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アルビオン王国宙軍士官物語~クリフエッジと呼ばれた男~(クリフエッジシリーズ合本版)  作者: 愛山 雄町
第九部「輸送船団を死守せよ」

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第九話

 宇宙暦(SE)四五二五年十二月十五日。


 クリフォードは義父であるウーサー・ノースブルック元首相と義兄であるアーサーの二人に呼び出された。


 そして、今後のスヴァローグ帝国とゾンファ共和国の動向について考えを聞かせてほしいと頼まれる。

 クリフォードは私見と断った上で話し始めた。


「帝国についてですが、先ほど義父上のおっしゃった通り、皇帝とイワン藩王の提案は検討に値しません。そもそも民主党政権が六個艦隊を派遣することは考えられません。ヤシマが危ぶまれる状況でも三個艦隊しか出せなかったですし、それにすら民主党は反対していたのですから。仮に派遣するとしても二個から三個艦隊、自由星系国家連合(FSU)と合わせて六個艦隊が最大でしょう……」


 一個艦隊には約六十万人の将兵がいる。そして、キャメロット星系とダジボーグ星系は二十八パーセク(約九十一光年)離れており、往復するだけで三ヶ月は掛かる。終わりが見えない作戦で、六個艦隊三百六十万人もの将兵を送り込み続けることは現実的に困難だ。


「純軍事的に言ってもダジボーグ星系はヤシマ以上に守りにくい星系です。二方面から攻撃を受ける可能性があることと、ヤシマの防衛で行ったような敵の後方を遮断する策が使えないためです……」


 一方向からの進軍しか考慮しなくてもよければ、ジャンプポイント(JP)に大量のステルス機雷を敷設しておき、艦隊を集中させれば二倍程度なら互角に戦える。


 しかし、二方向からの進軍が可能な場合、JPでの水際作戦を行うことは難しい。

 両方のJPに大量の機雷を敷設すること自体、コストの観点で難しいし、艦隊を分ければ各個撃破を招く。


 また、片方に集中させても、逆から侵攻された場合、重要な有人惑星などを奪われてしまうため、星系内に引き込んで戦うしかない。


 星系内に引き込んだ場合だが、有人惑星とエネルギー供給惑星の両方を守る必要があるため、戦力を分散させざるを得ず、これも難しい。


 第一次ヤシマ侵攻作戦においては、策源地、すなわち後方補給基地であるジュンツェン星系に攻撃し、兵站線を脅かすことでゾンファ艦隊を撤退に追い込んでいる。しかし、シャーリア星系から進軍できるストリボーグ星系はともかく、スヴァローグ星系から出撃されれば後方を撹乱することはできない。


「また、ダジボーグ星系はエネルギー供給に不安があります。ヤシマが総力を挙げてプラントを建設すれば、一年程度で不安を解消できますが、ダジボーグ人が黙って見ていることは考えられません。祖国解放のためにテロ攻撃を繰り返すことは目に見えています」


 二人は彼の言葉に大きく頷いている。


「ゾンファについては情報が少なすぎて判断が難しいですが、フェイ・ツーロン上将が指揮を執っている限りにおいてですが、戦争になる可能性は低いと思います。有能で堅実なフェイ上将なら艦隊の指揮命令系統の不備を強く訴えるでしょうし、それが認められなければ辞任するはずです」


「フェイ上将が辞任し、別の将官が総司令官となって攻めてくることは考えなくていいのだろうか?」


 アーサーが疑問を口にする。彼は元財務官僚であり経済には強いが、外交や軍事にはまだ疎いところがあった。


「兵たちが信用しているのはフェイ上将だけです。その上将が辞任に追い込まれたのであれば、反乱が起きる恐れすらあります。敗戦後に処分を免れたほど慎重なゾンファの陰の指導者たちが、そのような危ない橋を渡るとは思えません」


 ファ・シュンファ元政治局長とその一派はヤシマと王国の諜報機関の厳しい捜査を受けても罪を問えるほどの証拠を残さなかったほど慎重だ。


「なるほど。第二次タカマガハラ会戦の二の舞を演じることになるからか」


「はい。ですが、脅しは行ってくると思います。ゾンファ国民の不満がどの程度かは分かりませんが、傀儡政権の維持ができない状況を旧国家統一党の指導部は認めないでしょうから。その場合、瀬戸際戦術として艦隊の出動をちらつかせてくることは充分にあり得ます」


 瀬戸際戦術とは緊張を高めることで相手に譲歩を迫る交渉方法だ。


「瀬戸際戦術か……我が国がゾンファ星系まで艦隊を送り込む可能性が低いと考えれば、ある程度無茶な主張は可能ということか」


 アーサーの言葉にクリフォードが頷く。


「はい。キャメロット星系から五十パーセク(約百六十三光年)離れたゾンファ星系まで大艦隊を送り込むことは財政的に大きな負担になります。それによって得られる効果が限定的ですから、エバンス政権が自ら進んで実行に移す可能性は低いでしょう」


「確かにそうだが、帝国の内乱に介入するより、ゾンファに艦隊を派遣した方が負担は少ないし安全だ。そう考えれば、この選択肢もあり得ると私は考える」


「義父上のおっしゃる通りですが、ゾンファへの派兵は戦闘の可能性こそ少ないものの、補給線の長さを考えれば危険がないとは言い切れません。一方の帝国への介入ですが、FSUが乗り気になれば、軍の派兵費用を出させることも難しくありませんから、短絡的に財政負担が小さく、成果が見えやすいという観点で魅力的に感じる可能性は充分にあります。長期的な視点でリスクをしっかりと認識してくれればよいのですが……」


