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百八番目は異世界魔王  作者: 藤正治
第二章 魔王領ゾルガー
16/24

16.初めてのお客様

 今日はみんなでお出掛けだ。

 魔獣狩りである。遊びではないのだ。

 でも今度、ピクニックに行こうと思う。

 そのためにも周辺地域の安全確保が必要だ。

 経験者のアルフを指導官として、魔獣狩りの基礎を仕込まれる。

 基本な戦術の流れは索敵、誘導、包囲、殲滅の四つだそうだ。

 魔獣の存在をいち早く発見し、囮を使って陣を構えている場所に誘い込む。

 逃げられないように包囲してから、弓で牽制しつつ槍や剣でとどめを刺す。


 話しを聞く分には単純だが、実行すると思うようにはいかない。

 動きが予想できない魔獣を相手に四苦八苦しながらスケ兵さんたちを指揮した。

 慣れないうちは不手際も多く、逃げられたり、ひやりとするほど接近されたりした。

 しかし日を重ねるごとに指揮も上達し、そこそこ成果が上がるようになってきた。


 魔獣は元の世界の生き物をベースにした感じで外形はそれほどかけ離れてはいない。

 ただ中型犬ほどもあるネズミのような魔獣がいたりとけっこう身体は大きい。

 例外はあるが基本的には攻撃的で、こちらの姿を見かけると襲い掛かってくる。


 注目すべきは異能持ちと言われる魔獣だ。

 魔獣の中には、硬い背びれや歪な角、体外に突き出て変形した骨格を持った種類がいる。

 そうした特異な形態をしているのはたいがい異能種と呼ばれる魔獣である。

 異能とは魔獣生得の魔術らしい。

 人間が後天的に魔術を学ぶのに対して、異能種は生まれつき擬似魔術を備えている。

 角の生えたイタチが火の玉を発射してきたときにはびっくり仰天した。

 大きさは野球ボールぐらい。灼熱した角から生じた火の玉が、咆哮とともこちら目掛けて飛んできた。

 火の玉は、キリキスの剣の一振りであっさり霧散したが。

 アリクイモドキの帯電した爪で打ちかかられたスケ兵さんも、特に感電した様子もなく剣で返り討ちにした。

 異能は比較的脆弱な魔獣がもつ特技らしい。下位魔獣ではそれほど脅威ではない。

 しかし中位以上の魔獣が異能を持っている場合は、時に人間の魔術を凌駕するので警戒するようにと言われた。

 幸いなことに俺達が出くわすのは今のところ下位魔獣ばかりでさほど危険な目には会っていない。


 最初は安全策をとって全員で狩りを行ったが、ちょっと慣れてから部隊を二つに分けることにした。

 俺としては六部隊を同時に稼働できる状態にしたいが、アルフは時期尚早だと却下した。

 俺やフィリラちゃんが自分の身を確実に守れるようになるまでは、従者が補佐する形だ。

 フィリラちゃんはともかく、俺が足を引っぱっちゃだめだろうと思う。

 狩った魔獣はで血抜きをしてから、荷馬車で城砦に持ち帰って加工する。

 城砦の一画を処理施設として、クルスがスケ兵さんたちを指揮して解体する。

 解体された魔獣は、肉はフィリラちゃんが保存食に加工する。

 その他の換金可能な部位、毛皮や牙、骨に内臓なども保存処理を施す。

 現状では買い手がいないので、倉庫の肥やしになっている。

 どうしても使い道のない部分は城砦の外に埋めているが、もったいない気がする。

 なんとか使い道がないだろうか。

