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ダンジョンの構造については、ところどころ傾斜はあるものの概ね平面的に広がっていた。平面的なのは地層に沿って広がっているせいなのだろうか?
平面的だということは、地上に出るためには上の階層へ上る道を見つけないといけないということだ。急斜面とか縦穴とか、そんなものがどこかにないか。
最初のうちは行き当たりばったりで探索をしていたけれど、だんだんどこを歩いていたか分からなくなって来たので、途中から壁に印をつけながら進むようにした。そうすることで、探索する道を見落とさないように気を付けたのだ。
例えば、分岐があれば、まず右側の道から探索を始める。その時、元来た道と右の道に印をつけておくのだ。そうすれば探索をして戻ってきたときに次にどの道を探索しなければいけないかすぐにわかる。
そうやってすべての道を探索していけば、いつかは上に続く道を見つけられる。はずだったが……。
――あれー。また印がついてるよ。
――なんか、さっきからぐるぐるおんなじところを回ってるだけみたいな気がする。
――うーん。よし、じゃあ、こっちに行ってみよう。
――ちょっと待ったっ。
私はKYがどんどん進んでいこうとするのを引き留めた。
――そっちはもう一度見たよ。
――でも、見落としがあるかもしれないよ。
――この辺はもう十分見たし、これ以上探しても無駄なんじゃないかな。
――だったら、私はどこを見ればいいと思うの?
KYの言葉に私ははたと考えた。もう大方この階層は探索をしてしまっていて、新しい道も見つからなくなってきていた。これまで見たところでは上にも下にも行く道は見つかっていない。要は出口がないのだ。
もう一度すべての道を印を新しく付け直しながらより詳細に確認しなおすということも案ではあるけれど、一度探索済みであることを考えれば出口が発見される可能性は低い。それよりも、私にはもっと確実なアイデアがあった。むしろ、どうしてこれを最初に試さなかったのか。
――私が最初に落ちてきた縦穴を登ればいいんじゃない?
――……、その手があったか!
一番最初にこのダンジョンに落ちた時に落ちてきた縦穴なら、確実に地上まで続いているはず。そうじゃないと地上から落ちてくることができないのだから。
落ちてきたすぐは真っ暗でどこをどう進んだらいいか分からず、チョウチンヤモリの明かりを手に入れた時にはすでに横穴に入っていた。その時点で、その横穴を探索することに意識が向かってしまって最初の縦穴のことをすっかり忘れてしまっていたのだ。
――で、あの縦穴ってどこにあるんだっけ?
――落ちてきたときの檻があるはずだから、それを探せばいいんじゃない?
――そうか。じゃあ、……、どっちに行けばいいかな?
――えーっと、じゃあ、こっちから調べてみる?
探索を進めるうちに元の縦穴がどこにあったかすっかり分からなくなってしまっていたので、今度はそれを探すために奔走することになったけれど、縦穴の下には鉄檻があると分かっているので探索ははるかに容易だった。
そして、これまでの探索にかけた時間の何分の1かの時間で元の縦穴に戻った私は、チョウチンヤモリの尻尾の淡い光で縦穴の上の方を照らしてみた。
――見えないね。
――うん。見えない。
黒い穴がぽっかり空いたように何の光も帰ってこない天井を見上げて、この場所が本当の本当に底の底であることを改めて思い知らされた。
壁沿いに歩いてみると縦穴はかなり大きいことが分かった。直径は10メートルくらいはあるのではないかと思う。壁には多少の凹凸があるが、これを手掛かりに上れるかどうかは分からない。
というか、上が見通せないほどの高さの壁をフリークライミングで登り切るなんてどう考えても無謀じゃないだろうか?
――もしかして、ロッククライミングの経験とかある?
――知ってて聞いてるよね。
もちろんそんな経験はない。それどころか、木登りさえまともにできた記憶がない。
とりあえず、私は腕触手を全部伸ばして壁面の手掛かりに絡め、体を持ち上げようと力を込めた。
――いたた、痛い痛い。腕が千切れる。
腕触手は全く力仕事には向いていないということが判明した、というか、知ってた。見た目通りの細腕で耐荷重が低すぎるのだ。それから、大変遺憾ながら、私の体は触手になってからかなり重量を増してしまっている可能性もただの可能性と看過することは甚だ難しいと言わざると得ないと誠に恐れながら具申せざるを得ないと云々。
――ダイエットしよう。
――そうだね。
珍しくKYと意見が一致したところで、再度壁のぼりに挑戦した。今度は腕ではなく足の力をメインに登ってみることにした。