五十七 その証①
「ーーちょうどその件をお話したかったのですよ」
「あら? では、もう完成されたのです?」
「ええ。それ自体は問題なく。……ですが、少し別の問題が……」
「別の?」
一難去ってまた一難、とはこのことだ。
(魔道具に関する問題……なんだろう)
また材料が足りない、という話なら私が積極的に手伝える。
そのことは承知のうえで、メーアスは別の問題と言った。
「魔道具のことは、のちほどリクヴィール殿のところへ伺ってみてください。ライエン殿下やシンシア嬢に付く者たちには、貴女のおかげで無事魔道具が行き届きました」
「それはよかったわ」
「……ただ、他の、と言いますか。魔族の方と共同で行っていない分野の魔道具の開発ですね。そちらに回す予定だった魔石の供給が、間に合っていません」
「へぇ……?」
魔法師団……、エルドナーレの管轄だろうか。
そもそも魔道具とは、魅了以前に魔物への対抗手段や生活必需品としてさまざまな開発と研究が行われている。
常時研究室が設置され、それはどの国でも同じ。
その属性を持っていない者が、火を起こす、水を出す、風を起こす。
なにも、戦いの道具だけではないのだ。
(だから魔石というのは、前世でいうエネルギー……電気や石油、天然ガス……そういった物に相当するのよね)
だから、ナレド公国やセラフィニ魔皇国で魔石に関する諍いがあるのは、なんとなく想像ができる。
「供給が間に合っていない……とは?」
「そうですね、具体的には……ナレドに配慮して魔皇国からの魔石輸入を制限していたのですが、今度はナレドが制限を掛けてきたのです」
「! それは、つまり……」
「ええ、ご想像のとおり。ライエン殿下に対する制裁でしょうね」
魔族と共同で魔道具開発を任されたライエンは、同時に魔石の輸入に関する仕事も現国王より引き継がれた。
エレデア王国は地脈が通う土地が他二国より少なく、魔石については輸入に頼る部分がおおきい。
大半の魔石を資源として利用するため、騎士や魔法使いによる戦闘技術が他二国より優れているとされる。
「それで、今度は魔皇国からの輸入を増やせば……反発は必至ね」
「そうです。……ですので、ライエン殿下はそちらの対応に苦慮されている現状です」
(うーーん……、王妃様とレイセル本人か、その取り巻きか……あるいはナレド単独での仕業よね)
ふつうであれば、時間を掛けてでも対応にあたれば周囲の理解も得られる。
ライエンに落ち度は全くないからだ。
ただ、仮にレイセルにライエン以上の魔力があると判明すれば……。
手の平をかえす者など、大勢いるだろう。
なにせ、魔石は生活必需品。
前世で言えば、政治家や偉い人たちの権力争いで、電気やガスの供給を受けられない。
それに等しい。
「私に出来ることは……?」
「今のところ、ユールティアス様と殿下が連携して第二王子派の動きを探って頂いてます。……魔石商たちが何の見返りもなく、輸出を減らしたりしないでしょうから」
「それもそうね……」
魔石の採れる場所は国の管轄であることが多いが、国に採掘権代を支払い、採れた魔石を運搬し、市民に届けるのは民間の仕事だ。
なんの見返りもなく、色んな国に睨まれるようなことはしないだろう。
「あ」
「……どうしました?」
「あ、いえ……」
気まずさですっかり忘れていた。
ユールに、ウルムに襲われた件は伝わっているが、レイセルの魔力については直接伝えられてない。
王城にいるならば気を付けるようにと、伝え忘れてしまった。
(まぁ、ライエンと一緒になって動いてるなら……聞いてるかも)
それより。なによりも、だ。
ここ数日、魔力を提供していない。
魔法師団からもらえばいいだろうが、魔石の入手が困難になると魔族の彼にとっても、大変な状況だ。
(あれ……。そういえば、アストンって吸魔の必要はないのかしら?)
まぁ護衛の騎士だ。
そういった話題を表に出さないだけかもしれない。
「ともかく、リュミネーヴァ嬢のおかげで魔道具の開発も進みました。先にそちらの件でリクヴィール殿を訪ねてみてください。魔石の件については、進展あればユールティアス様から教えて頂けるかと」
「ええ、そういたしますわ」
リクヴィールか。
彼も、魔族だ。
意志を持つ魔力。それも、魔族のそれに近い感覚。
そんなものが、本当にあるのか。
本来先にユールに問うべきだっただろうが、レイセルの件ーー。
(聞いてみるか)




