目覚めては見たけれど
(ここは……?)
フェシリアはゆっくりと開けた。随分長く寝ていたような気がする。目の前はるか上には真っ白な天井があった。
(天井…高っか)
ゆっくりと左に首を動かしてみると白を基調した、そして一目みてわかるような高級感のある家具で揃えられている
(あの家具、私が憧れていたマダムサリーのシリーズだわ。とっても素敵。…ていうか部屋広っ)
フェシリアは目覚めたばかりでとにかく頭がボーっとしていたのだ。何故その部屋に自分が寝ているのか?まだそこまで思考がたどりつけなかった。
そんなフェシリアの耳に隣の部屋からだろうか、数人の話し声が聞こえてきた。
「ノーフォーク公、前ノーフォーク公、この度は誠に娘が申し訳ない。何と謝罪したらよいか」
(お父様の声…?)
「トリスタン男爵、言いたくはないがこんなに不愉快な事はありませんぞ。
今回の事は息子の顔に泥をぬっただけではない。このノーフォーク公爵家にも恥をかかせたんですからな」
フェシリアの父親のトリスタン男爵と年配の品のある男性の声が聞こえる。
「誠に…誠に…申し訳ない。そうだ…そうだ!ノーフォーク公どうでしょう。フェシリアは私が連れて帰ります。あの娘は辺境にある修道院にでも入れて今回の責任をとらせます!
かわりに姉のエリザベスを嫁がせましょう!エリザベスは社交界でもひくてあまたの器量良し。元々フェシリアよりエリザベスの方がノーフォーク公にはお似合い…」
トリスタン男爵が言い終わる前に辺り一面凍らすような冷たい声が静かに響いた。
「もう結構。フェシリアはまだ目覚めていない。目覚めたらこの責任はとって頂くつもりです。トリスタン男爵はお引取り願おう。」
「あっいやっ…しかし、ノーフォーク公爵殿」
「お引取り願おう。そうだ、フェシリアについているメイドを一人置いていってもらおう。」
「それは構いませんが…だが…エリザベスはとても素敵な」
ドン!!!!!!!!!
フェシリアはベッドの中でビクリと体を震わせた。
怒りをすべてぶつけた様な、拳をどこかに打ちつける音が響き渡った。
「ヒィィィィ」
トリスタン男爵の情けない声が響く。
「お引取りを。私の怒りが頂点に達する前に」
「落ち着きなさいグレアム……トリスタン男爵、息子もこのように申しておる。今日は一旦ひいてもらえぬか。そなた達の処遇についてはまた連絡する」
「あ…ワワワ…かしこまりました。今、今すぐ帰らせていだきますぅぅ」
ドシドシドシドシと大きな体を必死に動かして脱兎のごとく部屋から逃げだしていく音がする……と思ったらもう逃げ出す馬車の音がする。
(お父様ってあんなに早く動けたのね)
(…そうだわ。)
(私は昨日、ノーフォーク公爵との婚約パーティーを途中で逃げ出した。しかも、紹介が終わり皆の前でダンスを踊るという一番目立つタイミングで!)
(行けない!早く逃げなきゃ!)
フェシリアははっきりと覚醒し、すぐに体を起こそうとした。
「い、痛いっっー うぅ」
体中が痛み、フェシリアは半分も体を起こす事が出来なかった。しかし、痛みに耐えられず出たフェシリアの声に気づいた者が一人いた。
次の瞬間フェシリアのいる部屋の大きな両開きの扉がバーーーン!とあいた。
「お嬢様!お目覚めになりましたか!」
クルクルの赤毛でまだ少し幼いメイドのライラは、大きな瞳に涙をこれでもかとためてフェシリア目がけて走ってきた。
「お嬢様ー!良かったぁ、私、私、お嬢様死んじゃうかもって…良かったぁ」
涙いっぱいのライラは横たわるフェシリアをグイグイ抱きしめてくる。
「ライラ…」
(痛い、痛い、痛い、ライラの気持ちは嬉しいけれど、締める力が強すぎる。本当に死んじゃうぅ)
ライラの喜びとは裏腹にフェシリアはまた深い闇に落ちていった。。