第74話 挑発×距離感
遊園地から帰って来た夜。
葵のスマホに梓からラインが入った。
『雅人に好きって伝えたわ』
その一文を見て葵はもの凄い焦燥感に襲われた。
自分が一日一緒にいたのにも関わらず言えなかったことを梓はたった半日で好意を伝えたのだ。
葵は年上を相手にするということを自分の部屋で実感していた。
『赤嶺くんはなんと…?』
『まだ分からないって言って保留にされたわ』
葵はホッと胸を撫で下ろした。
だがそれは自分が告白したとしても成功しないことを意味していた。
『そうですか…赤嶺くんがそんなことを』
『喧嘩ばかりしてたんだもの。当然よ。でもこれでスタートラインは一緒ね』
その言葉に葵は少しムスッとした。
葵と梓が雅人と出会った時期はほぼ一緒。故に時期的な優劣はない。
もし優劣があるとしたら、恋への積極性だろう。
葵は引っ込み思案な性格があるため自分から誘ったりアタックするのは難しいだろう。
梓は積極的ではあるが雅人にからかわれかわされるため有効打にはならない。
両者ともに弱点があり特筆すべき武器もないという暴走列車もビックリの突進ぷりである。
だが両者ともに止まることは出来ない。
止まった瞬間こそが恋愛においての敗北を意味するからだ。
ライバルがいる今はとにかく突き進むしかないのだ。
『それじゃあ、お互いに頑張りましょうね』
『はい。お手柔らかに』
うさぎがお辞儀するスタンプを送ったあとに葵はベットに仰向けに倒れた。
自分がグズグズしている間にライバルに告白してしまったのだ。
優劣がない状態での後出しは逆効果になることが多い。
梓が好きと伝えてしまった今、葵の口から好きと伝えるわけにはいかない。葵が雅人に好きと伝えるには雅人が葵の好意に気づく必要がある。
その事実が発覚した瞬間、葵は顔を手で覆った。
これからどれだけ雅人にアタックしなければいけないのか考えると途方にくれた。
☆
そして、なんのアタックもできないまま12月に入ってしまった。
流石に2週間丸々なにもアクションが起こせないとなると葵も焦る。
だがそれはあくまで内側での葛藤で外には一切出ていない。よって雅人には知られていない。
「私はどうしたら…」
「どうした?」
後ろで夕飯後でくつろいでいた雅人が葵の独り言を聞いた。
「いえ、なんでもないです」
「そうか。ならいいんだけど」
「そ、そういえばもうすぐクリスマスですね」
葵は強引に話題を変えることにした。
「あーもうそんな時期か」
「赤嶺くんはなにか予定は有りますか?」
「昼間はあるけど夜はない」
「お昼はなにを?」
「あー。保育園でチビ達の相手だ。サンタ役が必要なんだと」
「赤嶺くん、子供好きですよね」
「そうか?暇だから手伝ってるだけだけど」
確かに子供は喧嘩も売ってこないし例え売ってきたとしてもへっぽこパンチで痛くもない。
そういう意味からすれば雅人は子供が好きだ。
だが子供と常に一緒に居たいかと言われれば雅人はいいえと答えるだろう。
「詩音さん曰く、『子供は心を見透かしてくるから無理』って言ってました」
「それはアイツ限定だろ見透かされて困ることがあるならそりゃ子供嫌いにもなる」
「そういう赤嶺くんは子供の苦手な所ってありますか?」
「そうだな…無鉄砲な所だな。自分じゃ出来ないことも普通にしたがるし人によっちゃ実行するからな」
「元気ですよね。子供って」
葵は自分のカップを持って雅人の隣に座った。
「葵は子供好きそうだな」
「はい。大好きです。可愛いですし1人1人個性の塊です。自分の気持ちを隠すことなくハッキリと主張しますよね」
「ま、中には快斗みたいに捻くれたガキもいるけどな」
「それを含めて個性です」
こうして話しているうちに葵は数週間の遅れなど忘れてしまっていた。
今こうして、好きな人の隣に座り何気ない会話で盛り上がってる。
そんな空気、関係、距離感を葵は好んだ。勿論、その先に行ければ文句なしなのだが。
「ようやく笑ったか」
「あえ…」
「なーんか辛そうだったからな。あまり深刻でもなさそうだし安心した」
そこで葵は雅人がわざと葵が乗りやすい子供の話を出したことに気がついた。
「こういう時は鋭いんですね」
「ふっ、何年不良やってると思ってる」
「関係あります?」
「ないと思う」
雅人の即答に一瞬間があいて葵は吹き出した。
「最初からは想像もつかない冗談ですね」
「そうか?俺は昔からこんなんだぞ。俺のイメージなんてどうせ俺に喧嘩売って負けた奴が広めた勝手な噂なんだ」
「私もお姉ちゃんから聞くまでは怖い人とか思ってましたから」
「そんなに怖いかね。目つきが悪いのは否定しないけどさ」
「すぐに威嚇したりするからですよ。もっと笑ったり爽やかにしてはどうでしょう」
「俺だって面白ければ笑うぞ。あと爽やかには慧輝と同じになるから嫌だ」
未だ慧輝とは仲が悪い雅人。
本気で喧嘩するわけではないが喧嘩すれば確実に周囲になんかしらの被害が出るほどの喧嘩となるだろう。
慧輝が爽やかさを重視しているために雅人はそれと同じになりたくはないのだ。
「別に俺はこのままでいい。数人の友達とバカやって笑ってる方が性に合ってる」
「中学時代に後悔はありませんか?」
「ないと言ったら嘘になるがまあ、それなりに満足してたし戻れるものでもないからな」
葵は雅人の肩に頭を置くとボソッと声を出した。
「高校では私を使っていいので存分に楽しんでください」
そう言った葵の顔は真っ赤だった。




