6話 レイラ・ヘルヘヴン
レイラ視点
「どう思うカミーラ」
「悪くないと思うよ。人族じゃなければ文句なしだね」
「珍しいな。お前がそこまで男を褒めるのは」
「私は褒めるところがあればちゃんと褒めるよ?」
不満げな顔をしているが、この幼馴染が男を褒めているところなど数百年一緒にいて見たことが無い。
彼女は異性よりも同性を好む。
しかしそれ自体は別に珍しいことではない。
この世界では男子の出生率が著しく低く、その出生率は1000人に1人だと言われている。
なので一生のうち両手で数えられるほどしか男を見たことが無い者もいる。
それほどまでに男女の比率に差があって何故我々は絶滅しないのか?
それはこのヘルへヴンの各所に存在する『精霊樹』から『精霊』を授かることで我々は子を宿すことができるからだ。
このような事情があってカミーラのような同性愛者は非常に多い、と言うより殆どだ。
「顔はあまり良くなかったけどね。それに、あんなに大きな男は初めて見たよ。最初はてっきり女だと思った」
「それは私も同じだ」
この世界の男は皆中性的な顔立ちで華奢、身長もどれだけ高くともディアボロの胸元にも届かないだろう。
だからこそ、彼の容姿は我々の目には奇妙に映った。
「でも愛玩用としてじゃなくて、戦う者としては理想的な体格だったな。まるで私たちが知っている男とは別の生き物だ。さすがは六英雄、ってところかな?」
「エヴァの弓を防いだ時点で力量の高さは言うまでもないが、内包する魔力も相当な物だ」
「……勝てそう?」
「よくて相討ち。しかも我々はまだあの男の全てを把握できている訳では無い」
「向こうに召喚されなかっただけでも代償を払った甲斐はあった、かな…」
「……」
そうだ。
彼を召喚するために使用した『女神の涙』。
それを手に入れるために決死隊を組み、ファンタズムの神殿に強襲をかけた。
大人数だと早くに覚られる恐れがあったため、10人の選び抜かれた精鋭部隊を送り込んだ。
彼女ら全員が歴戦の猛者であり、しかもそのうち1人は魔王軍幹部『五本指』の1人『赤乱雲』ローズ。
残りの9人も全員が五本指の候補の優秀な戦士だった。
英雄たちが他の拠点に出払っているタイミングを狙い、更に長い年月をかけ地図を作り最良の経路を導き出し万全を期して臨んだ作戦。
しかし帰ってきたのは1人、直後に五本指に昇進することとなるイザベラだけであった。
イザベラの話によると、神殿で『女神の涙』を手にするところまでは作戦通り進んだ。
しかしその直後にいるはずの無い英雄が3人も現れた。
どこかから情報が漏れたのだ
イザベラ以外の9人は即座に足止めを引き受け、彼女を脱出させた。
想定外の状況においてもそのような判断が下せたのはローズがいたからであろう。
彼女はイザベラの実の姉であった。
だからこそあの召喚の最中、イザベラは誰よりも願ったことだろう。
どうか魔族の英雄を、我々の救世主を、と。
それ故に人族であるディアボロに対する落胆と憎しみは大きかった。
姉たちの命を犠牲にして呼んだのがコレなのかと。
それが筋違いな物だと言う事は彼女自身も分かっていたはずだ。
彼女は短気ではあるが馬鹿ではない。
だが行き場の無いその悲しみと憎しみを彼にぶつけるしかなかった。
本来であればもっと早くにイザベラの暴走を止めるべきであったが、彼女のことを思うと躊躇してしまった。
私は魔王としてまだまだ未熟である。
「でも嬉しい誤算もあった」
「ディアボロのことか?」
「うん。彼が思ったより理性的でよかった」
「そうだな」
「異世界から来た、と言うのが大きいんだろうけど。他の人族とはぜんぜん違うね。会話も成立するし」
「人族と魔族とでは使っている言語が一緒でも話が通じないからな」
「価値観の違いかな?」
「彼は我々を『自分たちと同じ言葉を話す気持ち悪いモンスター』とは見ていないようだ。まるで同族に相対しているような様子だった」
「彼がこの世界の人族と同じ価値観だったらあの場で殺し合うことになってただろうからね。そう考えると運が良い方じゃないかな?」
「報酬の件もそうだ。最初は膨大な報酬を要求されると思っていたが、『一生生活の面倒を見てくれ』とは、随分可愛い物じゃないか」
「金庫番たちもホッとしてると思うよ?」
そうだ。
カミーラの言うとおり、私たちは幸運だ。
少なくとも現状彼に問題らしい問題は無い。
まだ何か自分を偽っている可能性は十分考えられるが、最初から殺し合いになる可能性もあったのだ。
そして人族でありながら魔族である私たちと冷静に対話ができた時点で僥倖だ。
「まあ、彼のこちら側に対する心象はあまり良くないと思うけどね。かなり警戒してたし」
「だろうな」
そう言って彼女はディアボロに出されたコーヒーカップを見た。
彼はそのコーヒーを一切口にしていない。
我々は、召喚されてからすぐに何も知らない彼を囲んでいきなり憎しみと殺意をぶつけてしまった。
魔族と人族の関係を考えれば当然のことではあるが、そんなこと彼には何の関係も無い。
「何か埋め合わせをしないとね」
「ああ」
だが彼も我々を信用できないように、我々もまた彼を完全には信用できないのだ。
まずは観察し、見極めなければ。
ディアボロと言う『人族』を。
「ロボを彼のところに送ったのは思い切ったね」
「彼女が適任だと思った」
「私もレイラの立場だったらロボを選んだと思うよ」
「戦闘力は五本指に匹敵し、メイドとしての仕事も高水準でこなせる」
「それに彼女なら任務に私情を挟む心配も無さそうだ」
ディアボロには世話役として彼女を付けると言ったが、本当の彼女の仕事は彼の『監視』だ。
できることなら私も彼を完全に信じたい。
だが私の判断ミス1つでヘルへヴンが滅ぶこともありえる。
自分たちの都合で勝手に呼び出しておきながら『信用できないから監視する』と言っているのだ。
ディアボロよ私を好きに恨み、蔑め。
お前にはその権利がある。
それでもなお私は間違ったことをしているとは思わない。
私は魔族の国ヘルへヴンの王、レイラ・ヘルヘヴン。
どんな手を使おうと私には魔族を守る義務がある。