 そう言ったらアルフからは所帯じみていると言われ、フィリラからは立派な主婦になれると言われた。

 けなされたり誉められたりと思ったが、両方とも同じ主旨だ。

 こうして徐々にではあるが、狩りの成果が上がって城砦周辺の魔物の数は減少した。

 《魔王の世紀》が続く限り、魔獣の数は増加するらしいから定期的に狩りは必要だろう。


 魔獣狩りは安全保障の一環だが、経済を回す要素にできないか思案している。

 具体的な目標は領域外との経済的交流である。

 どうあがいても領域は辺境なのだ。周辺には開拓村と遊牧民しかいない。

 魔王群の襲来に備えた軍備力増強はかなり困難な状況だ。

 外部の経済圏と交易をして軍事力の導入を図りたいのだが。

 俺が自室で頭を抱えてうんうん唸っていたある日、キリキスが来客を報せに来た。


「陛下、陛下に拝謁を賜りたいと申す者たちが来ておりますが、如何いたしましょう」

「え、だ、誰?」

「開拓村の村長を名乗っておりますが」

「アルフは! アルフはどこにいる!」

 俺は慌てふためき、騎士さまを探す。

「ただいま巡回に出ておられます」

「す、すぐに誰か探させて」

「現在、城砦にいるのはフィリラ殿だけですか、よろしいですか?」

 それはだめだ。一人で城砦の外に出すのは危険すぎる。

「わたしが参りましょうか?」

 キリキスの提案に心が動くが、どうだろう。

 すぐに見つかればいいが、時間がかかると村長さんを待たせることになる。

 最悪、すれ違って夕方まで掛かるかもしれない。

 後悔先に立たずというが、今の状況だ。


 開拓村と接触する際には、アルフを前面に出して対応させようと思っていたのだ。

 他国とはいえ、アルフのもつ気品から高貴な身分の人間だとすぐに分かるだろう。

 そうすれば後の交渉がスムーズに進むと目論んでいたのだ。

 俺がためらっているうちに、まさか相手から訪問されるとは想定外だ。

 だって普通に考えれば、スケ兵さんたちが徘徊する不気味な城に、自分から出向くとは思わないだろう。

 それが先方からアクションを起こされ、イニシアティブを奪われた格好だ。

 これ以上、相手にポイントを取られないよう、迅速な対応をするべきだ。


「・・・相手は何名だ」

「村長を名乗る老人と、子供のふたりです」

 どういう意図だろう? この面会に重きをおいていないのか、余計な疑念を避けるためなのか。

 くそ、会う前からいろいろ悩まされる。

「・・・・・・外出中だと言って帰ってもらおうか」

「そのようにいたしますか?」

「俺がいるとは言っていないんだろう?」

「いえ、在城していると言いました」

 だめじゃん! 居留守なんか使えるか!

「多忙だと言いきかせればよろしいでしょう」

 魅力的な提案だが、問題の先送りにしかならない。

 俺は歯を食いしばって決心した。

「どこか部屋に案内して待ってもらえ。フィリラに言ってお茶とお菓子をそんなものはない! 白湯でも出して干し肉でも出すかだめだ貧窮していると思われたら足元をみられる井戸で果物を冷やしてたなフィリラに言って果汁を絞ってもらってくれ子供がいるなら喜ぶだろう場所はそうだなこの部屋にするか玉座に座るか?高圧的過ぎるなテーブルはそのままにしておこう着替えをしようかああ黒いローブしかないか仕方がない今度ラキスの替えの服を仕立て直してもらおうか!」

「承知しました」

 キリキスは一礼して退出したが・・・本当に分かったのか?



