九 愛称と糾弾
しまったなぁ。
頭では理解していたはずなのに、体は素早く反応してしまった。
彼が、ユールティアスがなにを思ったか私の手に口づけた瞬間。
その手を、思いっきり払いのけてしまった。
おまけにその様子をシンシアに見られていたようだ。
なんで?
「ど、どうしましたリュミネーヴァさん」
静まり返った教室で、音をたてながら先生が慌てて駆け寄る。
そりゃそうだ。
身分よりも実力主義な学校とはいえ、お相手は大国の次期魔皇帝。
変なことをすれば、外交問題に発展だ。
……まさか、本編ってこれが理由で開戦とかはないよね? さすがに、ないか。
「も、申し訳ございません!」
慌てて謝罪をすれば、彼はきょとんとした様子だ。
「リュミネーヴァ様、ユール様になんてことを……」
はっとしてそちらを見れば、困り顔の先生の横には、なぜかシンシア。
(もしや、これが裏ルートのイベント……?)
やはり、転生したとしても私の行動は必要悪として、彼女の助けになるんだろうか。
ここでヒロインとユールティアスの仲が深まったり……?
「? ええと、そちらのお嬢さん。私はいつ、許したのかな?」
「え?」
「私はいつ、愛称で呼ぶことを許したのかな?」
はっきりと、確認するような言葉にはまるで拒絶の色が宿っている。
あれ……、仲深まるどころか悪化してるけど。
「!? あ、すみません……」
「分かっていただければ結構。……先生、すみません。私がリュミネーヴァ嬢の許可なくいきなり手を取ったため、驚かれたのですよ。私がわるいのです」
「あら、そ、そうでしたか。何事もなく良かったです……本当」
先生、ごめんなさい。
さすがに大物が多いこのクラスを受け持つだけでも気苦労絶えないだろうに。
行動には気を付けます……。
「さ、皆さん続けますよ~」
「なんで……」
「……?」
シンシアは去り際にユールティアスではなく、私に一瞥をくれる。
なにか、した?
やっぱり悪役令嬢っていう立ち位置だと、攻略キャラにちょっとでも危害加えるとダメなのかしら。
というか、だったら最初からライエンとペア組む時に口出しして欲しかった。
「驚かせたね、すまない」
「え? いえ、こちらこそ過剰に反応してしまい、申し訳ございません……」
「ふふ、噂通りなんだね」
「え?」
「いや」
噂通りってなに?
まさか、ライエン一筋! みたいな噂?
だったら、ご遠慮願いたいんだけど。
「いや、まさか魔力を吸おうとしてるのが早速バレるなんてね」
「ーーはい?」
なんですと?
「……あれ、違った?」
「いや、なんといいますか」
そうだ、彼は魔族。
私達人間には使えない、相手の魔力を奪うことができる。
まさか、スパイってよりは魔力を蓄えるために留学ですか!?
結構、がっつり工作行動するんですね。
「それとも……意外と、私のこと意識してくれたり?」
うああ。
止めてくれ、実際は違うんだけど、なにせ顔が良い。
そんな小首を傾げて見つめられたら、男性が苦手な私でも意識してしまう。
他のご令嬢がされた日には、気が飛んでしまう。
「まぁ、面白いご冗談ですわ」
何とか踏みとどまりにっこり、と応戦してやれば何やら楽しそうだ。
良かった。外交問題にならなくて済みそう。
それより、魔力を奪われそうになったことの方が深刻だ。
「うん、やはり思った通りだ」
「?」
「いや、こちらの話」
「はぁ。……とりあえず、続きをお伝えしても?」
お互いの手をとり、魔力を少量流し合う。
そうして体温とは別の温かさを感じる。
それだけの内容だったはずなのに、とんだ目に遭ったものだ。
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