第二話 守られてるだけなのに褒められる
突如町に現れた人類最悪の敵である怪物『支配種』
それをたった一撃でぶっ殺したオレの幼なじみのマッキー。
そんな光景にディーゴージさんと女神は、
「あの子はチーターなのか?」
「いいえ、洗礼をした記憶はありません。
私以外に洗礼をできる人もいませんし……、
そもそも今の戦い『コード』を使っていませんでした」
「そうだな、何も具現化もされていなかった」
「現状、考えられるのは……」
「「腕力……?」」
「そんなまさか……」
と、コソコソ話している。
長いこと支配種と戦ってきたであろう女神にとってもありえないことだったらしい。
「ふふふ~ん♪ どうだった? アタシの戦いっぷり」
「いや、もうすごすぎて、戦いっぷりを語ることがないくらい圧勝だったと思う」
「えへへ、でしょ~」
まるで普通の女の子が新しい髪型をほめられた時のように、もじもじと喜んでいる。
怪物を殺した直後とは思えない。
「あの……マッキーさん?
ちょっとこちらに立っていいですか?」
女神がおずおずとマッキーに声をかける。
「はあ、別にいいけど」
「…………。
うーん……。やはり、チーターの素質もありませんね。
洗礼もできないようです……」
「そうか……」
腑に落ちてない様子。
どうやらマッキーにチーターの素質があるかを調べたみたいだ。
そしてなかったと。
あの異常な強さに説明が余計につかなくなった、と。
「ええと、ではマッキーさんの件は一旦置いて……リングさん。洗礼の件ですが……」
「ああん!?」
オレが返事をするより先に、怒りのマッキーが割り込んだ。
「今日のところは去ります……」
しゅんとした女神はディーゴージさんと共に帰っていった。
「よし! じゃアタシも帰るね」
マッキーは満足げに帰っていった。
「はぁ……」
この後のオレは夜まで何をするでもなくすごして普通に寝た。
いつも通りだった。
で、翌朝。
「おはよーございまーす。女神でーす♪」
女神は来た。
しかも昨日よりさらにちょっと早い9時。
マッキー対策に早く来たってところか。
だけど……。
「こらあああああーーーっ!! 帰れ女神~~~!」
乱入のマッキー。
盗聴でもされてんのかと思った。
「そんな……」
がっくりしてる女神。
一方のマッキーはキョロキョロして
「あら? 今日は一人なのね?」
「ええ、まあ。ディーゴージさんは誘ってませんよ。
むしろ昨日が特別です。
リングさんに信用してもらうために、わざわざ付き添いをお願いしただけなので。
さすがに女神を名乗る女一人がいきなり来ても怪しいですからね」
怪しいという自覚はあったみたいだ。
「で、どうすんの? まだ勧誘を続けるなら……」
「か、帰ります……」
すごすごと帰ろうとする女神。
「あ、ちょっと待って」
それをオレは引き留める。
「なんでしょう」
「ディーゴージさんは一人でこの辺りを担当してるって聞いたけど、大丈夫なの?
負担の大きさとか色々……。
やっぱりオレが洗礼受けないと……」
「正直、そこまでの心配はないですよ。
実際、もっと広い地域を一人で担当してるチーターもいますし。
リングさんがチーターになれば楽にはなるけど、いなくてもただちに問題が発生するわけではないです」
「そっか」
「へー、以外とそこは真摯に答えるのね。
そこで嘘ついて、一刻も早く洗礼受けてチーターになるべき、とか言ったらぶっ飛ばすつもりだった」
「それが読めたので正直に答えました……。
帰ります……」
今度こそ本当に女神は帰っていった。
「よし!」
「なあマッキー。なんでそんなにオレにチーターになってほしくないんだ?」
「えっ! そ、それは……。
あ、アンタこそっ! なんでそんなこと気になるのよ!
何? チーターにそんなになりたいの!?」
……はぐらかした?
「いや、まあ、なれるならなった方がいいかなって……。
ほら、このままずっと無職よりは……個人的にも世界の平和的にも」
「アンタがそんなこと気にする必要ないんだって。
無職でもいいじゃん。両親共、士官学校の先生で生活は安定してるでしょ?
万が一、将来見捨てられたって、そん時はアタシがなんとかするから。
見たでしょ?
昨日のアタシの強さ。
その気になれば軍でもトップクラスだよ?
だから、ね?
『アンタにチートは必要ない』んだって!」
結局昨日と同じ感じでまとめられた。
危ないって意味なら曲がりなりにもチーターのオレより、マッキーが戦う方が危ないと思うんだが……。
グゥ~~~。
「ん?」
「あ、ごめん。今のアタシ。お腹鳴っちゃった。
ごはん食べずに来ちゃったし」
そういえばまだ朝か。
「せっかくだし、朝食どうだ?」
「え! リングが作るの?」
「期待すんなよ。簡単な卵焼きとベーコンとパンで適当に……」
「すごい! いつの間に!?」
「いや、そんな褒めることでもないだろ……。
作れるのは朝食だけだよ。
オヤジもオフクロも朝早いから、一人残ったオレが作るしかないってだけで」
そう言いながら準備を進める。
「わ! すごい!
リング、キレイに卵が割れるんだね!
火加減、豪快!
男らしいねっ!」
や、やりづら……。
「あーあ、仕事から帰ってきたらお家にリングがいて、リングの作ったご飯とリングの淹れてくれたお茶があったら……。
アタシはそれだけで、すっごく幸せだろうな~~~」
でも、悪くない……かも……。
「ね、やっぱりリングにはチートなんて必要ないんだよ!」