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五十九 その証③

 一番聞きたかった疑問を投げ掛ければ、とたんに室内が静まりかえる。

 今はたまたま、リクヴィールしか居なかったのだが。

 それにしても、静かになる。


「--っと、リュミネーヴァさま。えーーっと、その」

「……もしや、魔皇国の機密事項でしたか?」

「あーーそこまでじゃないんですけど。……それを判断するに至った経緯は?」

「……魔皇国の血を引いていない方が、魅了をつかわれたのではないかと。……それ以前に、向き合うだけで威圧されるような……、まるで魔力が意志を持っているような感覚を最近味わいました」

 

 魔族が怖がられる理由も分かると同時に、彼らは本当にそれを内に秘めながら(ぎょ)していることが良く分かった。

 

 剥き出しの闇の魔力というのは、あんなにも他を圧倒するのかと驚いたものだ。


「いちおう確認なんですけど、それってユールさまには……?」

「……」

「ですよね~」


 それに関しては自分の落ち度。

 気まずいだとか、そんな感情論より大事なことのために早く言うべきだった。


(こんなに心に振り回されるなんて……ね)


 自分はもう少し利口だと思っていたのだが。

 ユールのことになると、どうも上手くいかない。


「うーーん、どうやら自分が思っていたことで気付かれた訳じゃないみたいなので、教えてもセーフ?」

「?」

「いえ、こちらの話です~」

「もちろん悪用する訳ではないのですが、今後のために必要なことでして……」

「ーーかなしいかな、ちょうどユールさまもその件で今動いているんですよね~」

「……え?」


 もしかして、ライエン達でなにかもう動いているのだろうか。

 それならいいのだが……。


「えーーっと、……問題! 魔法使いの方ならご存知だと思うんですけど、そもそも地脈に流れる魔力とは?」

「地脈……? この世に満ちる魔力と、命を落とした者たち、魔物たちの魔力……すべてが合わさったものですわね」

「正解! つまり、属性なんて関係ない。全部が混ざった魔力だね~」


 それは魔石の元となるエネルギーなのだから、私たちはその恩恵を受けて生活していると言える。


「そして、それらを魔石や魔道具のために使うためには、闇の魔力以上に他の魔力……まぁ、ざっくり言うと光の分身たる四属性で満たさなければならない」

「闇の魔力が優位ですと、他の魔力が奪われてしまいますからね」

「そうそう。……さて、ここでまた問題。どうして地脈からこれだけ四属性を資源として使っているのに、世界は闇で満たされないのでしょうか!」

「それはーー」


 確かに、そうだ。

 私たち人はなにも考えずに、闇の魔力を除外して資源を費やしている。

 魔力とは廻るもので、人や自然が滅ばない限り底をつくことはないだろうが……。


 これだけ人が四属性だけを抽出している地脈は、なぜ闇に呑まれないのだろうか?


「ーー答えはそう、意志があるからです!」

「意志が……?」


 意志があると、どうなるというのか。


「地脈が闇の魔力一色になること、それは、次代に光の魔力が生まれないことを意味しますっ」

「つまり……?」

「まぁ、……我々魔族も真相を把握している訳ではないですけどね。魔皇国での言い伝えでは、闇の男神は自身と光の女神だけを愛した。……憎んでいるのは、女神の化身……つまり、生命を司る四属性とその恵みであるこの世界。……男神、闇の魔力というのは……矛盾した感情を抱えているんです」

「矛盾した、感情……」

「そう。憎い存在すべてを滅ぼせば、愛しい存在が消える。……まるで、人みたいですよね」

「では、地脈の……超過した闇の魔力というのはーー」

「それらは魔物となりまた魔力を求め、あるいは各地の地脈の合流点である魔皇国の者に宿る」

「そういう、ことでしたか……」


 魔皇国や魔族への理解というのは、恐らくどの国も及んでいない。

 ただ、強い国。

 ただ、地脈の恩恵を受ける国。

 ただ、闇の魔力を持つ怖い者たち。


 なにも知らなければ、そういう印象だろう。


 でも……。事情を知ってしまうと、どんどん苦しくなる。


(見方を変えると、物事はこんなにも変わるのね……)


 それはまるで、光と闇のように。

 裏と表のように、共存していて。


 でもそれでいて、なにも知らない。


 知らないというのは、こんなにも愚かだ。

 そして、一度知ってしまうと、どんどん知りたいと願ってしまう。

 なにかの感情に、良く似ている。


「我らの魔力はそうして宿る訳ですが……他の国は地脈の数が少ないですからね。効率を求めるのか、そもそも地脈に闇の魔力があまり混ざらないそうですよ」

「なるほど、……本当に、意志があるのですね」

「--で、さっきの話に戻るんですけれど。そういう仕組みなので、基本的に闇の魔石ってのはないんですよね」

「! 言われてみれば、そうですわね」


 地脈にずっと居るより、さっさと次の命へとめぐるというなら。

 確かに、魔石になる可能性は少ない。


「……ないんですけど。偶然の産物で……過去数度、確認されたことはもちろん、あります」

「それは!」

「ええ、リュミネーヴァさまが知りたい答えでしょう。魔族以外の者が闇の魔力を扱うのであれば、……闇の魔石。これが必要です」

「限りなくゼロに近いけれど、可能性はゼロではない……と」

「そうです。……ちなみに、魔皇国が他国と争う理由があるとすれば、ほぼこれですね。闇の魔力を管理できない者たちが、闇の魔石を悪用しようとする」

「では、先の争いでナレドが属国となった理由は……」

「お察しのとおりです。……光と闇、両方があれば成り上がれると思ったんでしょうかねぇ」


 では……、その時争いの元となった闇の魔石を……レイセルが持っている?

 いや。でもさすがに魔皇国に譲渡したり、もしくは条約でどこかに保管したりしているのではないか?


「知りたかったこと、知れました?」

「……ええ。充分に」

「でしたら一つ、贈りものです」


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