猫の神様
『まったく。久しぶりに会ったと思えば、また泣いてるのかい?』
「えっ?」
何? 今の声。
ここには私と河津君しかいないのに、明らかに別の人の声が聞こえた。
『こっちこっち。今アンタの目の前にいるじゃないか』
急にきょろきょろし始めた私を見て、またその声がする。
「だ、誰?」
「麻田さんもしかして、猫神様の声が聞こえているのでは?」
「猫神様って……」
「今僕達の前にいる、その猫ですよ。この神社で祭っている神様の化身、ある意味ここの真の主です。そして、昔あなたを助けてくれた猫は、この猫神様ではありませんか?」
「そうです、この猫です!」
謎の声騒動のおかげか、いつの間にか涙は引き、硬直が解けている。
そうと分かった私は、すぐさま行動を開始した。
「あの時は本当にありがとうございました! そして、その時にお礼が言えなくて、今まで待たせてしまって申し訳ありませんでした!」
全力で感謝と謝罪を述べる……土下座の姿勢で。
『随分と騒がしい娘に育ったもんだねぇ』
「ところで本当に、猫神様が喋ってるんですか?」
『正確には声を出してる訳じゃ無いがね。いわゆる念話の類さ』
「……凄い。猫神様にまた会えただけじゃなく、お話しまで出来るなんて」
「ええ、本当に凄い事ですよ。ここ最近では、猫神様の声が聞こえるのは僕だけでしたからね」
「それに、私を覚えていてくれてたんですね」
『なぁに、数年前なんざアタイにとっちゃ昨日とさして変わらんさ』
「あの、私に出来る事は有りませんか? 気持ちだけじゃなく、猫神様に何か恩返しがしたいんです!」
『近い、近いって! いいから離れな!』
またやっちゃった。テンションが上がるとどうも相手に詰め寄っちゃう癖があるみたい。
改めて元いた位置に戻り、再びおにぎりに手を伸ばす。
猫神様は何と、私の膝の上に頭を預けてくださっている(全身は大き過ぎて乗せきれなかった)。
『ふぅ……さて夕美、アンタさっき何でもするって言ったよね』
「そこまでは言ってません」
『アンタにうってつけの頼みがあるのだが』
「何させる気ですか!」
『コイツと、武史と仲良くしてやってくれないかい?』
「「え?」」
私と河津君の声と表情がきれいにハモった。
『コイツはどうも猫に寄りすぎててね。時々自分が人間である事を忘れてる節すらある程さ』
「ああ……」
ちょっと心当たりがある。
『だからコイツには、同じ人間として接する、身近な存在が必要なのさ』
「……必要ありませんよ、そんなもの」
「えぇ、良いじゃない。せっかくこうやって縁ができたんだしさぁ、一緒に猫ちゃん達の世話しようよ」
「もう一度言います。僕には近しい人間など必要ありません」
そう言って河津君は、食器を持って立ち去ってしまった。
『ふぅ……本人があの調子だからねぇ。正直無理にとは言えないし、骨が折れるとは思うけど、そばにいてやってくれないかい?』
「はい、もちろんです」
出合ってまだ間も無いけど、何となく分かる。
彼は素直で優しい良い子だ。もし何か困っているのなら、力になってあげたい。
『アタイに会いに来たって言えば、アイツも無下には出来ないはずさ。頼んだよ』
「はい!」
こうして私は、新しい目的に向かって歩み始めた。
ここで終える事も考えましたが、もう少しだけ続けます。