「よく来てくれた、歓迎する」

 俺は席に座ったまま村長さんと子供を迎えた。本当は立ち上がりたいのを我慢しているのだ。

 客であり年配者であり目上?の人と着座したまま挨拶するのは、俺の常識からすると違和感がある。

「突然の訪問にもかかわらず、面会を許していただき、ありがとうございます」

 村長さんが一礼する。特に気を悪くした様子はない、と思う。

 年齢は六十代後半ぐらいだろうか。

 キリキスは老人と言ったが、髪は真っ白だがはげてはおらず、歯も自前のもののようだ。

 背筋も曲がっているが、まだまだご壮健な様子だ。

 傍らにいるのはお孫さんだろうか。村長さんが頭を下げると慌ててそれに倣う。こちらは十歳ぐらいか。

「どうか席についてほしい」

 威圧的にならず、それでいてへりくだらず。俺は慎重に言葉を選びながら、席を勧める。ああ、こういうのは本当に苦手だ。

 村長さんと子供が席に座ると、お互いをじっと観察した。

 なんと声を掛ければいいか分からない。やはり世間話から始めればいいのか。天気の話題から入るのが妥当だろうか。

 沈黙が続き、子供がもじもじとしている。

「魔術師殿は、ずいぶんとお若いですな」

 老人が口を開いた。

「そうかな?」

「力ある魔術師はすべからく齢を重ねたものと聞き及びます。見れば人族のご様子、年齢も見た目相応ならば、よほどの才に恵まれている証拠」

「なるほど。ところで名乗りを忘れていた。わたしはカズサだ」

「これは失礼をしました。わたしはソーク、開拓村で村長を努めております。こちらはディルです」

「お孫さんか?」

「いいえ、村の孤児です。わしが後見をしています」

 なるほど、だから似ていないのか。可愛らしい男の子だ。

「こんにちは、ディルくん。俺はカズサだ、よろしくな」

 子供は人見知りなのか、顔を伏せてしまった。それでも村長さんに促され、蚊の鳴くような声で応える。

「ディルです」

 それだけで顔を真っ赤にして照れてしまった。

 ・・・なごむなあ。ふだん女性ばかりに囲まれていて、息が詰まるというほどではないが、やはり気をつかう。

 たまには気のおけない男同士の付き合いも、ちょっと欲しい。

 村長さんとは年が離れすぎているので、この子供と仲良くなりたい。

「お近づきのしるしに、土産を持参しました。どうぞお納め下さい」

「それはありがたい。感謝する」

 事前にキリキスが受け取ったそうだ。

 しばらくよもやま話をしていると扉を叩く音がする。キリキスに開けさせると、

「失礼します」

 フィリラがお盆の上に木製のカップを載せて、やってきた。

「どうぞ」

 ソーク村長、ディルくん、それに俺の前にカップを置く。

 キリキスは俺の傍らに立ったまま客たちを監視している。

「どうぞ、遠慮なく」

 俺はふたりに勧めてからカップに口をつける。森で採れた果実の絞り汁だ。あの日以来、森には近寄っていない。これが最後の分だろう。

「おいしい!」

 ディルくんが歓声をあげる。うんうん良かったね。フィリラもうれしそうだ。

 ソーク村長も果汁を口にしたが、表情に驚きがある。

「これはククルの実ですか?」

「そうなのか?」

 フィリラに尋ねると、彼女は首を傾げた。

「さあ、名前は知りませんが」

 ソーク村長は俺たちの様子を見ながら頷いた。

「間違いありません。これは古き森でしか採れないククルの実です。どうやって手に入れられたのですか?」

「どうって、ふつうに森で採ってきたのだが」

 正直に告げると、ソーク村長がさらに驚くので心配になる。

「もしかして、この辺りの禁忌に触れるのか」

「いえ、そうではありません。あの森には魔獣のヌシもおりますので」

「・・・あれがそうだったのかな」

「・・・ひょっとすると」

 もしかして倒したらまずかったか。神聖視でもされていたのかもしれない。

 俺とフィリラが顔を見合わせると、ソーク村長がおそるおそる尋ねる。

「身体は大きな熊で、頭は狼に似ています。両脚で立てば三メートルぐらいはあるでしょうか、凶暴な魔獣です」

「ああ、たぶんそれだ」

「・・・ご覧になられた? よくご無事で・・・」

「ああ、まあ、なんとか・・・」

「はい、美味しく頂きました」

 ちょっと!!なんでそんなこと言うのさ!?

 あと、いつ喰わされたんだよ知らないよ!!

「食べたのですか!!」

 すごい剣幕で立ち上がるソーク村長に脅え、フィリラが身をすくませる。キリキスが剣の柄に手を掛ける。

「す、すみません! 許してください! 狩った獲物は無駄にしちゃいけないと父の教えで!」

「狩った! 森のヌシを!」

「すみませんすみませんすみません」

 平謝りのフィリラを、引きつった顔で見詰めるソーク村長。おろおろするディルくん。

「ソーク村長、落ち着いてもらえるか。もし村の掟に背く行為だったのなら、謝罪しよう。言い訳するわけではないが、襲われたので仕方なく返り討ちにしたのだ」

「いえ、こちらこそ申し訳ありません。気が動転しまして」

 俺が宥めると落ち着いたのか、ソーク村長は大きなため息をついて席に座りなおし

「ありがとうございました」

 そう言って頭を下げた。

「昔、古の森で村の者があの魔獣に襲われ、命を失ったことがあったのです。それ以来、村では森に近付くことを禁じておりまして・・・そうですか、森のヌシが・・・」

 ソーク村長が遠い目で呟いた。

 これはもしかして・・・怪我の功名か! ちょっと違うな!

