第86話 模擬試合×昂り
球技大会開催にあたり、生徒会で備品チェックをすることとなった。
「バスケットボールはどうかしら」
「異常はない」
「ならバレーボールは...」
「これもう使えないだろ。べろべろじゃねーかよ」
雅人が持ち上げたのはバレーボールの表面が破けたボロボロのボールだった。
「それ去年からあるよな。よっと」
「ああ、ハズレボールね。どの学年でも嫌がられるボールだね。よっと」
適当に答えながらバスケットボールで遊ぶ黒井兄妹。
3ポイント地点から放ったボールはリングに弾かれてゴールすることはなかった。
「へたくそ。見とけ」
雅人は弾かれたボールを持つとそのままレイアップシュートを決めた。
「流石高身長。ダンクは出来ないのか?」
「今は無理。前は出来たけど」
「お兄ちゃん。バスケ出るならあの後輩先に潰さないと面倒だよ」
「聞こえてるぞオワコンが」
「遊び始めちゃったし」
「いいではないですか。多少遊んでも誰も怒りません。部活動がない今日だからこそ出来るんですから。それとも、バスケしてる彼を見たくはありませんか?」
「はぁ...見たいに決まってるじゃない」
「なら私にいい考えが」
叶恵が悪魔に変わった。
「赤嶺さん達、バスケの模擬試合をしませんか?」
「模擬試合?なんのために」
「競技中になにかあったら困りますでしょう?だから私達で確認して置くんです」
「ま、俺は構わないが男女でやるのか?」
「私と会長は外から見て確認するので黒井兄妹対赤嶺さんでいかがでしょう」
「ほう...面白い事を考える」
「容赦しないぞ後輩」
「容赦しないぞ先輩」
「あ、今こいつ先輩って言った!真央の事先輩って!」
そう真央が騒いでいる間に雅人はその場からボールを投げゴールに入れた。
「どうした?もうゲームは始まってるぞ」
「真央!サイドから回すぞ」
「分かった!」
2人が迫った来るも雅人は動かない。2人が雅人を追い抜いても動かない。
最後に真央にボールが渡り、真央がボールを両手で持ったのを確認すると雅人はそこでようやく動いた。
「無駄」
真央が飛んだのと同じに雅人は真央に追いつき更には真央より高く飛んだ。
「高い!」
真央は投げることが出来ずそのまま着地してしまった。
「クソが」
「口が悪いな。だがわざわざ二体一で付き合う必要なんてないんだよ。ゴールで止められるならそこで止めるに決まってるだろうが。さあ、今度は俺の攻撃だ」
「流石ですね。瞬間判断が頭一つ出てますね」
「ええ。それが雅人の武器。どんな状況だろうとすぐに判断が出来る。だからあの時も一時保留という答えがすぐに出せたのよ...」
梓は悲しそうに俯いた。
観覧車での雅人の答え、普通なら5分のうちに答えなど出せない。
好きという気持ちを知らないなら尚更だ。
「会長?応援はいいんですか?」
「応援なんてしたことないもの分からないわ」
「簡単ですよ。『雅人、頑張ってー』と言えばダンクシュートもしてくれるかもしれませんよ」
「そんなこと…言えないわよ」
「好きと伝えたのにですか?」
「それはそうなのだけど…」
「物は試しです。次に赤嶺さんの攻撃になったら応援してみましょう」
梓がコート内に視線を移すと丁度真央がシュートを入れたところだった。
「どうした後輩!速度が落ちてきてるぞ!」
「うるせぇバカ…キッツ…」
「次でラスト。赤嶺が決めれば赤嶺の勝ち…真央、絶対に防ぐぞ」
「ほら会長。応援するなら今ですよ」
悪魔の叶恵にそそのかされ梓は声を出した。
「雅人!頑張って!」
梓が声を張り上げ雅人を応援すると雅人と目が合った。
雅人はニッと歯を見せるとそのまま走りだした。
「真央!止めろ!」
「任せ…速!」
雅人は黒井兄妹の間を素早く抜けるとそのまま飛び上がった。
ガタン!と音がしてゴールリングには雅人の手がかかり、雅人はぶら下がっていた。
「赤嶺お前…ダンクシュート出来ないんじゃなかったのかよ」
「あの時はな。なんて言うか…気持ちが昂らないと出来ないんだ」
「完全に油断した…後輩に負けた…」
「水谷の存在を忘れていた…」
体育館に膝をつく黒井兄妹を素通りし雅人は梓に向かって笑顔を向けた。
諦めスマイルでも挑発スマイルでもない、梓に見せる無邪気スマイル。
雅人の無邪気スマイルは一緒にいた叶恵までもドキリとさせるほどの威力だった。
「久しぶりにバスケすると楽しいな。それにここまで本気で動いたのは久々だ」
「真央だってそうだよ」
「授業中じゃパスしないといけないしこう1人でボール持ってゴールは出来るけど1人プレーとか考えると出来ないよな」
「3人とも見事なプレーでしたよ」
「とくに雅人は最後凄いシュートだったわね」
「まあ、できた」
雅人はなんとか誤魔化そうとしたがこの場にいる悪魔2人がそれを見逃すわけなかった。
「後輩さー。さっき気持ちが昂ぶると出来るって言ってたよねー。身体が動くようになったらじゃないんだー」
「ということは赤嶺さん、会長の応援で興奮したってことですよね」
「知らん。なんかこの胸のあたりからぐわーってなにか込み上げてきて飛んだら行けた」
「顔にも出てましたよ?物凄くいい笑顔でした」
「笑った顔なんてそんばバリエーションないだろうが」
「いえいえ、あの笑顔は素敵でしたよ?ね、会長?」
「え、あ。そうね」
突然叶恵に振られて即答してしまった梓をジト目で見る雅人。
「いつもの俺だろ?」
「そうね。でも顔が赤いわよ」
「さっきまで動いてたんだから当たり前だろうが」
「それにしては熱いような…」
「後輩、さては照れてるな?あーちゃんと叶ちゃんにバレそうになって焦ってるな?」
「なに言ってやがる。そんなわけないだろうが」
「ならこの場であーちゃんに抱きついて」
無茶な言い分に雅人は眉間に皺を寄せた。
「状況を考えろ。俺は汗だくなんだ」
「会長。ちょっと試したいので汗だくですけど赤嶺さんにくっついてもらいますがいいですか?」
「ええ…それは構わないけれど…」
「てなわけで後輩。抱きつけ」
雅人は舌打ちしながら後ろに回ると肩に手を回すと梓を抱きしめた。
「どうですか会長」
「落ち着くわね」
「なに言ってんだよ。離れるぞ」
「もう少しだけ。雅人は動いて暑いでしょうけどアタシは寒いの。温めて?」
梓が雅人に可愛らしく甘えると雅人は梓を抱きしめた。
「まったくお前はいつからそんな甘えん坊になったんだよ」
「葵と雅人の会話聞いてたらアタシも甘えたくなったのよ」
「ならもっと甘え上手になったらどうだ」
「甘えさせてくれるの?」
「葵だけ特別ってわけにはいかないだろ。だが時と場合は考えろ」
「分かったわ」
雅人はこの時、一つ忘れていたのだ。
注意しなければいけないのは時と場合ではない『質と量』なのだ。




