再び目覚めてはみたけれど
フェシリアが再び目を覚ました時、目の前にはベッドを覗き込むライラの大きな瞳があった。
「お嬢様〜ごめんなさい。嬉しすぎて力加減が出来なくて…ぐすん。」
フェシリアはまだ痛む喉を振り絞って声を出した。
「いいのよ、ライラ。有難う」
「お嬢様〜」
ライラはフェシリアの唯一のお付きのメイドだ。トリスタン男爵家は決して裕福ではない。使用人の数もかなり抑えられている。少数精鋭、優秀な使用人は父や母、姉につけられている。一家の中で一番立場の低いフェシリアにはこの年頃13のまだまだ半人前メイドがつけられている。
かといって、フェシリアはその事について何の不満も無いし、フェシリアの事を慕ってくれるライラの事を気に入っていた。
「ライラ、あなたもノーフォーク公邸に残ってくれたのね。ごめんなさい。でも、とても心強いわ。有難う。」
「勿論です!旦那様に言われたのもありますが、私はお嬢様に一生付いていきますからっ」
「ライラ…」
なんだか熱いものがジーンと込み上げてきた。目がウルウルするのが自分でもわかる。そして、もっと前からジーンとしている部分の事を思いきって聞いてみた。
「ライラ、私にビンタした?」
「………はい!もう、お嬢様死んじゃうかもってあせっちゃって…つい往復ビンタしちゃいました。エヘヘ。ごめんなさい。お嬢様〜」
ライラが顔を真っ赤にして、何故か照れている。
「そっそうなのね。心配させてごめんね。」
「いえ〜」
ライラはまた顔を赤く染めた。
(うん。褒められたと思って照れている。基本素直なのよね。そんなライラが大好きだわ。でも出来ればもう少し手加減を…)
フェシリアの思考を遮るようにライラは話し始めた。
「そういえばお嬢様、お嬢様の体傷だらけですよ。特に足は折れてしまう一歩手前だそうです。治るまで二月はかかるでしょうってドクターが言ってました。」
「えっ」
「だから、二月は絶対安静でノーフォーク公邸で過ごすようにとの事です。」
「けれど、申し訳ないわ。私はその…あんなに迷惑をかけてこちらにいれる立場じゃないというか。」
何だか急に胃までキリキリと痛みだした。あんな事をして迷惑をかけたノーフォーク公邸に二月も居座るなんて。
「だけど、旦那様は馬車で逃げ出し…いや、出発してしまいましたし。後程、ノーフォーク公が説明にくるそうですよ」
(ノーフォーク公が?)
フェシリアは背中にヒヤッとした感触を感じた。
あの容姿端麗いつもさわやかな微笑を浮かべた仮面をつけているようなノーフォーク公が、先程父との会話で感情を露わにしていた。大きなる怒りと蔑みを隠しもしない程に。それだけ面子をつぶされたと怒っているのだ。私に責任をとらせるとも言っていた。
(こわい…けれどこの体では逃げる事もままならない。)
コンコン
その時、部屋の扉をノックする音がした。
(どうしよう)
焦り、怯えるフェシリアを横目にライラはフェシリアをベッドから半身上げクッションを腰や背中にたくさん放り込みなんとか上半身を起こした。
そして、
「はーい 今開けまーす」
と言ってドアにかけていってしまった。