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第44話 恋×本音

園児たちがお昼を食べたあとは昼寝の時間だ。

押し入れに入っているそれぞれのカバーがついた布団を渡していく。

あとは園児の好きなように布団を引いて寝るだけ。


「園児が寝るまでお腹辺りをポンポンと優しく叩いてくれ。くれぐれも本気で叩かないように」

「分かってますって」

「雅人ならやりかねないと思ってな」

「っふ」

「笑ってんじゃねぇよ」


ある程度の園児が寝たら椅子に座って各保護者から預かった手帳に園での様子を伝える。

いわば、交換日記のようなものだ。


「アタシ達は初めてなので親御さん方にその旨を伝えなきゃよね」

「そうだな。まず挨拶からはいって...と言っても全員を覚えられるわけじゃないぞ...」

「そうよね。約20人ほどいる子供たちの様子を見るなんてほぼほぼ不可能よね...」

「まあ、これを書く前提で周りを見たりしてるんだろうけどな」

「保育士って大変ね...散歩だって今回は茜さんが先導したけど本当なら2人でやらなきゃいけないんだものね」

「そう考えると茜さんのカリスマ性ってすげーよなー」


雅人と梓は思い出しながら手帳に記入した。


「快斗か...書きやすいや」

「砂場の子ね?なにを話してたのかしら?」

「1人がいいとか言ってたから友達と遊ぶ楽しさを教えただけだ」

「貴方らしい教え方。言葉じゃなく行動で教えるなんて」

「言葉は理解できなくても気持ちは伝わるってじっちゃんが言ってた」

「1人だったことがある貴方だから解決出来たことね。お疲れ様」

「気持ち悪。そんなこと言うなよ」

「折角褒めたのに...」


砂場で1人で遊んでいた快斗。

今いるメンバーの中で快斗と同じ境遇になったことがあるのは雅人だけだ。

茜と出会う前の雅人に快斗は偉く似ていた。語彙力がない雅人は快斗と一緒に遊ぶことで他の園児たちの注目を集めた。

先生がなにかしていれば園児は自然と興味を持つ。それが自分に出来ることだったら尚更。


「子供の扱いが上手いのね」

「そうか?普通だろ。てか子供は怖いから基本無理だ」

「怖い?この寝顔を見ても?」

「まだこいつらはそうでもないけど、小学校5.6年になると平気で地雷を踏み抜くからな」

「そういうのが分からないんだから仕方ないでしょう。この子達はそんなことしないわよ」

「今はな」


手帳に全員分を書き終え、一息つく。


「...夏祭りの時のことって聞いてもいい?」

「いいけどなんも面白いことはなかっただろ」

「そうじゃなくて...花火の時のことよ」

「花火の時?なんかあったか?」

「その...お面をわざわざ取って顔を近づけてたっていう...それがあったのかという事実確認とあったのならなにをしようとしてたのかを聞きたいわ」

「...神崎と仁には黙ってろよ...」

「ええ約束するわ」

「あの時、なにを思ったのかキスしようとしていた」

「え...警察...」

「未遂なんだから許せ」


キスしようとして踏みとどまったのに警察に連行されるなんて理不尽があってはならない。


「なんでそんなこと...」

「...気持ちの昂りというか...その場での雰囲気というか...なんか行ける気がした」

「それ女の子にやったら警察のお世話よ...仁で我慢して置きなさいな」


なにが悲しくて男の顔を見ながら男にキスしなければならないのか。

雅人も仁も得しないし、得するのは腐女子だけだ。


「あのな...」

「でも強引に行かなかったのはいいわね。もし強引にいって葵を泣かせていたら本気で茜さんに強制リスポーンさせられる所だったわね」

「マジであの時の俺、ナイスだ。...でも葵は嫌がる素振りは見せなかったんだよな...」

「それは貴方が都合よく解釈してるだけよ。身長180の大男に掴まれたら声も出ないし抵抗も無駄だってわかるでしょう」

「それはそうだけど...」


だが雅人には腑に落ちない部分があった。

葵の顔だ。

面を外した葵の顔は赤かった。そして、目は少し潤んで見えた。

とは言っても暗闇で花火の光で見えただけでハッキリと見えたわけじゃない。

それが、雅人が躊躇した理由でもあった。


「アタシとしては、お似合いだと思うわよ」

「どこが」

「今雅人が喧嘩したとしてアタシが止めたら喧嘩止める?」

「止めないな」

「じゃあ葵なら?」

「止める」

「そこよ」


今雅人が本気で怒ったとしても葵が庇えば雅人は一時的にでも止まるだろう。

市内一の不良を止められるのは古賀の苗字の2人だけである。


「だけど俺はどうしたらいいのか分からない」

「…葵が好きだからキスしようとしたんじゃないの?」

「分からん」

「そこ1番重要でしょう?それが分からないなら動けないでしょう」

「今まで誰かを好きになったことなんてない」

「中学の時に付き合った子はいないの?」

「いる事にはいるけど…別に恋愛感情はなかった」


不良の世界では雅人くらいの強さがあれば彼女が居てもおかしくはなかった。

大体は不良がよく遊ぶ女子の中から選ぶことが多いが、雅人の場合は女子の方から告白し付き合っている。

女子から告白されたと言ってもお互いに好きだったわけじゃない。

雅人はよく分からずにOKしたし、女子の方も雅人と付き合っているという肩書きが欲しかったのだ。

学校一の不良と付き合えばカーストはトップレベル。その立場が欲しいがために好きでもない雅人と付き合ったのだ。


「恋とかなんだとかってのはよく分からない。よく選択を間違える」

「美少女ゲームの選択肢は間違えないのにね」

「ほんとそれ。3択ぐらいに絞ってこの辺に出てくれるとすげぇ助かるのに」


だが人生はそこまで甘くはない。

時には100以上ある選択肢の中から最適解を探さなければいけない時もある。

雅人からすればそれが億劫なのである。


「折角高校入ったのだから青春しないと損よ?」

「お前みたいになるのか…そいつはごめんだな…」

「殴ろうか?グー?パー?それとも蹴り?」

「紛れも無い事実だろ。喪女」


彼氏いない歴=年齢の梓はなにも言い返せず雅人を睨むことしか出来なかった。


「先輩として1つだけアドバイスしてあげるわ」

「喪女のアドバイスか…」

「いいから黙って聞きなさい。『恋には攻めしかない。守りに入れば必ず負ける』アタシの教訓よ」

「一生役に立たない教訓だな」

「貴方は素直にありがとうって言えないの!」


「そこまで素直なら不良と呼ばれることはなかっただろうな」

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― 新着の感想 ―
[良い点]  梓先輩のアドバイス。五臓六腑に染み渡りますなぁ~。できればそのアドバイスを、後1万年ほど前に聞きたかった。  そして恋に、雅人が不良だったのを後悔するようなセリフ。ああぁ~、たまらねぇぜ…
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