二十九 専門家③
「さっさと案内しろ」
「やだ~ユールさまこわーーい」
三度目の鉄拳制裁。
本当に、仲がよさそうだ。
そのクールな美貌に見え隠れするやさしさが女性に人気のユール。
いつもの様子とちがい、どこか楽しそうだ。
ふだん、他国にいて気は抜けないよね。
「ーーあいてて。リュミネーヴァさまも慣れた場所でしょうが、魔法師団の研究室を一室お借りしています。こちらへどうぞ」
何度か足を運んだことのある場所を闊歩する。
すれ違いざまに、「あ、お嬢様!」と声を掛けられたり、手を振られたりする。
うん、こちら側はホームだ。
(逆に騎士団側の方は見学させてもらって以降、一度も行ったことないのよね)
前を行くふたりに着いて行く。
いつも気を張っているユールが、素になれる人物。
どこか、ほっとする。
(……ん?)
なんで私がほっとする?
……きっと、気のせいだ。
「--ここですっ」
考えながら歩いていると、いつの間にやら前を行く二人は足をとめていた。
慣れた様子でリクヴィールが中に入れば、中には見知った顔が。
「あら、お兄様」
「おや、リュミ。……どうやら、ユールティアス様の許可はおりたようだね」
「ですが、ご安心ください。リュミをひとりで行動はさせません」
「そうして頂けると助かります」
「ちょ、ちょっと」
本人そっちのけで、話進めないでよね。
中へと入れば、ひととおり室内を案内された。
研究を議論する用のテーブルとは別に、実験用と思われる大きめの……台?
薬草に、魔物の素材。
魔石、魔力の伴わない鉱石。
書棚には本も多くあり、まさに研究室といった様子だ。
もともとは魔法師団に入ることを考えていたため、こういった物はすべて興味の対象。
正直、心躍る。
「室長、おかえりなさい」
「ただいま~。ユール様が今日もこわいよ」
「おい」
魔皇国から来た、部下にあたる研究者からは室長と呼ばれているようだ。
ちょっと抜けてる上司、って感じだろうか。
(それにしても、お兄様と私が近くにいるのに、意外と魔族の皆さんは平気そう)
ユールにはさきほど給餌……じゃない、魔力をあげたので平気だろう。
闇の魔力がどれほど大きいかで変わるそうだし、その違いだろうか。
「さっそくだけど、リュミネーヴァさま、見ていただきたい物が」
「あ、はい」
「では私は行くよ、リュミをよろしく」
「お任せください」
「もう、お兄様ったら……」
たまたま居合わせただけの兄は、忙しそうに仕事へ戻って行った。
「今ちょうど、エルドナーレ殿に進捗を報告していたところなんです」
「そうでしたか。……お兄様と同じ意見になりそうですけれど」
「構いませんよ、それでも貴重な意見です」
そう言いながら中央の大きな台で披露されたのは、腕輪。
木製、だろうか。
「これは?」
「はい。今回の件で作成したものです。まだ試作段階ですが、護身用とのことですので公務でも私用でも身に着けられる……装飾品がよろしいかと」
「それはそうね」
仕事中以外も気の抜けない、というのは本当に大変なことだが。
アクセサリーであれば確かに目立たず役割を果たせる。
「エレデア王国内に流れる地脈を魔法師団の方に教えていただき、そこに沿った森で採れた木をつかいました」
「では、付与されているのは地の魔法?」
「さすがです」
地属性の魔力には、その命を手助けするという意味からか、木々や植物たちも従う。
便宜上、緑の魔法ともよばれる。
魔力を豊富にふくんだ木を使うのであれば、付与するのに相性がいいのは地属性の魔法だろう。
「魅了への耐性は、純粋に魔法を付与する際。いかに多くの魔力で付与できるか」
「そうです。ですので、あとは護身用と考えた時なのですが……」
「なにか、問題が?」
「ええ。危険というのは、必ずしも外で遭遇するとは限りません。室内で襲われた場合、魔法が発動しない可能性があります」
「そうね……」
室内で、か。
まぁ、さいあく床すらも突き抜ける形で大地を隆起させ、建物がボロボロになっても身を守れれば儲けもの。
地属性でも問題はない、が。
「……であれば、水の魔法はいかがでしょう?」
「水、ですか?」
「……なるほど、考えたね」
「はい。自身の魔力が少なく劣勢になりましても、空気に含まれる水分はもとより、パーティ会場であれば飲み物もあります。お風呂場でも豊富に従う要素がありますし、なにより」
まぁ、これは安易な考えではあるのだが。
「この身を流れる、血ほど……魔力が豊富なものはありませんわ」
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