第45話 幸運×不運
アルバイト2日目。
雅人と慧輝で散歩中。
勿論、男2人で散歩してるわけじゃない。
園児達を連れ、近くの公園まで行くのが仕事。
園児達はお互いに手を繋ぎ、男女関係なく手を振って歩いている。
「仲良しだな」
「そうだな」
男2人が先導し後ろでは茜と梓が付いてきている。
「あの2人大丈夫でしょうか…」
「大丈夫、あたしの前で喧嘩はしない。いくら雅人でも骨を失いたくはないだろうからな」
「骨…」
「ああ。あばら折れば大人しくなるだろう」
笑顔を浮かべる茜の視線を感じ雅人は滅茶苦茶警戒していた。
「赤嶺、お姉さんとはどこでどうやって出会った」
「なんでお前にそんなこと…」
「気になるから。どうせ話すこともないんだ」
「出会いは本当偶然。街中で見つけて喧嘩売られた」
「お姉さんの方から?」
「ああ、『喧嘩強いならあたしの下につけ』とか言い出したもんだから木刀持って挑んだ」
「で、結果ボロ負けと」
「うるせぇよ。1発も当たらないなんて思わないだろうが」
茜に自分の攻撃をすべて避けられ完敗したことは記憶に新しい。
「そういうお前はどうなんだ慧輝」
「おれはそういうのはない。喧嘩もそこまでしてなかったし」
「ヘタレが」
「女性にボロ負けした奴に言われたくない」
「殺すぞテメェ…」
「上等だよ…やれるもんならやってみろ」
園児がいるため小声でやっているが茜からすれば目つきでなんの話をしているかくらいは分かる。
「雅人、慧輝。そこの公園にしよう」
「わかりました」
園児達の列を曲げ、公園内にはいる。
点呼の後、子供達は公園内に広がった。
「どこか別の場所に行かないように見張るのと怪我しないように見守るように」
茜と慧輝は子供達に連れていかれ、雅人と梓は草むらで四つ葉のクローバーを探していた。
「なつかしい」
「保育園時代にやってたの?」
「ああ、めっちゃ探してた」
「誰かにプレゼント?」
「別にそういうんじゃねーけど…」
「ならなんで?」
「当時遊ぶ奴居なくて1人で探してた」
「…寂しくなかった?」
「止めろ、そんな哀れむような目で見るな」
雅人に友達ができたのは小学校になってから。
それまでは1人遊びをしていた。
「四つ葉のクローバーってなんで出来るんだろうな」
「四つ葉は三つ葉の変異体と言われてる。でもそう簡単に変異するものじゃないし変異するはごく稀よ」
「だから幸運とかなのか…あった」
「先生はやーい!」
「欲しいならあげるぞ?」
「うんん。自分で見つける!」
そう言って子供達は四つ葉のクローバー探しに戻った。
「園に戻ったら葵にでもあげたら?今日は来てるし、花言葉は『幸運』だし」
梓の言葉には半分足りない部分がある。
四つ葉の花言葉は『幸運』の他に『私のものになって』という意味がある。
花言葉なんてのは興味がないと調べないし自然と入ってくるものではない。ましてや、雅人が知っている可能性などゼロに等しい。
「そうするか…」
雅人がエプロンのポケットの手帳に挟んだのを見て、 梓は内心ガッツポーズをした。
散歩の時間が終わり、園に戻ると葵が出迎えた。
「お帰りなさい」
「ただいまー!」「葵先生ただいまー!」
葵は雅人が担当しているクラスより年齢が下のクラスを担当している。
年齢で言えば1〜3歳の子供達。
「ああ、葵。これ、見つけたからやる」
そう言って手帳からさっきとった四つ葉のクローバーを渡した。
「ありがとうございます」
「花言葉で『幸運』って意味があるんだろ?これもっとけば多少は回避出来るだろ」
「ありがとうございます」
葵は少し複雑そうな顔をしていた。
夕方になり、保護者が次々と迎えに来る中、1人だけまだ部屋の中に残っていた。
快斗だ。
共働きで忙しく遅くなることは珍しくないという。
「赤嶺、あと頼んでも平気か?」
「…どこいくんだよ」
「7時から別のバイトあんだよ」
「なら任せろ」
「頼んだ」
慧輝を送り出し、部屋の中には雅人と快斗と葵だけになった。
「こういう時は仲良いんですね」
「はぁ?アイツと仲良しごっこなんてゴメンだな。早く死ねばいい」
「赤嶺くん?快斗くんの前で死ねはダメですよ?お姉ちゃんに言いつけちゃいますよ?」
「まじすんません」
雅人達が夫婦漫才をしていると2人を見つめる視線に気がついた。
「どうした快斗」
「先生達って好き好き同士なの?」
「だったらなんだ」
「仲良しだな」
雅人は葵の肩に手を回すとそのまま引き寄せた。
「いいだろー」
「そうだな」
それだけ言うと快斗はレゴブロックで遊び始めてしまった。
しばらくして、快斗の母親が駆け込んできた。
「すいません…遅くなりました」
快斗は母親に連れられて帰っていった。
「これで全員か…」
「お疲れですか?」
「ああ、2日目なのにバテかけてる」
「梓先輩も先に帰っちゃいましたし私達も帰りましょう」
「そうだな。腹減った」
茜の一声かけて雅人達は帰路についた。
が、雅人は財布を園に忘れてきたため、戻り葵だけ商店街の中で1人となった。
「あれ!その赤メガネは!やっぱりどん子!」
陽気で馬鹿でかい声とともに現れたのは、金髪のギャル。
他にも数人の男女がいる。
「誰、知り合い?」
「そう!中学の時のクラスメイトなんだけどさ!コイツマジでヤバイの!階段で転けるし、球技やったら確定ボール当たるしでマジで不幸なの!」
「へー。でもよくよく見たら可愛くね?w」
「えーなにそれちょー妬けんだけどーw」
大笑いする陽キャ集団に葵は苦笑いするしかなかった。
「君さ、これから暇ならおれ達とちょっと遊ぼうよ」
「え、あの…これから夜ご飯の準備しないといけないので」
「なにどん子、私らと遊べないの?こんな時間までなにしてたんだから知んないけどさ」
「そういうわけじゃ…」
「ならいいよね?」
「でも…」
「イライラするなー。ちょっとだけだからさ」
男は葵をベンチに押し倒すと手で口を塞いだ。
「んー!んんー!」
「やべぇ!こいつ結構胸あんぞ!」
「お前ばっか楽しんでずりぃぞw。おれも混ぜろよw」
男たちが葵を押さえ女たちが動画を取りながら笑っていた。
葵の抵抗なんて無意味で男たちはビクともしない。
涙を浮かべて男たちの顔を見ると男の顔が視界から消え、ベンチの背もたれに押し付けられていた。
「ごほっ!けほっ!…赤嶺くん…」




