84話 要求
「もちろん報酬は私が用意しましょう」
先ほどは面食らっていたロボだったが、すぐに相手の要求を飲むことを伝えた。
彼女にとってもこれ以上話が拗れるのは避けたいのだろう。
「悪いがキミにワタシが望む報酬が用意できるとは到底思えないね」
しかしそんなロボをフランベルジュは一蹴する。
「私の一存でどうにもならないような報酬をお望みでしたら魔王様に掛け合って」
「魔王様でも無理だよ。ワタシが望むものを用意するのはね」
まぁ、俺がフランベルジュの実験台になった時に支払うと言っていた報酬の額を考えると、金には不自由してなさそうだしな。
そして恐らく彼女が最も望むのは己の知識欲を満たすこと。
つまり
「……」
「……」
ロボと会話している間もじっと俺を見つめながら薄笑いを浮かべているあたり、嫌な予感はほぼ確信へと変わりつつあった。
そして同じことにロボも気がついたらしい。
「まさか、ディアボロ様に何か要求するつもりですか?彼にあなたへの報酬を支払う義務はありません。これは私とあなたの、ヘルヘヴンの問題です」
「ならさっさとこの場から立ち去りたまえ。話すことは何もない。ワタシも暇ではないのでね、こんなことで時間を無為に消費したくない」
「あなたもこのヘルヘヴンの国民であるならば、この国のために協力する義務があるはずです」
「魔王様にこの研究所を任された時にワタシはちゃんと伝えたはずだ『ワタシはワタシの好きなようにやらせてもらう。形式上は魔王軍に籍を置くことになるが、部下になるつもりはない』とね」
「その頭に刺さったボルトは締まりが悪いのですか?ならば私がきっちり締め直して差し上げましょう」
「いらん世話だよ。キミはまず彼のお世話に集中したらどうだね?」
このままじゃ拉致が明かん。
「何が欲しい?さすがに何でも用意するとは言えないが、可能な限り要求には応じよう。ただ悪いが俺にできることなどたかが知れてるぞ」
「ディアボロ様!?」
フランベルジュがより一層笑みを濃くする。
何笑ってんだお前。
正直、この変態の要求など飲みたくない。
だが、『統率者』の謎を解くことは俺個人のためにもなる。
不安要素はなるべく潰しておきたいのだ。
そのためには多少自分の身を切り売りすることもやむを得まい。
いや少し早まっただろうか。
あぁ、もう既に後悔し始めてる。
「物分かりがよくて助かるよ」
「ディアボロ様、お考え直しを。彼女にそんなことを言ってしまえば、何をさせられるか分かったものでは」
「話が進まん。少し黙っててくれ」
お前も少しは頭を冷やせ。
唇を噛むロボとは対照的に満面の笑みを浮かべるフランベルジュに少し非難の眼差しを向ける。
お前もいちいち挑発するなよ。
そんな俺の意図が伝わったのかどうかは不明だが、彼女は肩をすくめると白衣のポケットから小さな鍵を一本取り出してロボに投げる。
「客間の場所は分かるね?彼との交渉が終わるまでキミはそこでゆっくり寛いでいるといい」
「……」
ロボが殺気を込めた視線を向けるが、フランベルジュはさっさと失せろとばかりに手をひらひらと振るだけだ。
彼女は大きく息を吐き出し、俺に一礼するとその場を後にした。
それを見て少しホッとする。
また目の前の女の挑発に乗るようではまた話が停滞するところだったが、何とか堪えてくれたようだ。
「さて、それじゃあ邪魔物も消えたことだしキミをワタシの部屋へ招待しよう。喜びたまえ、ワタシの部屋にワタシ以外の人物が入るのは初めてだ」
そう言ってフランベルジュは指を鳴らした。
瞬間、視界が暗転する。
気がついた時には俺と彼女はとある一室に移動していた。
「転移魔法……」
「おや、あまり驚かないんだね?キミは知らないかもしれないが、このヘルヘヴンで転移魔法の使い手は数えるほどしか存在しない。見直したかい?」
確かに転移魔法の使い手の希少さはロボから聞かされていたので驚きはしたが、見直しはしない。
だって凄いけどこいつが凄いイカれた奴だってことには変わりないし。
「立ち話もなんだ。とりあえずそこにかけてくれ。遠慮せず寛いでくれ。自分の部屋のように思って貰ってもかまわない」
その言葉を受けて俺は部屋を観察する。
高く積まれた書類の山。
あたりに散らばった試験管や薬瓶。
恐らく彼女の身に付けているものであろう、無造作に置かれた服や下着。
正直足の踏み場も無いような汚い部屋だ。
こいつよくこんな状態の自室に人を招いたな。
「おいおい、どうしたさっきから固まって。そんなに緊張しないでくれよ。見た目に似合わず可愛いところもあるじゃないか」
何が嬉しいのかゴミの山に腰を掛けながらフランベルジュはクツクツと喉を鳴らす。
緊張してるんじゃねぇよ。
引いてるんだよ。
お前の頭に刺さったボルト、脳味噌貫通してんじゃないのか?
「何か飲みたい物はあるかい?たしかこの辺りに…」
「いらん」
この女が用意する何が入っているかも分からない飲み物など、恐ろしくて口にできない。
飲み物の話をしているはずなのに下着の山に手を突っ込んで何かを探している時点で別の意味でも恐ろしい。
「さて、それじゃあ本題に入ろうか」
「あぁ」
彼女に支払う報酬については一応『可能な限り要求には応じる』と釘は刺した。
彼女は恐らく英雄である俺の体を調べたいとかそんな要求わしてくるはずだ。
内臓引きずり出したりされるわけではないのなら可能な限り応じよう。
「キミに支払って貰う報酬だが…」
彼女は先程のニヤニヤした表情から一転、笑みを消す。
「キミとワタシとの間に子供をつくりたい」
「は?」
俺には彼女の言葉の意味が理解できなかった。