「いや、偶然とはいえ、村の方の仇を討てたのなら、これにまさる喜びはない。もし遺族がおられたら、遅ればせながらお悔やみを伝えて欲しい」

「そうですな・・・ディル、この方たちにお礼を言いなさい」

 いきなりソーク村長に言われ、きょとんとするディルくん。

「後で詳しいことを話してやるから。まずはお礼を言いなさい」

「・・・ありがとうございます?」

 首を傾げながら頭を下げるディルくん。

「この子には、両親の最後をまだ話しておらんのです・・・ですが、ようやくこれで」

 ヤバイ!

 すごくヤバイ!! いきなりの不意打ちだ!!

「ちょっと失礼する! キリキス、ついてこなくいい!!」

 つまりそうになる声を振り絞って命じ、俺は部屋から逃げ出した。



 顔を洗ってしばらくしてから、俺は部屋に戻った。

「いきなり申し訳なかった、その、急用を思い出して」

「いえ、お気になさらず」

 くそ、大失態だ! ぜんぜん言い訳が通じてない!

 ソーク村長の穏やかな眼差しが、こっちを見ていやがる!

 俺はこの失敗をどう取り繕ったらいいのか、内心で混乱する。

 初対面でディルくんに必要以上に感情移入したのが敗因だ。

 本人も知らない身の上の不幸に思わず感情の抑制が外れてしまった。


 ・・・ソーク村長には設定したイメージを植え付けたかったのに。

 礼儀正しいが近寄りがたく、残忍ではないが親しみのもてない、あくまで心のうちを明かさない人物像を。

 相手が俺の腹の内を探るのに神経をすり減らす、緊張感のある関係を望んでいたのに!

