第21話 迫りくる死
「早速開けてみましょう」
眼前に棺桶と思われる物体を確認した僧侶ディアネイラが目を輝かせながら放った第一声がこれだ。
「これ中身が入ってるんじゃないのか? ……仮にも僧侶が死者の眠りを妨げるような真似をするのはどうかと思うぞ」
アビゲルの突っ込みも妥当なところだが、ディアネイラは意に介する様子もない。
「何言ってんのよ。こんな廃墟の中で人知れず朽ち果てていくだけの屍をそのまま放置する方が可哀そうよ。きっとここで眠っている人達も私達に見つけて貰って喜んでいるはずだわ」
「物は言いようだな」
「それにちゃんと後で浄化してあげるわよ。それじゃあアビゲル、そっちを持って」
「はい、はい」
ディアネイラとアビゲルは棺桶の蓋の両端を掴み、ゆっくりと持ち上げる。
その瞬間、棺桶の中から凄まじい量の灰が舞い上がり、それと共に焦げ臭い臭いが噴出した。
「ごほっ、ごほっ……酷い有様ね」
「畜生、なんだってんだ……」
二人は棺桶の蓋を放り投げ、その中身を確認する。
「えっ!?」
「おい、嘘だろ!?」
棺桶の中に入っていたのは、真っ黒に焼け焦げた老人の死体だった。
殆ど炭になっているが、その苦痛に満ちた最期の表情ははっきりと見て取れる。
しかも知ってる顔だ。
「セイガル!? どうしてお前が……」
「アビゲル、もしかすると他の三つの棺桶にも……」
「ディアネイラさん、ここは俺達が……」
後輩の冒険者達が三手に別れてそれぞれが残りの三つの棺桶の蓋を持ち上げ中身を改めるとその中からはセイガルと同様に黒こげになった死体が現れた。
「アーサー、リリアン、ファーラン……あなた達までどうして……」
「くそ、あのゴーストの仕業だ! あいつが俺達の仲間を焼き殺しやがったんだ!」
「もしかしてさっきの拷問部屋の中にあった死体もギルドの誰かだったのではないかしら……」
「やめろディアネイラ、そんな事考えたくもない!」
「……とにかく彼らの遺体をこのまま放ってはおけません」
ディアネイラは両手を合わせ祈りの言葉を呟くとセイガル達の身体は淡い光に包まれ、溶けるように消滅した。
四人が浄化されたのを見届けたアビゲルは声を震わせながら言う。
「セイガル、アーサー、リリアン、ファーラン……お前達の仇は必ず討ってやるからな!」
「待ってアビゲル、棺桶の中に何か書いてあるわ」
「またこの不思議な文字か……一体何が書いてあるんだ? トランスレーション!」
アビゲルが翻訳魔法の呪文を詠唱すると、翻訳された文章が浮かび上がってきた。
その文字に皆の注目が集まる。
「ええとなになに……セイガル、アーサー、リリアン、ファーランの四名は黒死病発症によりその生涯を終える」
「黒死病……?」
聞き覚えのない病名に、一同は首を傾げた後ディアネイラに注目する。
この中で医学の知識があるのはディアネイラだけだ。
「黒死病……さっき読んだ書物に書いてあったわ。身体が焼け焦げた様に黒ずんで死んでいく疫病だとか……」
「疫病だって!?」
「それでセイガル達は焼け死んだような姿で死んでいたのか!」
「ちょっと待ってよ。あたしセイガルさんの死体に触っちゃったわよ」
「俺もだ!」
「じゃあ俺達も既に感染してしまっているのでは!?」
「嫌だ、俺はあんな風になって死にたくない!」
疫病の二文字に冒険者達はパニックに陥った。
「そうだディアネイラさん、あんたの浄化の力で何とかできませんか?」
冒険者達は必死になってディアネイラに縋りつくが、ディアネイラは首を横に振って答えた。
「それは無理よ。浄化の力も万能ではありません。未知の病原菌までは対処できないわ」
ディアネイラがそう断言すると、冒険者達の顔が見る見るうちに青ざめていった。
「じゃあ俺達はこのままセイガルさん達のように死んでいくしかないんですか?」
「こ、こんな病原菌だらけの所に一秒だっていられるか! 俺は一人でも生き延びて見せるぞ」
冒険者達は集団ヒステリー状態に陥っているが、ディアネイラとアビゲルの二人は数々の修羅場を潜りぬけてきたSランクの冒険者である。
このような状況でも毅然とした態度を崩さずに皆を落ち着かせようと奮闘する。
「そ、そうだ。さっきディアネイラさんは上の部屋で薬瓶を見ていましたよね。黒死病に効く薬とか無かったんですか?」
「薬ですか? ……そういえば確か薬品棚の中に黒死病のワクチンと書かれた瓶がありましたが……」
「それだ!」
「これで助かるぞ」
「お、俺が最初に使うんだ!」
「おい抜け駆けするな。俺が先だ!」
冒険者達は先を競うように薬を求めて今来た通路を戻って行った。




