エピローグ
宇宙暦四五二六年十二月二十八日。
ジュンツェン星系に外交交渉の結果が届く。
『去る十一月十八日、アルビオン王国及び自由星系国家連合はゾンファ共和国による停戦協定違反に対し、共和国政府の提案を了承。具体的にはJ5要塞の即時破壊、ジュンツェン平和維持艦隊の解散及び艦船のヤシマ政府への引き渡しが決定しました……』
既に情報通報艦により調印したことが伝えられていたが、増派艦隊を率いるジークフリード・エルフィンストーン大将は安堵の息を吐き出す。
(これで終わったな。ジュンツェン星系派遣艦隊が素直に降伏するかだが、更に五個艦隊が戻ってくるのだ。武装解除に応じるしかない……)
エルフィンストーン率いる五個艦隊は十一月十日にジュンツェン星系に到着し、軍務卿のサイモン・スペンサーが降伏勧告を行っている。
『ジュンツェン平和維持艦隊及びJ5要塞に告ぐ。アルビオン王国は今回の貴軍の暴挙に対し、断固たる処置を取ることを決定した。直ちに無条件降伏せよ』
しかし、総司令官のリャオ・ヤン上将はそれを拒否していた。
『我々は共和国政府の命令により派遣されている。政府の許可なく、他国の指示には従わない。無理にでも従わせると考えているなら、我々は最後の一兵まで戦い抜く』
リャオは本気で抵抗する気はなかったが、こう言っておかなければ、王国やヤシマに敵意を抱く将兵が反発して命令に従わないと考えたためだ。また、一個艦隊が追加で派遣されたことから、そう遠くない将来に政府から抵抗をやめるよう命令が下ると考えていた。
彼の予想通り、政府からの正式な命令が届いた。王国の連絡艦と共にゾンファの連絡艦も同行していたのだ。
リャオは直ちに降伏する旨を通達する。
『ジュンツェン平和維持艦隊は政府の命令に従い、本任務を終了する。今後はアルビオン王国FSU連合艦隊の命令に従うことを約束する』
この決定は多くの将兵に歓迎された。今回の任務が開始されてから既に一年以上経っている。また、五月半ばに連合艦隊がジュンツェン星系を封鎖したため、半年以上に渡って本国からの情報が入っていない。そのため、本国に残した家族のことを不安に思っていたのだ。
また、王国やヤシマに恨みを持つ将兵も先が見えない長い任務で疲弊し、政府の命令という大義名分を掲げたリャオに反発する者は少なかった。
エルフィンストーンは直ちに武装解除を命じた。
「ジュンツェン平和維持艦隊に告ぐ。J5要塞より三光分の位置まで移動した後、対消滅炉を停止せよ。本命令に従うのであれば、我が国の輸送艦より物資を提供する」
総参謀長のウォーレン・キャニング中将が提案したことだ。
ゾンファ軍では食料こそ足りているものの、食糧供給プラントで生産できる主食と必須栄養素しかなく、単調な食事になっていることが分かっていた。彼はゾンファ将兵の反抗心を削ぐために嗜好品を提供することを提案したのだ。
ゾンファ艦隊はすぐに移動を開始し、指定された位置で動力炉を停止する。これにより即座に戦闘行動を採ることができなくなった。ちなみに艦内の必要なエネルギーは主機関起動用の核融合炉と質量-熱量変換装置によって十分に賄える。
エルフィンストーンはジュンツェンを封鎖していたジャスティーナ・ユーイング大将率いる艦隊を帰還させる。これでアルビオン王国五個艦隊、ヤシマ艦隊三個艦隊の八個艦隊となるが、無防備な状態のゾンファ艦隊を監視するには十分すぎる戦力だ。
こうして十ヶ月に及ぶジュンツェン星系での騒動は終息した。
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宇宙暦四五二七年二月二日。
ゾンファ星系派遣艦隊がキャメロット星系に帰還した。
昨年の四月十九日に出発してから約九ヶ月半。艦隊を率いていたアデル・ハース大将は無事に帰還できたことに安堵する。
(戦闘こそ起きなかったけど、我が軍の将兵はよく耐えてくれたわ。これでゾンファ方面は静かになるはずだから、とりあえずゆっくり休めそうね)
司令部で談笑しているクリフォードの姿が目に入った。彼はこの三ヶ月ほどで第一艦隊の司令部の者たちと打ち解けていたのだ。
(それにしてもクリフはまた成長したわね。本当は危険な任務には就けたくなかったのだけど、結果的にはよかったわ……)
翌日、第三惑星ランスロットの衛星軌道上にある要塞アロンダイトに入った。
クリフォードはハースらに別れを告げ、入港している第四艦隊に向かう。
旗艦アイアンデューク25に入ると、司令官のレヴィン・コンウェイ大将が出迎える。
「艦隊に復帰いたします」
「復帰を認める」
そう言うと、コンウェイは右手を差し出す。
