61話 嘘はつかない
「どういうおつもりか、お聞かせ願えますか?」
カムイの村から町への帰路で、俺はロボに詰め寄られていた。
2m近くある俺と同程度の身長の彼女に詰め寄られるのは、彼女が無表情なのも相まって迫力がありかなり怖い。
「最後に村長に言ったとおりだ。逆恨みされるのは御免だから金で黙らせようとした。それだけだ」
「そんな手など使わずとも私に言っていただければあのような村などいつでも更地にできます」
「カムイの村はヘルへヴン有数の鉱山を所持しているんじゃなかったのか?あの村を滅ぼして魔王軍に影響が無いとは思えないが?」
「仰る通り、確かにカムイの村を失う事は魔王軍にとってかなりの痛手になる事でしょう。ですがその問題の解決に動くべきは我々魔王軍であって、あなたではありません」
「カムイの村を失う事で起きる不利益を被る事になるのは魔王軍だが、今回の件で面倒な言いがかりをつけられて迷惑するのは俺だ。俺はただ自分の問題を自分で解決しただけだ」
「……我々にはあなたを守る義務があります」
ロボの言葉に思わず鼻で笑いそうになってしまった。
『我々にはあなたを守る義務がある』?
心にもない、思ってもいないことを口に出すなよ。
それにしてもやはり出過ぎた真似をし過ぎただろうか。
今日のロボはやけに食い下がってくる。
討伐したタイラントバジリスクの素材の所有権が俺にある以上、その素材を売って得た金を俺がどう使おうと魔王軍に不利益はないと考えてのことだったのだが、いったい何が気に食わないのだろうか?
人族である時点で俺の一挙手一投足全てが気に入らないと言われてしまえばそこまでなのだが。
「そうか」
ここはあまり波風立てないほうが吉と見た俺は、とりあえず納得した。
彼女も本心で言っていないとはいえ、やはり建前は必要である。
であれば俺も表面上はその言葉を受け取ろう。
俺と彼女たちの間にあるのは信頼関係などではなく、あくまで契約なのだから。
「……あなたの意図は理解しましたが、あの言い方は余計な敵を作るだけですわ」
そこでさきほどから馬車に乗り、黙って俺たちの会話を聞いていたサーシャが口を開いた。
俺とロボの会話が終わるのを待っていたのだろう。
賢くて気遣いもできるとは、随分とできたお嬢さんだ。
「今のカムイの村には『敵』が必要だと思いましたので」
「『敵』?」
「はい、サーシャ様は家族を失った子供たちの顔を見ましたか?」
「もちろんですわ。……あの時の彼女たちの顔は、しっかり脳裏に焼きついています」
俺の質問にサーシャは僅かに顔を歪めた。
さっさと忘れろとまでは言わないが、これからも外の世界で一人の商人として大成したいのならばあまり引きずられても困るのだが。
そんな簡単に心が動かされているようでは今回のような緊急事態の際に冷静な判断が下せなくなってしまう可能性が出てくる。
とはいえ『情』も商談の際に武器になることもあるので、今はそのことに関しては触れない。
「彼女たちはこれからも身内のいないカムイの村で過ごす事なります。しかし今回の件でできた『家族が帰ってきた者』と彼女たちの間の溝が深まり争いが起きるのも時間の問題でしょう。『なぜあの子の元には帰ってきたのに私の家族は死んだのだ』と」
「……」
「これはあくまで俺個人の予想ですが、すでにその予兆のような物は感じ取れました」
アイリスがその最たる例だ。
今は我慢できてもその心の中にある不満は時間と共に増加し、いつか爆発しかねない。
「ならどうすればいいか?カムイの村を再び団結させるために新たな敵を作ります。それが俺です」
「……確かにあなたが適任ですわね」
「人族で、愛する家族の危機に間に合わなかった役立たず。頭では俺に責任がないと言い聞かせようとしても心はそうは行かない。彼女たちの気持ちは流れたい方向に向かう、俺という共通の敵を憎む方向へと」
ここだけ聞けばまるで自らの犠牲によって他者の幸せを願う、まさしく英雄の所業だがもちろんこれも全て自分のためにやった事だ。
本来であれば俺の行動の意図を話す必要などない。
それをわざわざ明らかにしたのは少しでもサーシャの自分に対する印象をよくするためだ。
いや、違うな。
少しでも自分にとって利用価値がある人物だと思わせるためだ。
今まで以上に面倒事に巻き込まれる可能性もかなり大きくなるだろうが、すこしでも自分と敵対する可能性は減らしておきたい。
金は握らせた。
これで俺を憎みはしても直接的な危害を加えてくる可能性は下がったはずだ。
何事もバランスが重要なのだ。
「それが本心から言っているのであれば、たいした物ですね」
「嘘はついていませんよ」
皮肉っぽく返されたが事実だ。
俺は本心からそう思って行動に移した。
ただこれはあくまで手段であり目的は別にあるというだけのこと。
俺は一言も『悲しみに暮れるカムイの村の人々のために』とは言っていない。
嘘はつかずに真実を口に出さなかっただけの事。
サーシャもそのことには気がついているかもしれないがかまわない。
あくまで俺の目的は『立派な人物』だと思われることではなく『価値がある人物』だと思われることなのだから。
過ぎた事よりも今は町に戻ってからのことを考えなくては。
「……悪い人ですわ」
サーシャの呟きも聞こえないふりをして僅かに重くなった歩みを進める。