 だが俺は、自分の性格の一端を、あけすけにさらしてしまった。

 今後はいくら虚勢を張っても、彼には通じないだろう。いざとなれば、露呈した弱点を容赦なく攻めてくるに違いない。


 ・・・この老人を、このまま帰すのはまずいかもしれない。

 幸いこの辺りには数が減ったが魔獣がいないわけではない。

 魔獣の仕業に見せかければ・・・


 己の愚かさに自嘲する。

 そんな真似ができるなら、弱点などはなから存在しないのだ。

 そこでふと、素朴な疑問がわく。

「村長はディルくんと二人だけで、こちらに参られたのか?」

「はい、そうです」

「・・・こう言ってはなんだが、いささか無分別だったのでは?」

「わたしは老い先短い身です。若い働き手は、ひとり欠けても痛手です。この子には不憫ですが、村のためです。わしとディル、どちらかがここを訪ね、戻れば良いのです」

 ああ、そうか。彼の訪問の真意をようやっと理解した。

 開拓村では相当、この城砦に脅えているのだろう。

 奇怪な骸骨兵士が徘徊し、付近の魔獣を狩りまくる不気味な城砦。

 その矛先がいつ自分たちに迫るか、戦々恐々としていたに違いない。

 このふたりは、偵察に来たのだ。しかも村長は自ら志願したのだ、捨て駒として。

 城砦の様子を探り、村に危険があるか否か。

 そして俺の人となりを探り、対処するために。

 もし村長とディルくんが帰還しなければ、それは一つの判断材料だ。魔獣によって命を落として失敗するリスクもある。

 村長はほとんど命を落とす覚悟で、俺に面会を求めに来たのだ。

 年端もいかないディルくんは、いわば保険だ。

 魔獣相手なら足腰の弱った村長よりも早く逃げられるかも知れないし、逆に囮や生贄にできるかもしれない。

 そこまでせざるをえなかった開拓村の、俺たちへの恐怖がひしひしと伝わってくる。


 俺はあきらめた。

 覚悟を決めた相手にかなうはずがない。


「ソーク村長、今後はあなたの村と友誼を結びたいが、いかがだろう?」

 相手に言わせたかったセリフを、自分から申し出る。

 これは俺の敗北宣言だ。

 この世界に来て初めて敗北した。

 不思議な感慨がある。

 フィリラとラキスに勝ち、アルフとクルスに勝ち、森の魔獣を討ち、草原の民を取り押さえた俺が、この年老いた村長に負けてしまった。

 それはある意味、当然の結果なのだろう。

 キリキスやスケ兵さんたち。かりそめの力を剥ぎ取った俺が、多くの人生経験を積み重ねた男に勝てるはずがなかったのだ。

 魔王群の襲来に備えた俺の計画の一部が、いま破綻してしまった。

 そのはずなのに、なぜか心は穏やかだった。


 後日の再会を約束して、その日は老人を送り返した。

 護衛にキリキスと、スケ兵さんも百体つけた。

 こちらから出向くから、もう二度とこんな危ない真似はしてくれるなと釘をさした。

 お土産に魔獣の塩漬け肉と、塩の樽をもたせて荷馬車で運んだ。

 ソーク村長は魔獣の肉はもちろん、樽に入った塩をことのほか喜んだ。

 城砦にはなぜか、金貨とともに、大量の塩が備蓄してあった。

 キリキスは盟約にうながされるままに用意したらしいが、俺にはその価値を理解できた。

 塩の用途は多岐にわたる。食事や保存食の加工、時には通貨の代用にもなる、戦略物資なのだ。

 特に内陸部ではその価値はさらに増す。スーパーで気軽に買える文明世界では考えられないほど、塩は価値が高いのだ。

 ソーク村長は、ちょっと値の張るこれらの贈り物を、最初は辞退しようとした。

 遠慮というより、警戒したのかもしれない。

 だが、村の人たちで分け合ってくださいと言うと、俺の意図をくんで受け取ってくれた。

 贈り物の肉と塩によって食卓が改善すれば、村人たちの恐怖心も自然とやわらぐのではないかと思ったのだ。

 本来なら軍事力を背景にした微圧外交を考えていたが、方向転換するなら余計な恐怖心は煽らないほうがいいだろう。

 仲良く付き合うと何かと便利でお得な隣人、そんな関係がベストだ。

 ソーク村長が帰ったあと、俺はフィリラちゃんを呼んで開拓村との交渉役を頼んだ。


「そんなの無理ですよ!」

 怖気づいて辞退するフィリラちゃん。

「ごめん、言い方がちょっと悪かった。つまりフィリラには時々、開拓村に遊びに行って、あっちの人達と仲良くなってきてほしいんだ」

 スパイの役目をオブラートに包んで意訳する。

「それに物々交換できそうなものも探してほしい。ほら、チーズや野菜なんかがあれば、料理のレパートリーも増えるんだろう?」

「・・・そうですね。お肉ばっかりじゃ、飽きるし健康にも悪いし・・・」

「ニワトリとか、譲ってもらえないかな? 新鮮な卵で朝食にオムレツとか」

「まあ!」

「あとパンが食べたいよね!」

「パン! 良いですね!」

「だろう! 焼き窯が造れる職人さんとかいないかな。 こっちに焼き窯を作ってもらって、朝食に焼きたてのパンを食べるんだよ」

「素敵です! わたし、パンを焼くのが得意なんです!」

 目をキラキラさせてうっとりするフィリラ。

「それといろいろ職人さんも探してね。鍋や包丁なんかも、種類が多いと便利だろう」

「わかりました! 楽しみにしていてくださいね!」

「ああ、期待しているよ」

 ・・・こういうのをなんと言ったけ?

 確か、チョロイ?


 こうして開拓村のことに関しては、とりあえずフィリラちゃんに任せることにした。

 農村出身の彼女なら、向こうも受け入れやすいのではないか。

 ある程度、交流が深まってから、俺も開拓村を訪れるようにしよう。

 ひとつ懸案事項が片付いた俺は、次の懸案事項に思いをはせる。

 話し合いの最後で、ソーク村長は気になること情報を教えてくれた。


 あの森には、エルフがいるというのだ。

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