四十五 相応しき者④【別視点】
「お元気そうで、安心いたしましたわ」
「エメラルダ……」
ナレド公国。
その看過できない野心を宿した国。
現在は魔皇国の影響下にあるとはいえ、我らは他を侵すことを目的としない。
独立性を保ったまま、領としての管理となっている。
「不思議なものですわね、エレデアに関係のないわたくしたちが、この国で出会うなんて」
「そうだな」
「……リュミネーヴァ様は、おうつくしいですわね」
「……」
その質問に、なんの意図がある?
騎士の慰労パーティーと聞いていたが、招待客をみればナレドやエレデアに出入りする魔石商の姿も見えた。
……それを私に見せ付け、なんとする?
「でも……、あの方にはないものを。……わたくしでしたら、提供できますのに」
「ほう? それは?」
リュミにないもの?
違うな。
君にないものを、彼女は私に与えてくれる。
……それが、彼女の意志から成るものではないにしろ。
「うふふ、まさか。もうお忘れになったのです? 我がナレド公爵家につたわる秘宝……」
「そんなのも、あったな」
この者が過去、婚約者候補となった理由。
それは、魔皇国とナレド公国の国境で採掘された、最悪の産物。
地脈の影響で世界でも類を見ない、闇の魔力だけを凝縮した、闇の魔石。
その所有権を魔皇国がもつには、彼女の家とのつながりが必須だった。
現在採掘場は魔皇国が管理しているが、すでに採掘された物を管理するにはそうするしかない。
……闇の魔力を持たない者がそれを扱うとどうなるかなど、魔族以外にわからないのだから。
だが、交渉は決裂。
ナレド公爵家は一歩も引かず、結局は闇の魔石を他国に流さないことを条件に婚約も白紙になった。
「あら? もう興味は失せたのですか?」
「ナレド公爵家が厳重に管理するのであれば、問題ない」
現在は水の封印魔法を施し、ナレドの宝物庫で眠っていることだろう。
理由がなければ、婚姻など必要ない。
それが、治める者の宿命だ。
(王とは、孤独なもの)
臣下からの信頼を得、それを手腕で返す。
そこに私の感情という、個の意志を反映してしまえば。
それは、国からの信頼に背くことになる。
一番いいのは、個と全の思いが一致していること。
だが時に非情な判断も強いられる者には、はじめから個の思いを無くした方が都合がよい。
……そうでなければ、正気を保つことは至難の業だ。
「まぁ残念。……わたくしは、こんなに貴方のことを想っていますのに」
「関係のない他国を巻き込み、魔皇国を手中に収めようとする心が、か?」
実際にどうやったかまでは掴めていないが、エレデア王国内にて魔物の暴走に加担していたことは把握している。
それが、我々とエレデアの紛争を誘発し、背後から突いて独立を得るための動きも掴んでいた。
だが、エレデアの現王妃は、ナレド公爵家の親類。
その昔、シンシア嬢の前。
百年ほど前に光の魔法を発現した女性の血筋だ。
(わずかな証拠だけでナレドの落ち度を責めれば、必ずエレデアが出てくる。……ままならないな)
そこで第一王子ライエンとの密約。
彼の国王への即位は、同時に魔皇国の憂いを払うことにもなる。
……ただ、それだけの理由だったはず。
それなのにーー。
(どうして、リュミ)
出逢ったのが、貴女だったのだろう。
「わたくしの想いとそれは、無関係ですわ」
「そうか」
「ーーっ! なぜ、なぜわたくしではいけないのです!?」
「逆に問うが、君でなくてはならない理由は?」
「わたくしは魔力も優れています! 家柄だって、貴方の今後を考えればエレデアのそれよりも最適ですわ!」
「……そうかもしれないな」
でも、もう無理だ。
あの人だけの場所に、別の誰かを入れるなんて。
「っ! だって、誰でもいいのでしょう!?」
そう、誰でもよかった。
「魔力と、統治に役立つ家柄! 貴方が考えているのは、それだけなんでしょう!?」
よかった、はずなのに。
「それだけを考えていれたら、どれほど楽だっただろうね」
知ってしまった。出逢ってしまった。
魔族の一生で出逢えるかも分からない。
そんな、人と。
(私の愛が、彼女の誠実な心を傷付ける)
魔力と、家柄。
それだけで、良かったというのに。
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