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腕を適当な凹凸に巻き付け、足触手を伸ばし先端を壁の出っ張りにひっかけてぐっと力を込めた。でも、私の体は持ち上がるどころか、逆に足触手の方がぐにゃりと曲がって壁にぺったりと張り付いてしまった。どうも、人間の足のように爪先で出っ張りをとらえて登るということはできなさそうだ。
――あー、やっぱりだめ。
――ううん、このまま行くよ。
――え?
KYは私の体を操って勝手にそのまま壁に足を付けてすり足で登り始めた。実は、ヒルの足はこっちの歩き方の方が本来の歩き方だ。ヒルの足触手は少しなら持ち上げることもできるが、基本的には足を上げずにすり足で進むのだ。もちろん、歩くのは地面だけだ。
――ちょ、やばいって。これ、足がどこにも引っ掛からないからすぐ落ちちゃうよ。
――大丈夫。この体なら落ちても大した怪我にはならないよ。
――そんな問題じゃないよっ。
抗議してもKYがどんどん壁を登ろうとするので、私は腕触手で壁にしがみつくように出っ張りをつかんだ。もし足が滑ってしまったら腕触手だけで体重を支えることはできないことは分かっているけれど、それでも何もしないわけにはいかない。
そして、とうとう、3本ある最後の足触手が完全に地面を離れてしまった。
――あれ、落ちない?
――この足、壁にぴったりくっつくみたい。垂直の壁でも全然平気だよ。
なおも壁にしがみつく私に対し、KYが腕触手の主導権を奪い取って手を壁から離させようとした。
――何するのっ!
――だから、大丈夫だって。
――あ、ちょ、やめっ……。
とうとう完全に手が壁から離れると、私は思わず目を瞑った。そして、何事も起きないことを確認してから恐る恐る目を開けた。手は完全に壁から離れているのに、足だけで壁に張り付いていた。
――ね、落ちないでしょ。
――本当だ。
KYは得意げな顔でこっちを見ると、手を離したまま壁を登り始めた。足触手の吸着力はかなり強力なようで、ちょっとくらい体が揺れても全くびくともする気配すらない。
――こんな簡単なら、初めから壁を登ればよかった。あのダンジョン探索は意味なかったじゃん。
――全くだね。
手放しで体を起こしゆらゆらと揺れながら垂直の壁を登っていくのは、地面が遠くなるにつれ一層怖く感じるけれども、同時にこんな簡単に縦穴を登れるならもっと早くにやっておけばよかったという思いは禁じ得ない。
穴がどれだけ深いといっても水平に進む距離よりはずっと短いはずなので、このペースで登っていけば1日もかかるなんてことはないだろう。せいぜい半日もすれば地上に戻れるんじゃないだろうか。
――で、戻ったらどうする? どうやってみんなをぎゃふんと言わせるの?
――それは、……、まだ考え中。
――そうだね。私だったらー、学校関係者全員を鉄檻に入れてダンジョンに落としてやるかな。
――大量虐殺だよ!
KYがなんかすごい怖いんですけど。いや、私も恨みはあるから同じ目に合わせてやりたいと思わなくはないけど、さすがに全員って言うのはやりすぎじゃあ……。
――だって、私はそれだけのことをされたわけなんだから。
――さすがに全員ってのはやりすぎなんじゃ。私はそこまでしたいわけじゃないよ。
――じゃあ、私はどうしたいの?
――んー、そうだね。……、とりあえず、吉子と現寺くんにはどうして私を助けてくれなかったのか聞きたいかな。
KYに聞かれて私は思わず2人の名前を出していた。
学校からダンジョンに連れていかれそうになって必死に抵抗していた時、2人の顔を見た私は本当に地獄に仏を見た気持ちだったのだ。2人ならきっと味方になってくれると信じていた。なのに、2人は私をおぞましいものを見るような目で見て罵った。
私には何よりそれが情けなく悔しく悲しかったのだ。
――よし。じゃあ2人をダンジョンに落とそう。
――何でそうなる……、ひゃぁっ。
話しながら壁を登っていると、突然上に伸ばした足触手の1つがずるっと滑った。反射的に腕触手を伸ばして壁の出っ張りを掴もうとしたがそれも滑って掴めなかった。
幸い、残りの2つの足触手は壁にしっかりついていたので転落ということはなかったが、もしこの高さから転落するようなことがあれば即死しても不思議はない。前のように鉄檻に守られているわけではないのだから。
――しっ、しっ、死ぬかと思ったぁ。




