↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
臆病・口下手・不器用と三拍子揃った俺だがこの奇妙な異世界には負けたくない  作者: Deadfool


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

92/188

92話 蹂躙

アレキサンダー視点

 「【獅死舞】ッ!」

 「あん?」


 乗せられていた足を弾き飛ばし、渾身の一撃を放つがアッサリかわされる。

 だが目的は果たした。


 「もう少しだけ耐えてくれ」

 「アレ、ク……」


 『黄金の英雄』が取り落としたカレンを背後に庇い、隙を伺う。

 この瞬間にも彼女の傷口からは大量の血液が流れ出す。

 俺は一瞬迷ったが方法はこれしかない。


 「カレン、死ぬほど痛いが我慢できるか?」

 「……大丈夫、痛いのは、慣れてるから」


 抽象的な問いかけだったが、彼女はある程度察してくれたようだ。


 「舌を噛むなよ」

 

 残り少ない魔力を電撃に変換し、彼女の傷口を焼(・)く(・)。


 「ッ……!!ッ……!!!」

 「……すまん、こんな方法しか思いつかなかった」


 脂汗を吹き出しながら必死に痛みを堪える彼女の姿は思わず目をそらしたくなるようなものだった。

 しかし、すでに回復アイテムも魔道具もない今の俺にはこうするしかなかった。

 このままではこの出血でどのみち彼女は助からない。

 声にならない悲鳴が止む。

 カレンの首もとに手を当てる。

 血管を血液が循環するのを感じた。

 あまりの痛みにショック死する可能性も多分にあったが、ひとまず最初の賭けには勝てたようだ。


 あとは何とかしてカレンを含めた『神の盾』と『暁の傭兵』のメンバーをここから逃がす。

 ロボだけでもこの場に呼び出したいが、あいつを呼べば十中八九『黒曜の英雄』もついてくる。

 そんなことになってしまえば何のためにカレンが片翼を犠牲にしたのか分からない。


 どうする?

 この状況で俺にできることは何だ?


 「おいおい、何だよ、まだ動けるんじゃねぇか。……あ?」

 

 俺を見て薄ら笑いを浮かべていた『黄金の英雄』の眉がピクリと動いた。

 そして何を思ったのか拍手をし始めた。

 

 「そういうことかよ、いやぁすげぇなお前」

 「何言って」

 「それ、自(・)分(・)の(・)筋(・)肉(・)に(・)電(・)気(・)流(・)し(・)て(・)無(・)理(・)や(・)り(・)動(・)か(・)し(・)て(・)ん(・)だ(・)ろ(・)?」

 「ッ……!?」


 バレている。

 

 俺の体はもうすでに限界を向かえていた。

 奴からの一方的な蹂躙によって、もう既に体力は残っておらず指一本動かせない状態だった。

 だから俺は今、自身のなけなしの魔力を電気に変換し、それを筋肉に流すことで何とか強引に体を動かしている状態だ。

 

 俺の今までほとんど使ったことのない奥の手だ。


 それを一瞬で見破られた。


 「すげぇよ本当に、驚いた。そんなこともできるんだな。……でもなぁ」


 先程までニヤついていた『黄金の英雄』の顔から表情が抜け落ちる。

 

 「それだけだわ」

 

 一瞬で距離を詰めてきた『黄金の英雄』の膝が俺の顎をかちあげる。

 歯と顎の骨が砕け、感覚が無くなる。


 「だらしねぇ、身体中小刻みに震えてんじゃねぇか」


 鳩尾に拳を叩き込まれる。

 折れた胸骨が内臓に突き刺さる。


 「反応速度も遅い」


 太ももに蹴りを入れられ、思わず膝を突く。

 もはや電気を流しても痙攣するだけで立つことすらままならない。


 「さっきのお前が勝てなかったのに、操り人形になったお前が勝てる分けねぇだろうが」


 踵落としで頭を地面に叩きつけられる。

 額が割れ、意識が刈り取られそうになる。


 「か、ハッ……」

 「でも面白かったのは事実だし、ご(・)褒(・)美(・)をやろう」


 耳を掴み無理矢理顔をあげられた俺が見たのは、満面の笑みだった。


 「お前は生かしといてやるよ」

 「てめぇ……」

 「お前はもう少し寝かせてから喰(・)っ(・)た(・)方が旨そうだからな」


 それから掴んだ耳元に顔を寄せ、囁く。


 「だが他の奴は駄目だ」

 「なッ……!?」

 「さっきの羽虫は論外だとして、そこで転がってる蟻共もそれほど伸びしろがあるとは思えねえ。ディアボロちゃんを呼ぶのは……、しゃーねぇ本当は関わりたくねぇけどそ(・)う(・)い(・)う(・)の(・)が得意な奴に任せるか」

 「ふざけるな、誰がそんなこと」

 「お前に止められる分けねぇだろうが。いい加減現実見ないと自分が惨めになるだけだぜ?お前はただ俺ちゃんに『見逃してもらった』事実に感謝して咽び泣いてろよ」


 体はすでに満身創痍、魔力も底を尽きた。

 もはや悪態を吐くことでしかこの女に反抗の意思を示すことができない。

 

 なんて無様だ。


 『黄金の英雄』がようやく俺の耳を離すが、力が入らずそのまま顔面から地面に倒れこむ。

 何とか顔を上げると、奴はそのままカレンのもとに歩み寄っていた。


 「やめろ、やめてくれッ……」

 

 必死に喉から声を絞り出すが、届かない。

 こんなことならカレンの制止を無視してでも『黒曜の英雄』をこの場に呼び出すべきだった。

 あとでカレンに何を言われようと構わない。

 最悪縁を切られたって構わない。


 彼女がこの世に生きてさえいてくれれば、俺にとってはそれだけで十分だったはずなのに。

 

 動け!

 動け動け!

 動け動け動け!!!


 俺がもがいている間に奴は意識を失ったカレンのもとに立つと、その頭上に足を持ち上げ、こちらに微笑みかけてくる。

 

 俺には『黄金の英雄』が鎌を振り上げる死神に見えた。


 「や、め、てくれ……。呼ぶ、あいつを呼ぶからッ……!」

 「いーよ、いーよ。あとであの蟻共に聞くから。うーん、二匹くらいいれば十分か?本命と予備。目の前でお仲間が楽しくお(・)話(・)してたら自分から話したくなるだろ」

 「頼む、たの、む」


 何が第七段階冒険者だ。

 何が『雷帝』だ。

 何が一族の誉れだ。


 ここにいるのは、親友の危機にただ地に伏すことしかできない無能じゃないか。


 情けなくて涙が溢れて止まらない。

 今の俺には、己の無力を呪うことしかできない。

 

 「じゃ、お別れは済んだな?俺ちゃんもやることあるからさ。次はもっと楽しめるように頑張れよ?」


 

 死神はそう言うと、俺の顔を見ながらカレンの頭上に持ち上げていた足を振り下ろした。


 


 

 

 

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。