第71話 色物集団×遊園地
翌日、雅人は葵の横で目を覚ました。
時刻は朝の8時。雅人はいつも10時過ぎに起きるためかなりの早起きだが昨夜はだいぶ早くに寝ているため無理もなかった。
「あ、起きた」
「テメェ!神崎!よくもまあノコノコと顔出しやがったんな!あ!」
「静かにしなさいよ。葵が寝てるんだから」
「誰のせいで同じ部屋で寝たと思ってんだよ」
「なにかあった?」
「…なにもなかった」
「ヘタレ」
「しばき倒すぞ」
詩音はため息を着くと今回の目的があるということを話した。
「目的?」
「そう。昨日の朝あんたを外に連れ出したのも、ウチの家に止めたのも、葵を同じ部屋に入れたのも全て目的があってのことだから」
「その目的ってなんだ」
「それはあんたは自分で考えなきゃ意味がない。ウチはあくまで外野であって天使さまだから」
「意味分かんねー」
そのうち分かると詩音は言うと葵を起こすからと荷物ごと外に出された。
「マジでなんだよ…」
未だ理解が追いつかない雅人に電話がかかってきた。
電話の相手は梓だった。正直嫌な予感しかしなかった。
「なんだよ…」
『あ、出た』
「日曜の朝からなんの用だ」
『生徒会メンバーで打ち上げをしようと思って、昨日誘ったんだけど一日中留守みたいだったから一応伝えて置くわ。場所はー」
梓は場所を伝えるとそのまま切れた。
「電話?誰から?」
「梓から。生徒会メンバーで打ち上げだと」
「それなら行った方がいいと思うけど?いくらでさえ他の先輩達と連携とれてないんだから」
「日曜の遊園地になんで行かなきゃ行けない。人が多くて死ねる」
「いいから行きなさいって。あんたが抜けたら生徒会メンバーで男が黒井先輩だけになるでしょうが」
「ハーレムでいいことじゃねーか」
「そういうことじゃないでしょうが…この辺の遊園地ってナンパとか危ない奴が居るんだから…行かなくてもいいけど梓先輩になにかあったら殺すじゃすまないからね」
詩音は内容こそ具体的に言わなかったが詩音の目を見れば雅人には詩音がなにをしようとしているのか伝わった。
「行けばいいんだろ…」
「そうそう。最初から素直に行けばいいの」
雅人は不満タラタラで遊園地へと向かった。
遊園地の入り口に行くと、休日で人が多いというのにすぐにメンバーを見つけることが出来た。
梓は気合の入ったデートコーデ。
叶恵は見た目通りの大人しめなコーデ。
快斗は職質確定レベルで黒い格好。
逆に妹の真央はファンシーコーデ。
と近寄るのも躊躇われる色物集団なため子連れの客は近寄ろうとしない。
まだ梓と叶恵はギリギリセーフだが黒井兄妹は完全にネタに振り切っている。
雅人が遠巻きに見守っていると黒井真央に見つかってしまった。
「来たんなら声かければいいじゃん」
「その格好でよくそんなこと言えるな…」
「え、可愛いでしょ?」
「お前の妹感性死んでるぞ」
「そうか?真央はいつも通りだけど…」
「あーうん。お前も感性終わってるわ」
感性が死んでる兄妹を哀れむと後ろからシャツをくいくいと引っ張られた。
「なんだよ」
「来てくれてありがとう」
「…別に。暇だったから来ただけだ」
「やーい。ツンデレ副会長ー」
「うるさい。オワコン庶務」
「取り敢えず中に入りませんか?」
叶恵の一言でメンバーは移動することにした。
「まさか不良の赤嶺と遊園地に来ることになるとはな」
「俺もまさかと思ってる。誰かとここに来ることになるとは」
「来たことないんですか?」
「ない。もしかしたら小学校前に来てるかもだが記憶にない」
「葵とも?」
「ない」
雅人の返答に梓は少し上機嫌になった。
「んで、なにから回るんだ。てか、全員で回るのかよ」
「最初は全員で回りましょう。ある程度回ったら分かれましょう」
「おっけー!じゃあ早く行くよ!」
雅人達色物メンバーは遊園地へと繰り出した。
「まあ遊園地と言ったらジェットコースターでしょ!」
「真央、おれは絶叫系無理だって言ってるだろ」
「大丈夫。そんな激しくないから」
「ごめん真央。レール見えてる」
快斗は既に見えているジェットコースターのレールに怯えている。
だが妹の真央は逃がさないと言わんばかりに兄の袖を掴む。
「雅人は苦手な乗り物ってあるの?」
「そうだな…特にない気がする」
「たしかに、赤嶺さんは運動神経がいいので乗り物酔いとかもしなさそうですし豪胆なのでお化け屋敷も平気そうですよね」
「入ったことないから知らん」
ジェットコースタは2人が並んで乗るタイプだった。
叶恵と真央の策略により、雅人は梓の隣に座ることになった。
「ジェットコースターなんて初めてかもしれない」
「アタシは結構乗ってるわ」
「なら人の袖を放したらどうだ」
「結構乗っていても得意とは言ってないでしょう?」
「口だけは達者だな」
梓の手は震えていて額には汗が浮かんでいる。
ガタンとジェットコースターが動くと梓の握力が増した。
「そんなに無理なら断ればよかっただろ」
「生徒会長がそんな弱気になれるわけないでしょう」
「関係ないだろそんなの。お前はお前だろ」
「可愛くない。もっと『お前は頑張ってるよ』くらい言えないのかしら。でもそういうところが…」
『好き』
梓がそう言うのとほぼ同時にジェットコースターは最初の下りを迎えた。
ジェットコースターが不得意な梓に途中で喋るなんてことは出来ずただただ雅人の袖を握ることしかできなかった。
言ってしまった。ちゃんと聞こえていただろうか。引かれないだろうかなど様々な憶測が頭っをよぎりその憶測は証明されないままジェットコースターは減速した。
「気持ちわりぃ...」
「右に同じ...」
「叶ちゃん。男どもがだらしないよ」
「快斗さんは分かりますけど赤嶺さんまで...無理なら言ってくれればよかったのに...」
「基本乗り物酔いはしねぇんだよ...梓が引っ張るから変な体勢で乗ってたんだよ...」
「ああ、考え事してて気がつかなかったわ」
雅人と快斗を椅子に座らせて梓と真央は飲み物を買いに行った。
「折角会長と隣にして差し上げたのに進展なしですか」
「あいつをジェットコースターに乗ってる途中に落ちる女だと思ってんのか」
「いえ、思ってません。でも、落とす気はあるんですね」
「...別に」
雅人自身、自分がどうしたいのか分からない。
葵も梓も普通に可愛い。
それに、葵は同年代でゲームの話が出来、料理番で雅人の生命線でもある。梓は1つ年上ではあるが敬語を使わない分気楽であり、冗談を言い合える仲である。
どちらともに魅力があり離れてほしくない人達である。
「確かに、古賀さんもいい子で可愛らしいですが会長は一味違いますよ」
「ペッタンな所だろ」
「違います。会長のキスってエッチなんですよ?」
今まであえて叶恵の方を向いていなかったが向かざる負えなくなった。
「女の子同士ですもの。ハードルも低いですし隙もいっぱいあります」
「お前...そっち系か」
「デリカシーのない質問ですこと。でもお話しましょう。はい。私、両刀です」
まさかの性癖暴露に啞然とする雅人だった。




