思ったからではなく、理解できないからだ。
そして私も同じく彼の考えが理解できない。
「……まぁ、俺も人間だ。あまりにも理不尽が過ぎる時は一方的に契約を破棄することもあるだろう。誰だってそうだろう?俺は聖人君子ではない。やはり自分の身が一番可愛いからな」
などと彼は続けてもっともらしいことを言って見せる。
彼は気づいていないのか?
自身が今、どれ程の理不尽に曝されているかに
律儀と言えば聞こえは良いが、彼の考えは異質だ。
もはや懐が深いとかそのような次元の話ではない。
彼は狂人の類だ。
「あぁ、分かったよ……。ディアボロちゃんの考えは」
そう言って『黄金の英雄』は、ここで初めてディアボロに対して戦う姿勢を見せる。
彼女も彼の狂気にあてられ、諦めたのか?
違う
その目には先程よりもさらに強い意志が見て取れた。
「こうなったら意地でもディアボロちゃんをファンタズムに連れ帰る。ディアボロちゃん、もしかしたら自分では気がついてないかもしれないけど、君は既に壊れてしまってる。痛々しくて見ていられないほどにな。何が一番キツいって、ディアボロちゃん自身がそれを自覚してないってとこだ」
『黄金の英雄』はディアボロと同様に拳を構え、大きく深呼吸する。
「だから、ディアボロちゃんを半殺しにしてでも、瀕死にしてでも、引きずってファンタズムに連れて行く。恨み言は向こうに着いたらいくらでも聞いてやるし、その後に俺ちゃんを半殺しにしてくれても構わない。その後に美味いものでも食いに行こうぜ?」
「……あまり誘惑してくれるなよ。うっかり誘いに乗りたくなる」
『黄金の英雄』は少し驚いたような表情を浮かべた後、顔を歪めながら吠えるように名乗る。
「ファンタズム六英雄が一人『黄金の英雄』エルシー・ゴールデンハート!!」
「……六英雄が一人『黒曜の英雄』ディアボロ」
「必ず君を助ける」
「遠慮はいらん。殺す気で来い」
次の瞬間、二人の姿が掻き消えた。
いつも本作品を読んでいただきありがとうございます。
本作品は今回の話をもってしばらく投稿を休ませていただきたいと思います。
理由は仕事が多忙で時間が取れないことと、自分が納得できる話が書けなくなったからです。
書きたいストーリーはある程度あるのですが、自分にはそれを読みやすく文章で表現する技術が全く足りていないというのが現状です。
なので休んでいる間にそのあたりの勉強にも取り組みたいと思います。
また時間が取れるようになり、自分が納得できる文が書けるようになったら再開させていただきます。
中途半端なところで休む形になり、本当に申し訳ありません。
今まで本当にありがとうございました。




