2話 強引な片道切符
「は?」
しばらく思考停止していたがなるほど、こういうパターンもあるのか。
確かに俺はエンドロールは見たが、魔王との最終戦を終えてから所謂『エンディング』を見ていない。
どうやらこの選択肢によってエンディングの内容が分岐すると言うことらしい。
(でも魔王を倒してハッピーエンド。これで終わりじゃないのか?)
人族側にとって最大の敵、魔王レイラ・ヘルへヴンは倒したし、そこに至る道中で他の強力な魔族も全て撃破したはずだ。
にもかかわらず、『あなたに人々を救う覚悟はありますか? Yes/No』とかいう謎の選択肢。
不可解ではあるがもしかしたらこのゲーム、俺が知らないだけで続編が出ておりそこにつながるエンディングが見られるのかもしれない。
確かにこの文章はエンディングというよりもオープニングに近い印象を受けた。
そんなことを考えながら俺は迷わず『Yes』を選択した。
ここでNoを選択してはそもそもこのゲームの趣旨が分からなくなってしまう。
瞬間、俺は激しい頭痛と吐き気に襲われた。
眼を開くと、薄暗い神殿のような場所にいた。
なるほど、どうやら俺は相当長い時間食事も睡眠も摂らなかったために体調を崩して寝入ってしまったらしい。
ゲームのやり過ぎで体調を崩すとは情けない。
軽く頭を振ってから前を見ると、そこには先ほどは無かった人影が二つあった。
眼を凝らすとそれはどうやら二人の女性らしい。
一人は褐色の肌に黒髪、額から伸びる二本の捩れた角が特徴の禍々しい鎧を着た女性。
もう一人は透き通るような白い肌に長い金髪、こちらはまるで聖騎士の様な立派な鎧を着た女性。
二人は互いに視線を交わすと小さくうなづき、俺の方に向かって来た。
肌が粟立つ
夢、だとは思うがそれにしても尋常でない圧力を感じる。
それが自分に敵意を向けられているからなのかまでは分からないが、少なくともいい気分ではない。
「ご機嫌いかがかしら?」
金髪の女性が微笑みを携えながらこちらに話しかけてきた。
「よくはないです」
反射的に正直に答えてしまった。
「……我々の魔力が原因なのでは」
「あら、ごめんなさい。人前に出られるのは久々だからつい忘れていたわ」
金髪の女性がそう言うとフッと先ほどまで感じていた圧力が消えた。
よく分からないが少し気が楽になった。
俺は原因?を当ててくれた黒髪の女性に軽く会釈すると彼女は少し手を上げてそれに答えた。
「まず最初に、これは夢でないことは理解してくれ」
「あなたをここに呼んだのは我々です。それからあなたにはまず謝罪を、次に私たち二人からのお願いを聞いてもらいたいのです」
「謝罪って、なんですか」
「君はもう戻ることはできない」
「……」
「いきなりそんなこと言われても彼には分からないわ。時間はあまりないけれど、順序だてて説明しましょ?」
「……そうだな」
彼女たちは何を言っているんだ?
『戻れない』って何の話だ?
『これは夢ではない』と黒髪の女性に釘を刺されてから嫌な予感がする。
昔からいい予感はまったくしないくせに嫌な予感はことごとく当たってきた。
そんな今までの予感と今回のそれは比べ物にならない。
これは聞いては駄目な話だ。
「あなたには、アラミネ・ジンさんには今からある場所に向かっていただきます」
そんな俺の考えなど関係なく金髪の女性は話し始める。
なぜか名前も知っているらしい。
「その場所では人族側の『ファンタズム』と魔族側の『ヘルへヴン』が長い長い争いを続けています。互いに殺し殺され、憎み憎まれ、負の連鎖は未だ止まらず…。あなたはその場所をご存知ですよね?」
「……ゲームでなら」
「なるほど、我々のパスはその『ゲーム』と言うかたちであなたに繋がったのですね…。そこで苦しんでいる人々をあなたに救って欲しいのです」
「俺にそんなことができるとは到底思えませんが。スケールが大き過ぎる。一般人の俺には荷が重い」
「あなたはすでにあの世界を制覇しています。決して楽なことではありませんが、あなたになら勝算はあります」
「さっき言っていた、『戻れない』と言うのは?」
最初こそ混乱していたが、多少落ち着いてきた俺は大事なことを尋ねた。
これが所謂『異世界召喚』と言うものなのだろうか?
俺の記憶が正しければ、俺はあの時死んだ訳では無い。
事故や何らかの原因で俺が死んだと言うのであれば、さきほど黒髪の女性が言っていた『戻れない』と言う理屈は分かる。
元の世界で死んだのであれば戻りようが無い。
もう俺の人生は終わっているのだから。
では何故?
「君があの世界にいたと言う記録は全てこちらに引き込んだ。すまないがもう元の世界に君の居場所は残っていない」
「それはどういう……」
「君の家族も友人も、恋人も恩師も君の事は覚えていない。いや、最初から彼らの中に君は存在していなかったことになる」
「ごめんなさい」
混乱する俺に金髪の女性が深く頭を下げた。
続いて黒髪の女性も頭を下げる。
「本来であればあなたをこちらに呼ぶと同時に元の世界の空間を凍結させ、ことが済んだらあなたを帰し、空間を再始動する予定だったのです」
「だが、訳あって今の我々に異世界の空間を長時間凍結する力は残されていない」
「私たちはあなたが元の世界に戻れなくなることを理解したうえで、あなたをここに呼び出しました」
「言い訳するつもりはないし、開き直るつもりも無い。君には我々を恨み、憎む権利がある」
「もちろん報酬は約束します。『人々を救う』という我々の願いが叶えられたその時は、私と彼女それぞれ1つずつ権限が及ぶ範囲で今度はあなたの願いを叶えましょう。これでもあちらの世界では神と呼ばれる存在です」
「二人ともそれなりに権限は持っている」
「勝手な話だとは思いますが、なにとぞよろしくお願いします……!」
再び頭を下げる二人を前に、俺は全く理解が追いつかない。
とにかく頭の中を整理するためにもっと詳しい話を聞こう。
「すみませ」
「……っ!駄目ですね。時間切れです」
「忌々しい……!!」
俺の言葉を遮るように神殿の奥の暗闇から飛び出した赤黒い鎖が、次々と二人の体に巻きつく。
「アラミネさん申し訳ありません!あなたにもっと詳しくお話するつもりでしたが状況が変わってしまいました!」
「責めは全てが終わったその時!全て受け入れよう!」
「「滅びを避けたくば地下に潜れ、本当の敵を見誤るな!!」」
二人はそう言いながら必死に足を踏ん張り、俺の胸を強く押した。
「あなたが!」
「我々の希望だ!」
俺は後方に吹っ飛び、二人の姿が見えなくなった所で急に周囲が明るくなった。
気がつくと俺は大きな魔法陣の中にいた。
周りは多くの上級魔族に囲まれており、幾人かは困惑、残りは俺にあらん限りの殺意をぶつけている。
そして前方の玉座には見知った顔がこちらを見下ろしていた。
黒髪赤眼、捩れた二本の角を生やした魔族最強種の一角、デーモン・キングの美女。
十三代目魔王、レイラ・ヘルヘヴン。
そこは紛れも無く最終決戦の地、魔王城『ワールドエンド』の玉座の間であった。
お二人共、送る場所間違えてますよ。




