第76話 負の感情×悪魔の計画
「ドン子」
中学時代の名前を呼ばれ後ろを向くと夏休みに葵を襲ったギャル、岸杏樹がいた。
「な、なんですか。仕返しですか」
「別に。あたし1人で赤嶺に勝てるなんて思ってないし」
「じ、じゃあなんでここに」
「そろそろ現実見たほうがいいんじゃないかって伝えに来たって言えばいいのかな」
「どういう意味…ですか」
杏樹はニヤリと口角を上げた。
「中学の時から不幸ばっかで周りに迷惑かけたのにまだ人に絡むんだね」
「それは…赤嶺くんがいいって…」
「そんなの建前に決まってるじゃん。あんたの姉貴が怖いから大人しくしたがってるだけ」
「そんなこと…」
「ないなんて言わせないから。別にドン子が誰と絡もうがあたしには関係ないけどさ、迷惑かけるのはもうやめたら?そんなことも考えられないんだ、だからドン子なんだよ」
杏樹の言い分はただ葵を挑発するだけのもの。
つい2ヶ月前の葵なら「そんなことない」とスッパリと断りその場を立ち去っていただろうが、文化祭で水谷梓という年上の恋のライバルが出来、更には遅れをとっているという現状が葵のマイナスな感情を膨れ上がらせていく。
「本当に赤嶺に迷惑かけたくないっていうなら無視すれば良い距離を置けば良い。対処法は沢山ある。ま、あんたがどうするかはドン子次第だけど」
杏樹は耳元でそう囁くと人混みに姿を消した。
「迷惑…赤嶺くんが…迷惑がっている…」
元々ネガティブな感情を多く持つ葵は既に自制が効かず負の感情が膨れ上がっていく。
例え杏樹が言ったことが適当だとしても今の葵なら信じただろう。
「よし、だいたい完了ね。あとは電気の業者が電極をつけるだけね」
「なんか…すげー賑やかになったな」
「雅人の案よ?それに、クリスマスツリーなんてこれくらいでいいのよ」
「それならいいんだが」
ふと雅人が周囲を見渡すと葵がいないことにようやく気がついた。
「仁、葵はどこだ」
「古賀?さあ…校舎に戻っていくのは見たけどそのあとは知らん」
「そうか」
雅人がスマホを確認すると先に帰るというラインが入っていた。
この時は然程気にはしてなかった。
「葵は?」
「先に帰ったみたい」
「え、ああ…そう」
「俺達も帰るぞ。寒い」
「手冷たくなってるわね」
「そりゃ、クリスマス近くに手袋もせずにずっと外にいるんだから当たり前だろ」
「手袋くらいすればよかったじゃない」
「木の枝に引っかかる」
雅人はポケットに手を突っ込むと校舎の方向へ歩いて行った。
「なんだよ」
「アタシはずっと手袋してたから暖かいでしょ?」
梓は雅人の手をポッケトから引っこ抜くと自分の手を重ねた。
「歩きずらい」
「生徒会長の手を握っておいて歩きずらいとは何事よ」
「そもそも身長差が合わないんだから無理だろ」
「無理じゃないわ。手がダメならこうして腕に抱きつけばいいのよ」
「最初の手のくだりどこ行ったよ」
「さあ。虚空の彼方にでも飛んで行ったわ」
イチャイチャしながら歩く雅人達の後ろで悪魔達がほくそ笑んだ。
「そっちは順調?」
「はい。勿論、多少強引でもありますが雰囲気さえ整えば抵抗はしませんから。先輩方も大丈夫ですか?」
「勿論、赤嶺さんは会長と仲良くやってくれていますよ。ただ、恋愛的な仲になっていないのが悩みの種ですね」
「それなら2人きりの状態にすればいいんですよ」
「それは難しいんじゃないかな」
悪魔の1人、黒井真央が異を唱えた。
「赤嶺とあーちゃんが一緒なのは大抵生徒会の時、生徒会で一緒なら必然と真央達も呼ばれる」
「その時に不自然に3人休めば赤嶺さんも不審に思うでしょう」
「やっぱりそうですよね…生徒会という縛りなしでどうにか出来ないですかね…それさえ無ければ2人きりにするのは簡単なんですけど…」
「ふふふ。こんなこともあろうかと、用意して来たよ。映画のチケット!」
「さすが先輩。準備がいいですね」
「ですがどうやって誘いますか?会長に渡すにしろ赤嶺さんに渡すにしろ誰を誘うのか分からないので意味がないのでは?」
叶恵が疑問を口にすれば待ってましたと言わんばかりに真央と詩音は笑顔を浮かべた。
「そこはタイミングですよ」
「タイミング?」
「そうだよ。生徒会の時にチケットの話をすれば真央達3人が消えて残りは後輩だけ。有効期限ギリギリで渡せばより後輩を誘う可能性も上がるってわけ」
「凄いですね。そこまで考えてるなんて」
「相手は元不良で予測不可能な行動もするからね。用心するに越したことはないんだよ」
悪魔達がほくそ笑む後ろで仁と悪魔の兄、快斗は呆れを通り越して感心していた。
「よくあそこまで計画出来るよな」
「そうっすね。オレには絶対に出来ない芸当っすね」
「おれも」
「ああ、そうだ。豹堂、快斗先輩?」
「どうした?」
「今の話聞いてたよねー?」
「ええ、まあ…」
「もし、会長または赤嶺さんに話したらどうなるか分かってますよね 〜」
『あ、はい』
仁と快斗は心の中で「こいつらだけは敵に回さないようにしよう」と心に誓った。
そして仁は後にこう語った。
『雅人に脚を折られた時より怖かった』と。