 その言葉にウーサーたちが頷く。


「帝国、ゾンファともに安易に踏み込むことが危険であるという君の考えについては理解した。その上で皇帝、藩王、ゾンファの指導者が何を考えているのか、意見を聞きたい」


「難しい質問ですね」


 クリフォードはそう言って苦笑する。入ってくる情報が少なすぎるためだ。


「私の想像が多く入っているという前提でならお話しできます」


「それで構わない。私たちも君の意見だけで判断するつもりはないからな」


「分かりました。では、まず皇帝アレクサンドル二十二世ですが、ここまでの情報を見る限り、大きく後手に回っている印象です。その原因がどこにあるのかはよく分かりませんが、以前の皇帝であれば、ここまでの混乱を見せることはなかったでしょう」


「混乱というが、皇帝の謀略の可能性は考えられないか? 自身が暗殺されかかった後に最大のライバルであるニコライ藩王を排除した。治安悪化を強く印象付け、自身に責任がないように見せた。私には帝国を掌握するため、一気に勝負に出たように見えるのだが」


 アーサーが疑問を口にするが、彼と同じように考える者は少なくない。


「その可能性は低いと思います」


「それはなぜなのだろうか?」


「確かに最大のライバルであるニコライ藩王を排除することに成功しました。しかし、これによってストリボーグは皇帝の敵となり、融和は不可能になりました。だからといって、二十億ものストリボーグ人をすべて排除することはできません。つまり帝国を統一するという目的からすれば最悪の状況になったということです」


「確かにその通りだな。話の腰を折ってすまなかった」


 そう言ってアーサーは軽く頭を下げる。


「では続けます。皇帝の求心力といいますか、指導力が落ちています。その結果、スヴァローグ人たちが皇帝から離反しつつあります。この状況を最も憂慮しているのが皇帝であり、最も歓迎しているのはイワン藩王です。皇帝としては藩王を実力で排除したいと思っていますが、スヴァローグ艦隊が使えない状況では勝利は覚束きません。ですので、謀略をもって藩王を排除することを考えているはずです。具体的には我が国やFSUを焚き付けることを考えているでしょう」


 ウーサーが納得したように頷く。


「なるほど。ストリボーグ艦隊は現在八個艦隊だ。急いで増強しても一個艦隊が限界だろう。我が国とFSUがダジボーグ星系に攻め込んだ時と同じ十一個艦隊ほどあれば、再建中のダジボーグ艦隊と合わせて十五個艦隊ほどになる。それをもってストリボーグに進軍すれば勝利できると考えているということかな?」


 彼の言葉にクリフォードは首を横に振る。


「皇帝も我々にそこまでは期待していないと思います。我々が皇帝を信用していないことはよく理解しているでしょうから。ですが、彼の要請に従って我が国とFSUがダジボーグ星系に派兵すれば、藩王は艦隊のすべてをスヴァローグ星系に投入できなくなります。それに藩王は我が国とFSUに対して工作を行ってくるでしょうから、時間を稼ぐことが可能です。皇帝の狙いはここにあるのではないかと思います」


「時間があれば、後手に回った状態を挽回できるということか」


「義父上のおっしゃる通りです」


「では、藩王はどう考えているのだろうか? ニコライ暗殺でストリボーグ人の士気を上げ、スヴァローグ人の離反を招いたのだ。若い彼ならすぐにでも決戦をと考えていそうだが」


 そこでクリフォードは小さく首を横に振る。


「正直なところ、イワン藩王については情報が少なすぎて全く読めません。彼の性格やひととなりが多少なりとも分かればよいのですが、断片的な情報すらありませんから。ただ一つ言えることは、彼もしくは彼の側近が非常に優秀であるということです」


「それは即座に国内を掌握しただけでなく、我が国やFSUに対してダジボーグ星系を譲渡すると表明したためだろうか?」


 アーサーの言葉にクリフォードは頷く。


「その通りです。ニコライ藩王に健康不安はありませんでした。つまり、イワン藩王が近々に即位する可能性は低かったはずです。それでも国内に混乱をもたらすことなく権力を掌握しています」


「確かに……だとすると、今回のニコライ暗殺はイワンが関与している可能性もあるんじゃないか?」


「それは分かりませんよ、義兄上。確かにイワン藩王にとって都合がよい状況ですが、もし彼が命じた場合、それが発覚したらすべてを失います。次期藩王の座を争っていたのであれば別でしょうが、情報を見る限りそのようなことはありません。それだけのリスクを負ってまで勝負に出る必要性はないと私は思っています」


「確かにそうだが……」


 アーサーはあまり納得していない。


「イワン藩王に関しては情報が少なすぎるという点については私も同感だ。クリフォード君が言う通り、彼か彼を担ぐ者が思ったより優秀だということは理解した。その前提で考えるべきだろうな。これ以上の議論は推論に推論を重ねることになるだけであまり建設的ではない」


 アーサーは父の言葉に苦笑しながら頷く。


「確かにそうですね」


 ウーサーは話題をゾンファに変えることにした。


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