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第22話 一斉殺処分


「やれやれ、あいつら見苦しく取り乱しやがって。黒死病とやらに感染したところで直ぐに死ぬもんでもないだろうに」


 我先にと一階の部屋にある薬品棚へ向かって走っていった後輩冒険者達の後ろ姿をアビゲルは冷めた目で眺めていた。


「でも対処は早いに越した事はないわ。私達も行きましょう」


 ディアネイラとアビゲルはゆっくりと腰を上げ、今来た通路を戻り始める。


「うおおおおおおおおおおおおお!」


「ぐええええええええええ!」


「うごああああああああああ!」


 上の階から冒険者達の叫び声が地下室の中にも届いてきた。


 それを聞いてアビゲルはため息をつきながら言った。


「何だあいつら。薬の奪い合いでもしてるのか? 薬の量は十分あったはずだ。仲良く分ければいいものを」


「人間余裕が無い時はおかしな行動をしてしまうものですよ。でもまあ後でじっくりとお説教をしてあげないといけませんね」


「少しは加減してやれよ。あんたの説教はいつも無駄に話が長い」


 アビゲルとディアネイラの二人は苦笑いをしながら足を進める。

 二人が一階に到着した時には既に冒険者の声は聞こえなくなっていた。


「どうやら皆落ち着いたようだな」


「そうですね」


 二人は談笑をしながら薬品棚がある部屋の扉を開ける。


 そこで目に映った光景に二人は絶句した。


「え……」


「な、何だこれは!?」


 二人が見たものは、一様に苦悶の表情を浮かべて息絶えている後輩冒険者の屍の山だった。


 床には割れた薬瓶と注射器が散乱している。

 全員薬の投与を終えた後で何かが起きたようだ。


 ディアネイラは割れた薬瓶から流れ出している液体に近付き手を翳し意識を集中させる。

 上位の僧侶には目の前の物が人間にとって有益なものか害を及ぼすものかを見極める力がある。


 その結果は火を見るより明らかだった。


「……違う。これは薬なんかじゃない……毒よ!」


「何だって!?」


「……皆薬と思い込んで自分の身体に毒を投与して死んでしまった……」


「ディアネイラ、さっきこの瓶を調べている時に気が付かなかったのか?」


「さっき調べた時には有害な気配は全く感じなかったわ。きっと誰かが中身を入れ替えたのよ」


「くそっ……これもあのゴーストの仕業だっていうのか!? 外道め……!」


 アビゲルは血の涙を流しながら床に拳を振り下ろす。

 その時、ふいに部屋の外から誰かの声が聞こえてきた。


「……あれ、まだ生きてる人がいる」


「誰だ!?」


 アビゲルとディアネイラが声のする方向を見ると、そこにはボロボロの服を身に纏った真っ白な人影かあった。


 長く白い前髪が顔の前面を覆っておりその顔は確認できないが、その体型から女性だと言う事は判別できる。


「アビゲル、この娘が例のゴーストなの?」


「いや、あの時のゴーストとは違う。しかしゴーストはひとりじゃない。きっとこいつもあのゴーストの仲間だろうさ!」


「相手がゴーストなら私ひとりで十分です!」


 ディアネイラはアビゲルを後ろに下がらせると、胸の前で手を合わせ祈りの言葉を呟いた。


 Sランクの僧侶の浄化の力はアンデッドに対しては無類の力を発揮する。


 ディアネイラの前ではかつて大陸を恐怖のどん底に陥れたキングドラゴンゾンビですら瞬きをする内に光の粒となって消滅してしまうだろう。


 ディアネイラの身体から放たれた淡い光が眼前の女の霊を包み込んだ。


 これでゴーストは消滅するはずだった。


 しかし次の瞬間、淡い光は掻き消された。


「……」


「おい、ディアネイラどうした?」


「……」


 返事はない。


「ディアネイラ!? 冗談はやめろよ。早くゴーストを消し去ってくれ!」


「……」


「おい……!」









 ズルリ。


 ディアネイラの首が滑り落ちるように胴から離れたかと思うと、そのままボトリと地面に落ちた。


 一瞬の間を置いて、首を失った胴体は崩れ落ちるように前のめりに倒れた。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 大変楽しく読まさせて頂いております。 外道達の死に様に、こういう死に方あるある、と思いながら読んでいます。 悲鳴が恐怖を煽り、パニックに陥って命を落とし、その姿がまた恐怖を誘う。 恐怖の…
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