第31話 予定×夢女子
朝あれだけ降っていた雨は嘘のように止み空には青く広がっている。
「止んだぞー!」
「うるさい。あんたは静かにできないのか」
「出来ねぇ!太陽はオレの命だ!」
「植物かよ。光合成でもしてんのかお前は」
「なんだよ。これから夏休みの予定を決めようってのに偉くテンション低いな」
「お前が高すぎるんだ。これが俺のデフォだ」
晴れた放課後、夏休みの予定を決めるため4人で下校していた。
もう1人、梓は生徒会の仕事が終わったら合流予定だ。
部屋着に着替えるために雅人の部屋に仁を、葵の部屋に詩音という風に男女で別れて着替えて、準備が出来次第、ラインで連絡することになっていた。
「うわ、ホントになにもないな」
「男の一人暮らしならこんなもんだろ。飯は葵が作ってるくれるし」
「完全に胃袋掴まれてんな。気をつけろー。男を堕とすならまず胃袋からなんて言われるくらいだからな。手駒にされないようにな」
「古賀はそこまで腹黒くない。やりそうなのは神崎だ」
「あー。なんとなくわかる」
2人の詩音のイメージはこんな。
料理が上手くて、可愛いというよりは美人系統で葵と比べると身長が高くスラッとしている印象に加え、夫が浮気すると料理に毒物を盛りそうという余計な印象まである。
雅人達が着替え終わってテレビを見ていると葵からラインが来た。
「来てもいいってよ」
「っしゃ!夏休みの楽しい予定を決めようじゃないか!」
「邪魔するぞ」
「お邪魔ー!」
葵の部屋に入ると私服姿の2人がいた。
「まだ先輩来てないけど始めちゃう?」
「それでもいいと思います。あとで来た時に説明出来るように私書記しますから」
「さすが古賀。気がきくー」
「それではまず、夏休みの予定ですが、この日だけは絶対に無理とかありますか?または、予定が出来る可能性があるなどがあれば言ってください」
「あー。俺は8月のお盆の時期は多分無理になる可能性が高い」
「なにするん?」
「バイト」
「えーあんたが?よく近所で面接受かったわね…」
「まあ、実績があったから」
葵が手帳に用件を書き込んでいく。
「オレは特にないなー。いつでも暇してると思う」
「豹堂もバイトしろよ」
「オレは2年になってからでいいっかなーって思ってる」
「赤嶺くんはなんのバイトするんですか?」
「この前、古賀とやった保育園。資格がないから簡単なものなるけど園児が散歩行ってる間の掃除とかなら出来るし雑用が多いんだと」
「よはお世話係というよりは雑用なのね」
勿論、園児が居るときはお世話がメインになる。
しかし子供に苦手意識のある雅人にまともに面倒を見ることが出来るなんて今いるメンバーの中にはいなかった。
「なら私もアルバイトしてみようかな…なんて思ったり…」
「無理に俺に合わせる必要はないぞ?俺だって暇だからバイトするだけだし」
「買いたいものとかなしにバイトすんのはお前くらいなもんだろうよ」
「神崎はなにか予定とかないのか?」
「ないかなー。親は仕事だし長期休みにどこかに行く友達もいないし」
「ボッチ乙~」
「神崎踏みとどまれ!赤嶺も煽るな!」
詩音を強制着席させて話は続いた。
しばらくすると、梓が帰って来た。
「おそくなったー。書類が片付かなくてね...」
「いえ、大丈夫です。梓先輩はなにか夏休み中に予定とかありますか?」
「ないわよ。あ、でもお盆にアルバイトが入ってるわ」
「水谷先輩もっすか?こいつもお盆にアルバイト入ってるんっすよ!」
「貴方がバイトね...アルバイト先に迷惑かけないでよね」
「理由なく暴れるほど餓鬼じゃねぇよ」
「どうだか」
着々と予定が埋まっていき全員が開いている日に遊びに行くことになった。
「次はどこに遊びに行くかですね。それによって予算が大幅に変わります」
「海は確定な!」
「分かったから落ち着いて...こいつがこんなに地頭がいいなんて思わなかった...」
「無理に約束を守る必要もないだろ」
「赤嶺!お前ってやつは!お前だって古賀の水着楽しみとか言ってた...だあ!」
「え?なんて?よく聞こえなかったよ!」
「噓噓!オレが見たかっただけです!だから頭蓋骨を砕こうとしないで!」
雅人は仁の頭を放すと話しをつづけた。
「どういう意味?」
「どうせ口約束だろ?ならとぼければいい」
「ウチだって豹堂だけだったらとぼけてた。でも葵も梓先輩もいるし...思い出は作っときたいの」
詩音の言葉には半分足りない部分がある。
思い出作りが半分で、もう半分は海でのナンパである。
水着姿でスタイルには些かの自信がある詩音は海で男をゲットする予定でもあるのだ。
「思い出ね...俺はてっきり男狙いかと」
「男ならここに2人もいるじゃん!わざわざ海で狙わなくても...」
「あんたらみたいな低能を彼氏にしたいとは思わないし。折角の高校生活なんだから彼氏より友達との思いでを作るの彼氏は大学生になってからでもいいの」
「かーっ!手厳しい!」
「海のほかに案はありますか?」
「他か...ゲーム大会でいいんじゃね」
「それ楽しいの古賀と赤嶺だけだろ」
「そんなことないぞ。見てるだけでも十分楽しいぞ」
「梓先輩もなにかないですか?」
「そうね...夏祭りとか行ってみたいし、お泊りもどこかでしたわね...」
梓は去年したかったけど出来なかったことを案として出した。
「ゲーム大会もやぶさかでないけど人生ゲームとか雅人も葵も公平に勝負できるようなものなら別にやってもいいわね。あ、あと皆でバイト出来ると楽しいと思うしあとは普通に買い物したり出かけたり...まさに青春」
「いるよな。話したいことあると早口になるやつ」
「まあまあ、多分去年できなかったんだろうしその辺は察してあげようぜ」
葵はメモを取り男子2人は呆れ顔で梓のことを見ていた。
「お前って夢女子っぽいよな」
「だ、だれが夢女子よ!そこまで非現実的なこと言ってないでしょう!」
「どうだか。今言ったことをするのにどれだけの金が必要なんだよ」
「そ、それは...そうだけど...」
「時間はたっぷりあるだろうが金はそこまでない」
現実を突きつける雅人に誰も反論できなかった。それが事実で現実だからだ。
ただ出来ないのは反論だけだった。
「そんな突っぱねることないでしょ。全部出来なくても、お泊りとゲーム大会は出来ないこともないでしょう?それに夏祭りだって絶対にお金がかかるってわけじゃないしいいんじゃない?先輩の案に乗って青春しても」
「詩音...アタシの味方だって信じてたよー!」
「ウチもアイツに好き勝手言わせるのは性に合わないので気にしないでください」
「んで、論破された赤嶺さんよ。なにか反論があるなら今のうちだぞ」
「...もうねぇよ」
「なら夏休みの予定として、海、ゲーム大会、お泊り会、夏祭りを案として入れました。あとは日程ですが...それより先にご飯にしましょうか。日程はその後です」
葵はエプロンをかけてキッチンに立った。