「よくやってくれた。輸送任務が成功し、交渉も有利に進められたと聞いている。君の尽力の賜物だ」
「ありがとうございます。ですが、我が戦隊を始めとした護衛艦隊の将兵全員の功績です。私一人では失敗していたと思います」
「全員が奮闘したことは私も理解している。特にラングフォード大佐とオーティス大佐は本当によくやってくれた」
旗艦艦長として戦隊を指揮したサミュエルと旗艦の身代わりになったドレッドノート223の艦長ロビーナ・オーティス大佐のことを称賛する。
艦隊司令部で帰還の報告を行うと、そのまま第三戦艦戦隊が係留されている区画に向かった。
そこではサミュエルら旗艦の乗組員と司令部のメンバーが待っていた。
「お帰りなさい、少将」
「命令で離れていたとはいえ、君に戦隊の再建を押し付けることになった。ありがとう、サム」
クリフォードが戦隊を離れたのは昨年の九月初旬であり、五ヶ月間も不在だった。その間、サミュエルが戦隊司令官代行として第三戦艦戦隊を指揮している。
第三戦艦戦隊は十二隻を失い、残りの八隻も損傷を負っていた。損傷した艦の補修と新たな艦の配備はサミュエルがやらざるを得なかった。
「確かに大変でしたよ。大佐になって一年も経っていない私が司令官代行だったんですからね」
サミュエルはそう言って苦笑する。
半年近く司令官が不在になると分かっていたため、通常であれば新たな司令官が配属されるのだが、コンウェイは慣例を無視してサミュエルを司令官代行に任命した。これはクリフォードの居場所を残したいと思ったためだが、サミュエルにそれを行うだけの力量があると判断したことが大きい。
「だが、いい経験になったんじゃないか? 報告書を見る限り、私より完璧に戦隊を掌握しているようだが」
クリフォードはそう言って微笑む。
「ブルーイット大佐たちが優秀だったからです。彼らがいなければ、右往左往していただけでしょう。それより、既にお聞きかと思いますが、オーティス艦長は受勲の上、准将に昇進され、駆逐艦戦隊の司令となられました」
オーティスの献身的な行動が護衛艦隊の損失を減らし、輸送船団を守ったと評価された。
元々准将への昇進が近いといわれていたため、一月の定期異動で昇進したのだ。
「彼女なら当然だろう。あの状況で最も有効な策を考え、実行したのだから」
「私も同じ思いです。まあ、本人は駆逐艦戦隊ということで毎日が大変だと零していますが。もっとも少将のやった演習のお陰である程度は付いていけるとも言っていましたよ」
オーティスは戦艦に長く乗り組んでいたため、駆逐艦のような高機動艦の指揮に慣れていなかった。しかし、クリフォードが戦隊司令官となった後、高機動戦闘の演習を何度も行っており、それがよい経験になっていた。
「君も殊勲十字勲章をもらったようだな。君の功績に相応しい勲章だよ」
サミュエルは護衛艦隊全体の指揮を執るクリフォードに代わり、第三戦艦戦隊の指揮を執っていた。戦艦戦隊に攻撃が集中する中、的確な指揮で実質十倍近い数の敵艦からの攻撃を凌ぎ全滅を免れている。この功績に対し、コンウェイが叙勲の推薦を行ったのだ。
DSCは佐官以下が受勲できる勲章の中で最も権威のあるもので、将官級への扉を開くカギとも言われている。
「いずれにしても十ヶ月近く家に帰っていない。戦隊も君に任せておけば大丈夫そうだし、家族の下に帰るとするよ」
クリフォードはそう言いながらも旗艦アガメムノン96に入っていった。
第九部完
あとがき:
アルビオン王国士官物語第九部「輸送船団を死守せよ」をお読みいただき、ありがとうございました。
今回は61話、約23万文字というシリーズ最長になりました。これは第八部の後始末に大きくページを割いた結果ですが、もう少しスッキリ書けたのではないかと反省しています。
今回の舞台はゾンファ共和国ともスヴァローグ帝国とも停戦している期間であり、どうしても政治関係の話が主となり、戦闘シーンも全体から見たら五分の一ほどと、第八部に引き続き、少なめになっています。
ゾンファ共和国ですが、ヤシマ侵攻作戦で大きく力を落とし、更に今回の無謀な作戦で艦隊は大きく縮小されることになりました。
また、もう一つの敵国スヴァローグ帝国も内戦の一歩手前ということで、アルビオン王国にとっては非常に都合がよい状況です。
作者にとっては非常に都合が悪い状況と言えるのですが(苦笑)。
第十部ですが、今のところ年明けくらいに投稿できたらいいなと思っています。
次は少し時間が飛んで、3年後のSE4530年、クリフォードが中将に昇進した後の話になる予定です。タイトルは未定ですが、謀略が主の話になると思います。
では、第十部でお会いしましょう!
愛山雄町




